新入会員紹介

入会のご挨拶

菅原和也

 はじめまして。このたび日本推理作家協会に入会させていただきました、菅原和也と申します。二〇一二年に『さあ、地獄へ堕ちよう』という作品で「第三二回横溝正史ミステリ大賞」をいただき、デビューしました。よろしくお願いします。
 推薦してくださった北村薫先生、法月綸太郎先生、おふたりにはこの場を借りて感謝いたします。
 推理小説の賞を受賞してデビューし、こうして推理作家協会に入会させていただいておりますが、自分のそもそものルーツがどこにあるかといえば、SFとホラーなんだと思います。というのも、ぼくが育った家の本棚は、手塚治虫と藤子・F・不二雄と楳図かずおの本が九割を占めていました。完全に親の趣味です。漫画ではありますが、これがぼくにとっての初めての読書体験であり、ぼくという人間の基礎を作る要因になっているのだと、今でも思っています。同級生がスラムダンクや幽遊白書を読んでいるときに、ぼくは『おろち』や『異色短編集』を読み、友人たちがかめはめ波の練習をしているときに、ぼくは『奇子』を読んで「なんだか意味はよくわからないけれどすごく危険な香りがするぞ!」とドキドキしていました。きっと気色の悪い子供だったはずです。
 小学校低学年のころからインドアで、そのくせテレビゲームが下手くそだったぼくは、漫画に飽きると自然と小説を読むようになりました。が、そのときもやはりSFやホラーばかり好んで読んでいたように記憶しています。推理小説といえば横溝正史の有名所を読むくらいで、しかも当時小学生だったぼくの中では、それらはどちらかといえばホラーの同類という認識に近かったと思います。推理小説が持つパズラーとしての性質より、おどろおどろしい、妖しげな雰囲気に魅力を感じていたんでしょう。
 推理小説の『推理』たる部分の魅力に目覚めたのは、中学生のときでした。
 あのときの衝撃はいまでもはっきりと脳裡に焼きついています。殊能将行先生の『ハサミ男』。最後まで読み、その構造を理解した瞬間、比喩でもなんでもなく脳天に電撃が走りました。きっと、もう二度とあんな体験はできないでしょう。当時本格ミステリというジャンルをまだ知らなかったぼくにとって、それくらい衝撃的な読書体験だったのです。
 そこからは一気に推理小説に嵌りました。新本格、古典、クライムノベルやノワール。推理、ミステリとつけばなんでも読みました。もともと不登校気味ではあったのですが、学校にも行かずに推理小説を読み漁り、そのせいで親とトラブルになることもたびたびでした。とにかくひたすら読書に没頭していた時期で、ある意味ではものすごく幸せな時期だったと思います。
 そんな感じで、質の良い本との出会いに恵まれたぼくですが、ぼく自身の生活がどうだったかといえば、中々酷かったと思います。
 小学生のころから半不登校のような状態で、なんとか地元の高校に進んだものの、半年足らずでやっぱり行くのが嫌になり中退。だから最終学歴は中卒です。しばらく引きこもりをやったあと、遊ぶ金欲しさに飲食店でバイトをしたり、無職になったり、調理師免許を取ったり、無職になったり、上京してバーテンダーをやったり、無職になったり、水商売をしたり、やっぱりまた無職になったり。とにかくまあ、一言で表現すると、ダメ人間なのです。周囲の人の助けがなければ、ぼくはとっくの昔に野垂れ死んでいたことと思います。
 そんな飽き性で根気のないぼくですが、一つだけ続いたのが、読むことと書くことです。きっと良書に恵まれたおかげでしょう。
 はじめて自分で「推理小説を書いてみよう」と思ったのは十六のときでした。当然、いきなりまともな作品なんて書けるはずもなく、できあがったのは小説とも呼べない自己満足の塊のような文章でした。それでも飽きずに書き続け、十九歳から二十歳のあいだにとある新人賞に応募したところ、編集者の方とお会いするところまではいきました。が、なかなかうまくいかず、不貞腐れたぼくは新人賞に応募することをやめました。
 小説を書くことは個人的な趣味にしよう、と思ったのです。
 それでも、小説を読み、書くことは続けていました。賞に応募もせず、誰にも見せず。無職の期間が多いので、時間はいくらでもありました。
 二、三年が経って、久しぶりに応募してみよう、と思ったのはほんの気まぐれでした。結果的にその気まぐれで作家としてデビューしているのだから、世の中なにがどうなるかわかりません。謎です。
 これまでに三作出版させていただき、こうして推理作家協会にも入会させていただきましたが、不思議なことに、書けば書くほど、考えれば考えるほど、小説というものがよくわからなくなっていきます。いつの日か、自信を持って「推理作家です」と名乗れるときが来るのでしょうか? これもまた謎です。
 人間としても作家としてもまだまだ未熟ですが、生温かい目で見守っていただけるとありがたいです。