追悼

追悼 眉村卓氏

新井素子

 眉村さんと初めてお会いしたのは、もう四十年近く前になると思う。SF関係のパーティか何かで。子供の頃から眉村さんの作品を読んでいた私は、「うわあ、本物の眉村卓が、今、目の前に」なんて非常に失礼な感想を心の中で抱いてしまったのだが、眉村さんは、とても紳士的な方だった。
 その後。時々パーティなんかで会ってはお話をする、そんな日々が続き……「何て凄いんだ」って思ったのは、眉村さんの奥様が癌になった時。眉村さんは、奥様を楽しませる為に、一日一話、お話を書いて……。
 知った瞬間、「うっ」。
 特定一人の読者を楽しませる為に、お話を書く。多分、これは、〝お話を書く〟ということの本質だろうし、そして、それは、〝祈り〟じゃない?
 奥様は、お医者様の予想を越え頑張ってくださり、2001年に『眉村卓・悦子夫妻を励ます会』があった。この時の奥様、とっくに余命は過ぎていた筈で……これに、〝お話〟が関与していない訳がないと思う。
 その後も。眉村さんは、推協の囲碁同好会に参加してくださり、私と碁を打ったことがあったのだ。そんで私、べた負け。

 眉村さん。〝あの世〟で奥様と再会なさっていると思います。やすらかにお休み下さいませ。