一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

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  • 長編及び連作短編集部門愚者の毒宇佐美まこと
  • 短編部門黄昏薬丸岳
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1956年 第9回 日本推理作家協会賞

1956年 第9回 日本推理作家協会賞
受賞作

きつねのとり

狐の鶏

受賞者:日影丈吉(ひかげじょうきち)

作家略歴
1908~1991
東京生れ。アテネ・フランセに学ぶ。
一九四九年、「宝石」の懸賞に「かむなぎうた」が二席に入選。幻想的な独特の作品世界を展開し、五六年、「狐の鶏」で日本探偵作家クラブ賞を受賞。主な長編に「真赤な子犬」「内部の真実」「応家の人々」など。フランス・ミステリーの翻訳も多い。短編集「泥汽車」で泉鏡花文学賞を受賞。探偵作家クラブの幹事長や推理作家協会の理事を務める。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

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 昨年十一月号会報に記載の通り、クラブ賞は、阿部主計、香住春吾、中島河太郎、萩原光雄、渡辺啓助、渡辺剣次の六氏が予選委員となって、卅年度作品中より候補作品を提出していたが、それも決り、去る二月廿一日、田村町のキムラヤでクラブ幹事会を開催、別記候補作品二十三作から、日影丈吉氏「狐の鶏」(宝石十月号)を本年度クラブ賞作品と決定した。
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選評

