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2021年 第74回 日本推理作家協会賞 評論・研究部門

2021年 第74回 日本推理作家協会賞
評論・研究部門受賞作

まだけいすけみすてりろんしゅう こてんたんていしょうせつのたのしみ

真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみ(「Ⅰフェアプレイの文学」「Ⅱ悪人たちの肖像」)

受賞者:真田啓介(まだけいすけ)

受賞の言葉

 伝統ある賞を受賞できましたことを光栄に存じます。
 思えば、私がミステリにのめり込むキッカケとなったのは、大学生の頃にお気に入りの作家だったディクスン・カーの本が容易に手に入らなかったことでした。絶版・品切本を求めて古書店を歩き回り、気がつけばいっぱしのマニアに。やがて同人誌「ROM」などをガイドに原書にも手を出すようになり、どっぷりとミステリ趣味につかった生活を送るようになりました。
 そうした中で少しずつ書いてきた文章をまとめたのが今回の本ですが、もっぱら自分の楽しみのために書いたものを人様にも楽しんでもらい、さらには権威ある賞まで頂戴できたというのはまことに幸せな話です。
 この本が成るには多くの方々のおかげをこうむっていますが、とりわけ、土方正志、小林晋、塚田よしと、藤原義也、故・加瀬義雄の皆さんには大変お世話になりました。この場を借りて感謝申し上げます。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 第七十四回日本推理作家協会賞の選考は、二〇一九年一月一日より二〇一九年一二月三一日までに刊行された長編と連作短編集、および評論集などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて書き下ろしで発表された短編小説を対象に、前年一二月よりそれぞれ予選を開始した。
 長編および連作短編集部門と短編部門では、例年どおり各出版社からの候補作推薦制度を適用。本年度から長編および連作短編集部門では予選委員による推薦も採用した。なお、推薦枠を持たない出版社からの作品については、従来どおり予選委員の推薦によって選考の対象とした。
 長編および連作短編集部門では五十八作品、短編部門では七八八作品、評論・研究部門では二十三作品をリストアップし、協会が委嘱した部門別の予選委員がこれらの選考にあたり、各部門の候補作を決定した。
 本選考会は四月二十二日(木)午後三時より集英社アネックスビルにて一部ZOOMによるリモート参加を含め開催した。
 長編および連作短編集部門は選考委員・北村薫、恒川光太郎、法月綸太郎、馳星周、柚月裕子、立会理事・真保裕一。短編部門と評論・研究部門は、選考委員・垣根涼介、門井慶喜、深水黎一郎、薬丸岳、山前譲、立会理事・月村了衛。各部門ごとに選考がおこなわれた。
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月村了衛[ 会員名簿 ]選考経過を見る
短編部門
「風ヶ丘合唱祭事件」は、複数の委員に好感を持って迎えられたが、同時に視点の問題等難点も多く指摘された。「すべての別れを終えた人」は、コロナ禍を取り入れた作者らしい姿勢は評価されたが、設定の不自然さとトリックの無理を指摘する声が多かった。「夫の余命」は、叙述のテクニックを評価する委員がいる一方、アンフェアぎりぎりであること、人物の心情描写の粗さ等が問題視された。
 最初の投票では「#拡散希望」が最高得点であり、「ピクニック」がそれに次いだため、最終的な議論はこの二作に絞られた。「#拡散希望」は、時計のトリックの古めかしさこそ難とされたが、分かりやすい状況設定や丁寧な伏線回収、テーマの現代性等が高く評価された。同じく高い評価を得た「ピクニック」を同時受賞とする可能性も検討されたが、視点の問題を複数の委員が指摘しており、「#拡散希望」には一歩及ばぬことから、惜しまれつつも同時受賞はならなかった。

評論・研究部門
 候補となった三作いずれも徹底的に検討された。『松本清張が「砂の器」を書くまで ベストセラーと新聞小説の一九五〇年代』は、タイトルに反して、肝心の松本清張に対する記述の薄さ、多数の支持を得られなかった。
『数学者と哲学者の密室 天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』は、各論の説得力、本格ミステリへの愛情、作品そのものを論じていることが総じて好印象を与えたが、採り上げられている天城一と笠井潔とを結びつけるべき結論の不在から、評論としての物足りなさを難とする声が複数あった。
 対して、『真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅠ フェアプレイの文学 Ⅱ 悪人たちの肖像』は、作者のこれまでの集成であるが故に統一感の欠如が指摘されたが、同時に同じ理由による一貫した趣味や文学的美意識の存在は、好感を持って受け入れられた。その結果、最終的に同書への贈賞が決まった。
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選評

