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2014年 第67回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門

2014年 第67回 日本推理作家協会賞
評論その他の部門受賞作

さつじんはんはそこにいる

殺人犯はそこにいる

受賞者:清水潔(しみずきよし)

受賞の言葉

 一人でも多くの方に読んで欲しい。そんな気持ちで送り出したのが『殺人犯はそこにいる』という本でした。小説のようなタイトルかもしれませんが、これはガチガチのノンフィクション。ジャーナリストを名乗る私が、歴史あるこのような賞を頂くことになるとは夢にも思っていませんでした。本書に一筋の光を当てて下さり、関係者の皆様に改めて御礼申し上げます。
 報道というカテゴリーには、“事実であること”という絶対的ルールがあります。そんな制約の中でも、読みやすく、かつストーリー性を持たせたいという気持ちを持って書いてきました。それが評価されたとすれば嬉しく思います。
 とはいえ、本書で警鐘を鳴らしている北関東連続幼女誘拐殺人事件は未解決のままです。被害者やその家族の悲しみ、そして濡れ衣を着せられた人達の想いも晴れてはいません。事件の全面解決を願って今後も取材を続け、様々な形で報じたいと思っています。

2014年 第67回 日本推理作家協会賞
評論その他の部門受賞作

へんかくたんていしょうせつにゅうもん

変格探偵小説入門

受賞者:谷口基(たにぐちもとい)

受賞の言葉

 伝統ある日本推理作家協会賞を戴き、喜びを噛みしめつつも、身の引き締まる思いでおります。拙著を御推挙下さった皆様、審査にあたられた先生方に心よりの御礼申し上げます。有難うございました。
 一人寂しく臨んだ記者会見の折、香納諒一先生が拙著を「おもしろい」と評してくださいましたことが、何にもまして心強く、嬉しく胸に響きました。研究論文を書く時も、大学で学生たちに語る際も、常にその内容がおもしろく伝わるよう腐心してきた身としましては、ベテランの創作家の方々から「おもしろい」とお褒め戴けたことは何よりの光栄と存じました。文学・文化は人間の最良の友であり、苦境の中でも一条の光となって差し込んできてくれます。そんな素晴らしく、そして「おもしろい」文学作品を論じ、ひろめていくことが研究者・評論者の仕事なのですから、私自身もさらに「おもしろい」研究、評論を目的としたい――この思いをあらたに、いっそうの精進につとめたく存じます。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 第六十七回日本推理作家協会賞(ミステリーグランプリ)の選考は、二〇一三年一月一日より二〇一三年十二月三十一日までに刊行された長編と連作短編集および評論集などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて発表された短編小説を対象に、昨年十二月よりそれぞれ予選を開始した。
 長編および連作短編部門と短編部門では、例年通り各出版社からの候補作推薦制度を適用した。なお推薦枠を持たない出版社からの作品については、従来通り予選委員の推薦によって選考の対象とした。
 長編および連作短編部門では出版社推薦と予選委員の推薦による一一五作品、短編部門では出版社推薦と予選委員推薦による四四六作品、評論その他の部門では三六作品をリストアップし、協会が委嘱した部門別の予選委員がこれらの推薦にあたり、各部門の候補作を決定した。
 本選考会は四月二十二日(火)午後三時より、新橋第一ホテル東京にて開催された。長編および連作短編部門は、井上夢人、北方謙三、真保裕一、田中芳樹、山前譲(立会理事・北村薫)、短編部門・評論その他の部門は、恩田陸、香納諒一、貴志祐介、新保博久、貫井徳郎(立会理事・道尾秀介)の全選考委員が出席して、各部門ごとに選考が行われた。
 受賞作決定後、午後六時より北村薫常任理事の司会進行により、谷口基氏を迎え記者会見が行われ、井上夢人氏と香納諒一氏からそれぞれの部門の選考経過の報告があった。その後、谷口基氏が受賞の喜びを語った。また司会の北村薫常任理事より、恒川光太郎氏からの喜びのメッセージが読み上げられた。
 詳細な選考経過は以下の通り。
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道尾秀介[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 選考会は「評論その他の部門」から行った。最初の投票において『殺人犯はそこにいる』と『変格探偵小説入門』が突出した票を集めたため、二作のうちどちら受賞作とするかについて討議を行った。しかし、前者は日本の警察の問題点を提起していることからも多くの人に読んでもらいたい本であり、また後者はタイトル通り「入門編」ながら「探偵小説はすべて変格である」という新しい論陣が魅力的であり、いずれの作品についても落選とすることに対して反対者がいたため、二作同時受賞となった。
 その後に行われた「短編部門」においては、最初の投票の時点で、いずれの作品も多くの点を獲得することができなかった。受賞作を出すという方向で話し合いを進め、それぞれの作品の魅力や瑕疵などについて議論を重ねたが、賞を献上すべき作品は候補作の中に無いのではないかという結論に達し、今回は受賞作なしという結果に終わった。
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選評