江戸川乱歩[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 新人と云っては少しおかしいが、既受賞者と否を問わず、すでに大をなしている作家のものを除いては、候補に上げられた新らしい作家の作品は、日影、大河内、香住、鷲尾の四君のものであった。
 日影君の「狐の鶏」と大河内君の「クレイ少佐の死」は描写力に於て際立っていた。共に珍しい世界を描いているということで、いくらか得をしていると思うが、しかし、そういう事を別にしても、力量抜群だと思った。この二編を比べると、「クレイ少佐の死」には、筋の上で何か納得できないような所があって、それが可なり大きな欠点となっている。せっかくに描写力を惜しいものだと思う。「狐の鶏」にはそういう欠点がない。筋が平凡で、探偵小説的な満足感は余り得られないが、それは「クレイ少佐」の場合のように欠点とは云えない。田舎の一つの事件を描いたものとして、これはこれで完成している。だから描写力のすぐれている事が何の邪魔もなく感受できるのである。そういう意味で「狐の鶏」が入賞したことは当然と云えよう。先の短篇「かむなぎうた」の異様な味わいには、私は鋭く感心した。「狐の鶏」にはあのような異様な性格はない。だから私はあれほど鋭くは感心しなかった。しかし、どちらが大人らしいかと云えば、この方が大人らしいのであろう。進境を示しているものと云ってもよいのであろう。
 だが、この二つの作品から、私は探偵小説固有の面白さというものを余り感じなかった。探偵小説の親戚筋の怪奇文学の面白さもほとんどなかった。「クレイ少佐」の方には、何となく怪奇なところがあったが、それが曖昧模糊としているので心をうたれるまでには至らない。
 香住君の「鯉幟」と鷲尾君の「文殊の罠」には、着想なりトリックなりの創意があって、面白さではまさっていた。私は殊に「鯉幟」に感心した。大人をお馬にして乗りたがる幼児のくせ。重病の母がせがまれて、苦しいのをこらえて馬になってやる。そのために死亡し、幼児が意識せざる殺人者となる。この物のあわれのようなもの、「無邪気なる残虐」の着想が私には非常に好もしかった。若し賛成者があれば、これを入賞にしてもよいと考えたほどである。しかしこれを一席とする賛成者はなかった。
 「文殊の罠」のトリックは大がかりで奇抜なので、その点が印象的だけれど、論理がもう少しこまかく行きとどいていないと、こういう突飛なトリックの場合は、どこかに隙ができ、粗雑な感じを与える。筋の上でも心から感心するまでに至らない。それから文章に不満がある。地の文もそうだが、殊に会話が凡庸に感じられた。冒頭の一二頁など最もそうである。
 妄言を謝するが、以上が四篇に対するいつわらざる感想である。「鯉幟」がさして問題にされなかったのは惜しいように思うけれど、「狐の鶏」の力作感と、すぐれた描写力は、萬人の認めるところにちがいないのである。
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大下宇陀児[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 渡辺啓助君の「クレオパトラとサロメ」が宝石の三十年一月号に載った時、私はこの小説の美しさに感心した。同時にこれは、クラブ賞作品の候補になることを豫測した。
 果して、候補作品にはなったけれども、それ以上の「狐の鶏」が出てきたのである。
 ほかに、私の目にとまったのは、角田喜久雄君の「二月の悲劇」であるが、較べると、やはり「狐の鶏」の方がよいのだと思った。
 角田君のものは、さすがに年期を入れた作家のもので、小説的なうまさでは、以上三つの作品のうちで第一だろう。
 渡辺君のものも、うまくないわけではなく、そのくせ、読者に迫る力が希薄なのは、リアリティの希薄性からくるものではないのか。ついでにいうと、いつもそれはこの人の作品にあるものである。常に何か美しい夢を見ようとしている。そこに特徴もある代りに、読者を同じ夢へ引っ張り込むだけの力が足りぬことも、しばしば感じられるのである。
 日影君のものは、力のこもった大作で、田舎の貧農の家に起った殺人を通じ、その貧農の生活を描き分析しているところに、作者の意慾が感じられ、たしかに、クラブ賞に値するだけの作品だと感じられるのである。一部には、探偵小説的要素に乏しい、という非難もあったようであるが、もっと歴然と探偵小説的要素を出すこともできたはずのものであり、それを出さなかったのは、作者の技巧の問題になるのだろう。そこまで技巧を練らなかった、ということは、作者の不用意であるともいえるが、同時に、この作者が、純粋だということにもなると思う。
 この作者は、「かむなぎうた」を前に書いている。
 それは数年前だった。私はその時すでに、すぐれた作家だと思った。もしかしたら、小説としては「かむなぎうた」の方が、今度のものより完成されたものであったかも知れず、しかしあれは、今度のものよりも、もっと探偵小説的要素が乏しくて、受賞作品にはなれなかったのである。
 日影君に申す。探偵小説的要素に富む作品を、もっと書くことを練習したまえ。そして、探偵小説的要素など、勇敢にけとばした作品もドシドシと書きたまえ。 (一九五六、三、一九)
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角田喜久雄[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 何時でものことだがクラブ賞の選にあたっては、既授賞者や旧既成作家と新人とを同一において論じることがいいかどうかということが問題になる。今度も、大下氏からクラブ賞は新人賞にしてはどうかという提案があり、私は勿論大賛成、他の人達も同意見であった。大体授賞ということは、それによって何かプラスするような人にやるのでなくては意味がないというわけである。ところが、いざとなると、色々の問題が出てきてそう簡単にはきめられない事情があったりしてなかなか結論に達しない。 
 しかし、私は日影君の「狐の鶏」を第一候補にして大河内君の「クレイ少佐の死」を予備に用意していた。「狐の鶏」は公平に見て決してクラブ賞の価値を低からしめるようなものではないという自信をもっていたので、選の規定をどうするかということは一先ずおいて、私は是非この作品を推したいと提案したところが、直ちに大方の賛成者を得てすらすら決定したことはうれしかった。
 探偵小説の定義については、色々論もあろうが私としては各人がそれぞれの才能に応じてあらゆる方面を開拓してゆくべきだと考えている。日影君のこの作品は、前人未到とはいわないが兎に角新しい方向へ踏み出してゆこうとする真面目な努力のこもった力作であって、この辺から日本の探偵小説も新しい「■■きり」をするようになるのではないかと大いに楽しみを感じている。
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渡辺啓助[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 日影君の「狐の鶏」は、探偵小説のマンネリズムから脱却を試みた作品であることを、私は何よりも嬉しく思った。既成作家の影響をできるだけ排除し、ひたすら自分自身の中に立てこもって書いたと云う感じである。
 舞台もひどく地味で、カフエーだの、キャバレーだのと云う派手な道具建てはまったくない。長塚節の「土」を想わせるような暗さをよく堪え、それを克明に描きあげようとする行き方は、これまでの新人とは、たいへん趣きを異にしていた。
 作品として完璧という意味ではない、なお幾つかの欠陥があるにしても、私は、ともかくも日影君の目ざした新しい方向に敬意を表するものである。
 この境地を開拓し、一通り征服したら更にもっと飛躍するであろう日影君を期待したい。昨年十二月の「宝石」にかゝれた「変身」風なものを、私自身の好みからすると、先ず推したい気がしたのだがそれはあまりに短すぎたので「狐の鶏」を私は選考の第一位に置いた。つまり「変身」のごとく重厚である作風を日影君に期待したい。これは欲張りすぎるであろうか。
 選考の第二位に大河内君の「クレー少佐」をおいた。私はずっとあとになって読んだ。私より先に女房が読み、彼女にすゝめられるまゝに読んでみるとなるほど筆力もたいへん伸びているので(難点はあるにしても)一応感心した次第である。(などとたいそう先輩みたいな口をきいてごめんなさい)朝山、鷲尾、両君の精進ぶりについても申述べたいが、余白がないので、後日にゆずります。
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香山滋[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 「かむなぎうた」でデビューされて以来、私は久しく、日影丈吉氏に注目しつづけてきた。
 氏は、しぶく、じみに、氏自身の行く道を歩みつづけ、そして時には「冬の薔薇」のような佳作を見せてはくれたが、総体には、なぜかパッとしなかった。
 一時は、明治開化ものに逃げるのではないかと危ぶまれたり、ひどくフランス仕立てのめんどうくさいものに悩まされたりしてきたが、近年めっきりスマートになった。
 これは・・・と思っているところへ、美事な巨弾が放たれた。
 私は、その「狐の鶏」を高く評価する。
 由来、日本の農山村を探偵小説に扱うのはまことに困難であり、たとえ成巧しても、とかく旧家豪家の因果物語になりやすい。こうして、ごくありふれた解放的な田舎を舞台として、近隣家族関係だけで純粋な探偵小説を構成している点は、ひとつの新風を生んだものといって過言ではあるまい。
 特に罪を犯したと信じ込んでいる主人公の心理、行動の追究が、重厚な点景描写と相乗して、素晴らしい効果を出している。
 ただ、すこし息苦しかった。これではあんまり、現代の農村として暗過ぎる。もうちょっと息抜きの窓を明けて、登場人物のすべてが背負いこんでいる荷を軽くしてやっても、決して破綻は来たさなかったであろう。
 今回の受賞を祝し、更に期して筆硯の新たならんことを!
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香住春吾[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 昨年十月号の宝石で「狐の鶏」を読んだとき、してやられたなと思った。同時にこれはほんものだとも思った。そして逢う人ひとに「狐の鶏」を読むよう勧めた。
 今年の始めに二つの新聞社から「探偵小説ブームと探偵文壇の動向」という殆ど同じテーマで意見を求められた。そのとき私は、探偵文壇の傾向を知る材料として、宝石十、十一月の二冊をお読みなさい、といい、そして「狐の鶏」はその最も優れた作品である。探偵小説もここまで大人になりましたといった。
 年鑑とクラブ賞の詮衡を命じられたときも、「狐と鶏」を上位に推し、これが採決されることを信じていた。だから私としては賞の決定を聞いて、大いに会心の笑みを浮べている次第である。
 日影さん、おめでとう。
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その他

