新入会員紹介

新入会員挨拶

門賀美央子

 昨年八月に入会しました門賀美央子と申します。
 まずは千街晶之理事をはじめ、入会にお力添えくださった方々に感謝を表しつつ、皆様への御挨拶がすっかり遅れましたことをお詫びいたします。
 言い訳がましいようですが、ミステリー小説の書き手ではなく、またミステリーを中心とする評論家でもない身として、どう自己紹介すべきか考えあぐねておりました。
 もちろん、ミステリー小説は長年好んで読んできております。しかし、当協会のお歴々の前では「ミステリー読みです」とは口が裂けても言えないレベルです。おそらく義務教育修了程度、いや、それ以下かもしれません。お恥ずかしい限りです。
 そんな私でも、ミステリーの領域に近づいて仕事をする機会が三つほどあります。
 一つ目はライターとして、作家の皆様にインタビューした記事や、作品のレビューを書くとき。
 二つ目は某ミステリー系公募新人賞の下読みと、その賞の選考会を記事化するための記録者として陪席するとき。
 そして三つ目は「ミステリマガジン」の年末恒例行事「ミステリが読みたい!」ランキングに参加するときです。
 一つ目は主に「ダ・ヴィンチ」誌が舞台となりますが、長年同誌からのお声がけが続いているおかげで、錚々たる面々にインタビューをする僥倖を得ました。お名前を列記するとキリがないので差し控えるものの、協会員名簿を拝見しておりますと、お世話になった方々のお名前が散見します。この場を借りて改めて御礼を申し上げたいと存じます。
 二つ目はかれこれ十五年以上続けています。ここでの見聞がどれほど貴重であるかは筆舌に尽くしがたいところです。
 初めて参加した選考会で選考委員を務めていらっしゃったのは綾辻行人さん、有栖川有栖さん、光原百合さんのお三方でした。綾辻さん、有栖川さんの視点の鋭さ、厳しさに戦いたのは今でも強烈な印象として残っていますが、同時に光原さんの作品や作者へのあたたかい、包み込むような評も忘れられません。これが御縁となり、先年他界されるまで何度もお人柄に触れることができたのは本当に幸運でした。もうお会いできないのが寂しくて仕方ありません。心よりご冥福をお祈りいたします。
 さて、本選考が「最高の一作を選ぶ」議論の場とすれば、下読みは「最低限の質を担保しつつも可能性が仄見えれば通す」のが役割と心得ています。近ごろは通過作としたものが最終選考に残る確率が上がってきたので密かに喜びを感じているのですが、それ以上に役得なのが〝ミステリーのトレンド〟をいち早く察知できる点です。
 公募だけあって応募作は玉石混淆です。しかし、それでもなお時の流行といいますか、時代の空気ははっきりと感じられます。
 十五年ほど前、団塊の世代がリタイア期に入った頃は、実見に基づくと思しき職場/職業ものが雨後の筍状態でした。ですが、震災後は絶対的な理不尽に翻弄される人々の物語が増え、今はルサンチマンをあらゆる方法で韜晦して描く作品が多いように感じています。こうした水面下の変化を肌で感じられるのは、下読みならではのおもしろさなのでしょう。
 事程左様に私とミステリーの関わりは縁の下の力持ち……ならぬ縁の下の力不足に過ぎないものの、真ん中ではなく周縁からシーンを眺める人間も必要なのだと自分に言い聞かせています。三つ目はそれを実践する場として、毎年ありがたく拝命しています。
 憚りながら拙作に『文豪の死に様』という一冊がございます。タイトル通り日本近代文学の文豪たちの人生を、死を出発点に逆進して読み解く試みをしているのですが、その過程で浮かび上がってきたのが、後世に名が残るかどうかは作品の優劣ではなく、文学史上にどう記述されるかであり、それは同時に記述しようとする人間がいたかどうかを意味する、という事実でした。
 どれほど素晴らしい作家でも、意図的に顕彰しようと動く人間がいなければ、時の層に埋もれてしまいます。往時の大ベストセラーも、今では研究者以外誰も知らない、なんてことは珍しくありません。私のような周縁の人間にできること、あるいはやるべきことは、まさにこれを防ぐための〝記述〟なのだと思っております。
 ミステリー界にはすでに幾人もの優れた評論家がいらっしゃいます。ですので、私などが出る幕はほとんどありません。しかし、私が比較的長く親しんできた幻想文学や恐怖文学、怪談の世界から眺めれば、また少し異なる記述ができるかもしれません。この文脈での卓越した評論がすでに存在しているのは承知しています。その上で、せっかく日本推理作家協会に入会したからには、私も何らかの形で貢献できればと思っております。
 最後に宣伝で恐縮ですが、『文豪の死に様』の巻末では京極夏彦さんと対談させていただいております。京極さんが大変含蓄のある話をしてくださっていますので、よろしければ御高覧くださいませ。
 そして、もしどこかでインタビューなどさせていただく機会がありましたら、その時はどうぞお手柔らかにお願いいたします。