垣根涼介[ 会員名簿 ]選考経過を見る
[短編部門] 
「#拡散希望」─周到に張り巡らされた伏線、二転三転するプロット、回収の手堅さなど、構成に秀でている。ユーチューブの問題点を扱った現代性、そこに含まれる社会への問いかけも、物語に融合していた。この問いかけを受けての結末の付け方も、安易には情味に流されない。設定に若干の無理はあるものの、候補作中での完成度は群を抜いていた。当然これを推し、受賞となった。
「夫の余命」─骨組みは上手いし、筋運びにも無駄がないが、いかんせん文章や主人公の心情に関しては仕上げが荒い。あくまでも一般論として、アパレルのデザイナー兼経営者の一人が、このように身勝手で、かつ死にかけるほどに肥満した男を好きになるだろうか。いっそ、ミミファを3Lブランドとしたほうが、より心情に絡められたのではないか。
「風ヶ丘合唱祭事件」─連作短編の一つを、独立した話として評価しなければならないところに、この作品の不幸があった。登場人物が不要に多く、彼らへの予備知識が半端なまま、視線がやたらと散らばる。故に、文章の切り返しに推進力がない。トリックに不自然さはないが、斬新さも感じられなかった。
「すべての別れを終えた人」─個々人の設定も、細部のトリックも詰めが甘い。居酒屋店主の夫は、朝五時から零時までの開業で、いつ寝ているのか。テイクアウトデリバリーから宅配便への繋ぎも、現実的には非常に困難である。他にもおかしな部分が多々見受けられた。
「ピクニック」─視点に終始違和感があったが、これが最初から喜和子の二女の視座なら、ほぼ問題がない。文章も多少ねっとりはしているものの、こなれている。短編には必須の登場人物の少なさ、人物像の煮詰め方も良く、負荷なく読み進められた。結末も納得出来る。

[評論・研究部門]
『松本清張が「砂の器」を書くまで』─丹羽文雄と石川達三の、新聞小説に対する徹底した職業作家ぶりには、声をあげて笑った。その先達を受けての、松本清張の新聞読者を意識した小説作法や技法に腐心している記述には、感銘を受けるものがある。これを第一に推した。だが、「これは『ミステリ評論』ではなく『新聞小説論』である」という反対意見には、頷かざるを得なかった。
『数学者と哲学者の密室』─二人の作家への各論には、納得できる。が、その各論から導かれる志向には、首を傾げてしまう。両者の作風への思い入れが強過ぎるあまり、他の方向性を持つ作家に対し、今という時代での優位性を語る。評論としてはふさわしくない一線を越えている。
『古典探偵小説の愉しみⅠ フェアプレイの文学』
『古典探偵小説の愉しみⅡ 悪人たちの肖像』─A・B・コックスと他の作家に対しての、過去の評論、小説の解説の集成本であり、当然だがその論旨は、全体を通すものとしてはない。しかし、このジャンルへの長年にわたる愛情、綿密さは充分に伝わって来た。他の選考委員からも、そこは評価すべきであるという意見が聞かれ、それに賛同した。
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門井慶喜[ 会員名簿 ]選考経過を見る
[短編部門]
 一穂ミチさん「ピクニック」を推しました。母娘の愛着または執着をあらわすべく、希和子、希里子、未希などと似たような名前の人物を出したにもかかわらず読者が混乱しないのは、それだけ性格や情況がしっかり書き分けられているのでしょう。
 何より結末が唐突に見えて、じつは心理面にも丁寧に伏線が張られているのが秀逸でした。おかげで母と娘がどちらも犯人であり被害者であるという複雑な事情がすんなり呑み込めて、読後感が澄んでいる。今回はあとほんの少しでした。
 結城真一郎さん「#拡散希望」も文句なし。ユーチューバー、いなかの島、四人の子供とその親たちという材料は、短編の器に入れるには多すぎるかとも思いましたが、しかし作者はそれを機能的な文章と周到な伏線でみごとに交通整理しきった。しなやかな豪腕というべきです。
 青崎有吾さん「風ヶ丘合唱祭事件」もおもしろかった。途中まではこれを推すと決めたほどですが、終わってみると偶然への依存が致命的でした。犯人が犯行を決意したとき、まわりには道具(特にダンボール箱)がそろっていた……いまでも惜しい気がします。
 乾くるみさん「夫の余命」は、どんでん返しに驚きました。けれども驚いたあとで考えなおすと、この夫婦はそうとう極端な心理のもちぬしです。登場人物を道徳的に非難する気はありませんが、ここまで極端なものに対して作者の処置が何もないため、読後感はどんでん返し「だけ」楽しかったというものになる。選考の場で弱く見えた理由です。
 北山猛邦さん「すべての別れを終えた人」は、トリックの発想も説明も堅実には遠かったというに尽きます。この一作で評価されるのは作者も不満かもしれません。

