新入会員紹介

新入会員挨拶

篠谷巧

 皆さま、こんにちは。このたび日本推理作家協会に加わらせていただきました、篠谷巧と申します。入会をご承認くださり、ありがとうございます。
 私は二〇二二年に「この文庫がすごい!」大賞を受賞し、二〇二三年に受賞作『君のいたずらが僕の世界を変える 食べもの探偵トモアキの事件簿』で作家デビューしました(グルメミステリーのようなタイトルですが、自身の脳内世界に閉じ込められた漫画家をインディーゲーム開発者が救おうとするSFコメディチックな内容です)。
 いかんせん著作がまだ一作しかない新人なもので、キャリアについてはあまり語ることがありません。ので、それ以外の部分で自己紹介をすると、現在私はゲーム翻訳者として英日翻訳の仕事をしています。携わるタイトルにはストーリーに力を入れたものも多く、自作の執筆以外でも常に物語や文章に触れていられるのは幸福なことではないかと感じる次第です。
 さかのぼってそれ以前には、美術予備校で学科の講師をしていたことがあります。美大受験を志す生徒や、自身の作品制作も行っている実技講師陣に囲まれて過ごしていると、「自分も何か作りたい!」という気持ちになるもので、こう書いてしまうと恐ろしく単純なようですが、本腰を入れて小説を書き始めたのはこの頃に受けた刺激が大きいです。
 とはいえ創作行為への興味はそれ以前にもあり、大学時代にも小説を書こうとしたことはありました。きっかけは「自分探しの旅」と称して私の苗字(ペンネームではなく本名の)と同じ名を冠する地域へ遊びに行った時のことです。列車旅であったため、移動中に何か読むものを、と旅先で購入した古川日出男先生の『LOVE』に大きな刺激を受けました。それまでも読書はしていましたが、「自分もこういうのを作りたい!」とダイレクトに影響を受けた度合いでいえば、この時が私の中で最大だったように思います。「自分探し」と称した旅の途中であったことも心理的に影響がありそうです。しかしこの時の挑戦は実らず、下手な真似事をするばかりで何かを完成させることはできませんでした。
 さらにさかのぼって高校時代にはバンド活動をしていたことがあり、ザ・ローリング・ストーンズのコピーなどをしつつ、オリジナル曲も制作していました。中学時代には漫画を描いていたこともあります。こと物語に関していえば、中高生の頃に強い憧れを抱いていたのは小説家でも漫画家でもなく、脚本家のチャーリー・カウフマン氏でした。これは書き上げたあとに気づいたのですが、前述した私のデビュー作は、脳内世界の扱いにおいて『エターナル・サンシャイン』の影響があったように思います。
 さらにさらにさかのぼると何があるだろう? と考えると、創作物をただ楽しむのではなく、作り手の技巧を意識し始めた時期があるように思います。おぼろげに覚えているのは、小学生の頃、ドラマ『古畑任三郎』シリーズを観ていた時のことです。どのエピソードだったか定かではありませんが、確か、自動販売機をめぐるコミカルなやり取りがあり、ただの笑いどころかと思いきやそこが伏線だった……といった箇所があり、その構造に気づいて「こうやるのか!」と興奮した記憶があります。笑いに伏線を忍ばせる、というとミステリーの話に思えますが、何かに二つ以上の意味を持たせること、と一般化すれば、象徴性を意識した読み解きなど、その後の物語摂取の下地になる大きな気づきだったとも解釈できそうです。
 掘り返せばまだまだ語れそうですが、「根っこにはミステリーがあったのだ!」というところで終わっておきたいと思います。つまり結論はこうです。今の自分は、思っていた以上にこれまでの自分と繋がっている。当たり前の話ですが、デビュー作という具体的な結晶があったからこその実感があります。そしてそれは、私にしか作れないものがあるという励みにもなります。この組み合わせで構成された私だからこそ作れるものを、今後も作り続けられたら幸せです。どうぞよろしくお願いいたします。