氷川選考経過を見る
 二月のクラブ例会は恒例により、昭和三十年度探偵作家クラブ賞の授賞式に切りかえて、上巳の節句にあたる三月三日(土)午後五時より、いつもの虎ノ門晩翠軒で開催された。雪もよいの雨天ながら、定刻となるや場にみつるほどの集まりとなり、大坪幹事長立って開会のことばをのべる。次に授賞決定までの銓衡経過につき萩原光雄氏簡単に報告、それより木々会長、日影丈吉氏に本賞ならびに副賞を満場喝采のうちに授与した。多年の精進の結果この栄誉かがやく日影氏の顔には、包みきれないよろこびがうかんでいた。
 つづいて、江戸川名誉会長の発声にて来会者一同起立、ビールにて乾盃、日影氏の授賞を祝した。それより、木々会長、江戸川名誉会長、角田副会長、渡辺、城、香山、島田、永瀬の諸氏逐次起って、祝辞ならびに授賞作について感想のスピーチを行い、日影氏の前途を祝福かつ激励した。最後に日影氏より感謝の挨拶があって、めでたく式は終了をつげた。
 なお、このあと、大坪幹事長よりクラブ賞の今後のあり方について、意見をはかる旨発言、大河内常平氏はこれに対し、現状維持を希望、みだりに方針変改は如何にやと答えた。
 新人会員九重女史の紹介、ならびに北町一郎氏の諧謔味あふるる挨拶などの後、和気露々のうちに散会した。(氷川記)
 当日出席者(順不同、敬称略)五十一名。弘田、土井、城、渡辺啓助、田中、萩原、角田、江戸川、中島、近藤、佐藤みどり、大河内、土田、永瀬、永松、鷲尾、氷川、石井、黒沼、九重、長谷川、香山、斎藤、中村博、吉野、矢野、朝島、島田、木々、岡村、仝夫人、夢座、北町、朝山、吉田与志雄、富田、平井、高橋邦太郎、今日泊、山村、大坪、日影、池田、佐藤宏、清水正二郎、長谷、津川、椿、清水政ニ、千代、宇野
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予選委員

候補作

[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『月と手袋』 江戸川乱歩
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『春の夜の出来事』 大岡昇平
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『クレイ少佐の死』 大河内常平
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『白い文化住宅』 大坪砂男
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『鯉幟』 香住春吾
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『風船売り』 香山滋
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『遺花』 木々高太郎
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『東京暴力団』 島田一男
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『波の音』 城昌幸
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『死せる者よみがえれ』 高木彬光 (『死せるもの蘇れ』として刊行)
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『二月の悲劇』 角田喜久雄
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『発狂者』 永瀬三吾
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『サムの東京見物』 水谷準
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『ノイローゼ』 山田風太郎
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『廃園の鬼』 横溝正史
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『文殊の罠』 鷲尾三郎
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『クレオパトラとサロメ』 渡辺啓助
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『化人幻戯』 江戸川乱歩
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『虚像』 大下宇陀児
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『上を見るな』 島田一男
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『人形はなぜ殺される』 高木彬光
[ 候補 ]第9回 日本推理作家協会賞   
『虹の女』 大下宇陀児