[評論・研究部門]
 真田啓介さん『古典探偵小説の愉しみⅠ』『同Ⅱ』を推しました。長所はいろいろありますが、最大のものは「文体がある」。これは日本のミステリ評論には、というより広く文芸評論には稀有のことで、よほど意図的に自分を訓練した結果と見ました。少なくとも単なる「好きこそものの上手なれ」ではないはずです。
 この著者は、ことばの最上の意味での高等遊民です。心からの祝意と尊敬を呈します。
 飯城勇三さん『数学者と哲学者の密室』も労作です。議論のはこびが手がたく、安心して読めました。ただ対象をわずかふたりの作家にしぼったわりには一巻をつらぬく主題にとぼしく、局地戦的な比較論に終始した印象がぬぐえませんでした。
 山本幸正さん『松本清張が「砂の器」を書くまで』は清張論というより新聞小説論でしょう。作品の読みが深くないので評論としても研究としても本賞の対象たり得るかどうか疑問です。
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深水黎一郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
[短編部門]
「#拡散希望」は展開の妙と真相の意外さもさることながら、作品全体が痛烈な現代社会批判となっている点が秀逸である。戯画化され、デフォルメされてはいるものの、現実に起こりそうなリアリティがある。いきなり主人公の名前で戸惑うが、それも最後に効いて来る。アリバイ工作に若干不満な点はあったが、それも簡単に修正可能であり、受賞作に推した。
「夫の余命」の技巧は素晴らしい。ダブル・ミーニングを多用し、夫婦が互いを思いやる純愛の物語と思わせておいて、終盤見える風景ががらりと変わる展開は見事である。だが読者を騙すことだけが目的になっていて、小説として不自然な点が目に付くという意見に阻まれ、強く推し切れなかった。
「風ヶ丘合唱祭事件」は、謎解き小説をきちんと成立させようとしている点を評価した。データの提示にある程度紙幅を割かねばならないフーダニットは、切れ味が必要な短編との相性は本来良くないのだが、ちゃんと読者が犯人を当てられるように仕上げられている。ただ残念ながら、声楽のメカニズムに関して思い違いがあったようだ。
「すべての別れを終えた人」は、コロナ禍の社会情勢を上手く作品の雰囲気に取り込んでおり、今こそ読まれるべき作品であろう。できればその終末感が、トリックともっと密接に関連していれば良かった。
「ピクニック」は育児の危うさを描いて、最後まで受賞を争った。事件の真相のみならず、視点人物の正体にも愕きがあった。
 ただこの視点人物には知り得ないことも書いてあるのが気になった。また真希殺しはいいとして、未希殺しの真相を読者に納得させるには、ぬいぐるみ等の伏線が弱すぎると思う。文体も完成されているので、近い将来さらなる傑作を読ませてくれるものと期待する。

[評論・研究部門]
『数学者と哲学者の密室』を推した。天城一と笠井潔作品そのものに斬り込んでおり、評論としての深度が候補作の中では最もあった。本格ミステリを社会と結びつけようという強い意志も感じられた。願わくは二人の関係性について、もっと掘り下げて欲しかった。
『真田啓介ミステリ論集』は、著者がこれまで巻末解説や同人誌などに発表した原稿をまとめたもので、一貫した論旨が存在するわけではない。
 だがユーモアに満ちた語り口は一級品であり、インターネット等のない時代にこれだけの仕事をしたという業績に対して賞が贈られるべきという意見に、最終的には同意した。慢性的な出版不況の中、解説や書評などの仕事はあっても、単著がなかなか出せないでいる若手の評論家たちにも勇気を与える、意義ある受賞になったと思う。
 『松本清張が「砂の器」を書くまで』は、読み物としては大いに楽しめた。ただ全部で三百頁未満の本でこのタイトルで、清張の話が始まるのが百頁過ぎてからというのは、バランスが悪すぎる。作者が書きたかったのは新聞小説論であり、推理作家協会の評論賞としてはカテゴリーエラーであると感じた。
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薬丸岳[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今回、初めて短編部門および評論・研究部門の選考に臨んだが、それぞれ魅力のある作品が揃っていたと思う。
[短編部門]
「すべての別れを終えた人」─コロナ禍における新しい生活習慣をさっそくミステリーとして取り入れようとする意欲を買い、また謎の解明後にさらなるひねりを用意するなど、サービス精神にあふれた作品。ただ、物語上のロジックとしては納得したとしても、現実的に考えるとこの犯行は難しいと思わざるを得ない。また、他の可能性を考慮に入れず、探偵が知り得た情報だけで推理を進めていくのも、やや強引ではないかと思えた。
「風ヶ丘合唱祭事件」─裏染のキャラクターや語り口が魅力的でキャラクター小説として愉しく読んだが、トリックや動機については「なるほど。そうか」という以上の驚きには至らなかった。
「ピクニック」─端正な文章で構成もしっかりしており読み応えのある作品。事件の真相についてもはっとさせられるものがあったが、最後に明かされる視点人物の扱いが自分には引っかかった。ある意味何でもありの便利な視点なので、真希が知り得ることと、知りようのないことを整理して作品全体に織り込むなど、もう一工夫してほしかった。
「夫の余命」─鮮やかな反転で、巧妙に伏線も張られており、短編ミステリーとして非常に高い水準の作品だと思った。ただ同時に、大きな反転を仕掛けるために、キャラクターの人間性を犠牲にしてしまったと言えなくもないのが残念である。
「#拡散希望」─構成も、伏線もしっかりしており、意外性や社会性にも富んでいて、そして何より候補作中最もメッセージ性の強い作品だった。時代を映そうとする著者の思いの強さが受賞作として一番に推す決め手になったと思う。

[評論・研究部門]
『松本清張が「砂の器」を書くまで』─『砂の器』を書いた前後の新聞小説のありようや社会情勢を通して論ずるという切り口がおもしろく、自分としては一番興味深く読んだが、強い反対の声もあり、推しきれなかった。
『数学者と哲学者の密室』─世代も作風も異なる天城一さんと笠井潔さんについて、それぞれの作品だけでなく評論や社会批評にまで踏み込みながら緻密な考察がなされており、読み応えのある作品だった。ただ、おふたりの作品に馴染みの薄い自分には評価が難しいというのが正直な感想だった。
『真田啓介ミステリ論集』─未訳のものも含めてかなりの数の作家・作品が網羅されており、かなりの労作だと感じた。評論・研究というよりもガイドブックとしての側面が強いのではないかという思いが若干あるものの、著者の語り口から海外ミステリーへの惜しみない愛が感じられる良書として、受賞に賛同した。
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山前譲[ 会員名簿 ]選考経過を見る
[短編部門]
 一穂ミチ「ピクニック」と乾くるみ「夫の余命」はともに、叙述のテクニックと構成の妙で、短編らしい驚きを味わえる結末へと導いている。前者の視点の定まらない描写が気になって、後者を推したのだが、賛意は得られなかった。あまりにも作為が過ぎただろうか。
 青崎有吾「風ヶ丘合唱祭事件」は、シリーズのなかの一エピソードとしては楽しめた。だが、やはりトリックに新味がない。律儀な伏線には好感が持てたのだが。
 北山猛邦「すべての別れを終えた人」と結城真一郎「#拡散希望」は、〝今〟を事件の背景にした短編である。前者のバラバラにされた死体をめぐるトリックはまさに今だから可能……いや、やはりちょっと無理ではないだろうか。ネット社会のさまざまな隘路を背景にした後者は、傍点の多用から連城三紀彦作品を連想し、楽しく読んだ。ただ、その現代性が印象的なだけに、古典的なアリバイトリックがフィットしていないように思う。

[評論・研究部門]
 真田啓介『真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅠ フェアプレイの文学』『真田啓介ミステリ論集 古典探偵小説の愉しみⅡ 悪人たちの肖像』の二冊では、あらためて探偵小説がディレッタントによって支えられてきたことを痛感した。長年の評論活動の集大成だけに、さすがに二巻目はまとまりに欠けるが、アントニイ・バークリーを中心とした第一巻はじつに楽しい。それは、ユーモアとウィットに満ちた、そして多少の皮肉をスパイスにした文章があってのことだ。極東の、それも英語圏ではない島国の住人の、古典探偵小説へのアプローチの苦労を知っているだけに、評価しないわけにはいかない。
 世代の異なる二人の作家が、飯城勇三『数学者と哲学者の密室 天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』ではじつにロジカルに結びつけられている。こちらもまた古典探偵小説の世界がバックボーンとなっているが、トリック論だけではなく、作品が書かれた時代背景への視線も鋭い。ただ、この作者の持ち味とはいえ、エラリー・クイーンが絶対的な尺度となっているところに、やはり既視感を禁じ得ない。
 山本幸正『松本清張が「砂の器」を書くまで ベストセラーと新聞小説の一九五〇年代』は、新聞小説論としても松本清張論としてもまだ道の途中にあると思ってしまった。ともに大きな海であり、そしてあまりにも深い。また、いまだ松本清張の人気に翳りがないとはいえ、バランスを欠いた構成ではないだろうか。
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立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第74回 日本推理作家協会賞 評論・研究部門  
『数学者と哲学者の密室 天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』 飯城勇三
[ 候補 ]第74回 日本推理作家協会賞 評論・研究部門  
『松本清張が「砂の器」を書くまで ベストセラーと新聞小説の一九五〇年代』 山本幸正