恩田陸[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 できれば受賞作を出したいと臨んだ短編部門の選考会だったが、予想以上に選考委員の評価は厳しかった。つくづく短編は難しい。過去の名作と比べ易く、印象の勝負になりやすい。しかも、比較される名作は年々増えていくのだ。
 市況を反映してか、純然たる単独のミステリー短編は書きにくくなったように思える。どうしても一冊にまとめることを念頭に置くため、連作が多くなる。今回の候補作の中に、連作であるために初読では分かりにくいものが含まれていたが、分かりにくいのはそのせいだけではないようで、構成を考え抜いていないのではないか、じゅうぶんに推敲していないのではないかと感じるものが幾つかあった。昨年の選評でも書いたが、私はミステリー短編には磨き抜かれた切れ味のよさを求めている。残念だが、受賞作なしに同意せざるを得なかった。よいミステリー短編を読む快感や感動は、ミステリーを書く者ならそれぞれの経験からよく分かっていることと思う。書くほうは本当に大変だけれど、この分野が隆盛していってほしいと切に願うものである。
 さて、評論及びその他の部門である。
 私が推そうと思っていたのは、『虚構内存在・筒井康隆と新しい生の次元』だった。候補作のなかで評論と呼べるのはこれだけだと思ったし、筒井康隆の作家活動の軌跡と現代の社会の状況がシンクロしてくるところをとても面白く読んだからだ。しかし、これがSF論でも筒井康隆論でもなく、筒井康隆の小説を借りた文明評論であるところには引っかかっていた。そのことを他の選考委員からも指摘されたので、最後のところで積極的に推せなかった。『ファントム 悪党的想像力』のような労作は認めたいが、資料の紹介に終わってしまい、サブタイトルの「悪党的想像力」が一般市民にどのように浸透していったかが読みたかった。同じことは『変格探偵小説入門』にもあてはまる。知らなかったこともたくさんあり、文字通り「入門編」として楽しく読んだが、書かれていないその「先」のほうが気に掛かる。ぜひその「先」をお願いしたい。『ザ・流行作家』は、文字通り、中間小説全盛期に存在し、今は絶滅した伝説的マガジンライター二人を編集者の目から描いたもので、文学界の歴史の証言として貴重だし興味深く読んだものの、エッセイだと思う。
 受賞作となった『殺人犯はそこにいる』、構成も文章も巧みで、たいへん重大な問題提起をしておられ、空恐ろしい作品である。個人的にはむしろ「面白すぎる」ことと、まだ取材が現在進行形であるところに慎重になったが、非常に意義のある受賞作であることは間違いない。
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香納諒一[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 短編部門の候補作は、どの作品も何か喉に小骨が引っかかるような違和感がありました。
 「恋文」と「墓石の呼ぶ声」の二作は、ともに作品の雰囲気作りの巧さが際立っていました。大衆小説の書き手として、それぞれに独自の世界を一定のペースで生み出していける作家でしょう。しかし、今作について言えば、ともに推理小説として一番核になる動機の部分が、私にはしっくりいかないものでした。ともに動機がただの「道具」としてしか扱われていないように思います。
 「純喫茶『一服堂』の四季」も、作品の雰囲気作りでは既に一家を成している方の余裕をすら感じさせましたが、殺人のトリックがいかにも不自然でした。
 「五度目の春のヒヨコ」と「不惑」の二作は、トリックよりも人間を描くことで読者を納得させるタイプの短編でした。しかし、ともに人間の描き方が浅く、作品の底が見えてしまうのが残念でした。
 今回、五作中三作は、たとえ改めてうたってはいなくても、短編連作中の一作であろうと思わせる作品でした。そういった作品は、一冊にまとまった時に読めばまた違ったテイストや説得力を持つものだと思います。その意味で、単発で候補に選ばれたことの不利はあったのではないでしょうか。
 評論・その他の部門では、「殺人犯はそこにいる」がまず圧倒的な支持で受賞に決まりました。困難な取材をやり通し、真犯人とおぼしき人物を特定しつつ、警察組織の怠慢、保身を糾弾する姿勢があっぱれです。加えて、書きっぷりの巧さも、またあっぱれ。これだけ重たい、そして、読了時にはやるせない読後感が残る一冊でありながら、読み進める最中には、決してページをめくる手を休ませない巧さがありました。私をふくめ、多くの委員が◎をつけて選考に臨みました。受賞作とすることで、もっと多くの人に読んでもらいたい一冊だと発言する委員もおられました。同感です。
 「評論・その他の部門」というくくりで賞を選ぶ場合、毛色の異なる作品がならぶわけですから、それをどう比べればいいのか。この点について、私は自分なりにひとつの基準を定めて選考会に臨みました。それは、テーマの面白さ、興味深さとともに、そのテーマについて、どこまで深く突きつめて描ききったかの面白さ、いわば読書体験として、読者をどれほど遠くまでいざない連れていってくれたのかを判断基準にしようということでした。
 その意味で、「ザ・流行作家」は、確かに面白いエッセイではあるものの、思い出話の域を出ず、「流行作家とは何か」といった問いかけに答えてくれる内容ではないことが残念でした。また、「ファントマ」は大変な労作であり、知らなかったことをあれこれと教えてもらえる楽しさはありましたが、「ファントマ」を論じる掘り下げが浅い気がしました。
 私自身は、「殺人犯――」に加えて、「変格探偵小説入門」と「虚構内存在」の二冊は、いずれかが受賞作となるだろうという思いで、ずっと最後まで読み通しました。三作受賞という例を作ってもらえるのならば、むしろ二冊とも推したいと思っていました。最終的に、「変格――」のほうに僅差で高得点をつけたのは、テーマへの迫り方、発展のさせ方について、隙を見せない老練な筆に一日の長がありました。清水さん、谷口さん、おめでとうございます。
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貴志祐介[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今回、短編部門には様々な面白さの作品が集まったが、推協賞に求められるミステリー度という点ではやや物足りなかった。その中で、私は寡黙な石工の行動に背筋が寒くなる『墓石の呼ぶ声』と、犯人にとってのみ密室という趣向に挑戦した『春の十字架』に○を付けたが、残念ながら、全体で二人以上の支持を集めた作品はなく、今回は該当作なしという結果に終わった。
 一方、評論その他の部門には力作が目立った。『ファントマ 悪党的想像力』は、通俗小説のキャラクターが、ルパンやオペラ座の怪人を生んだベル・エポックの空気を呼吸して成長する様が興味深く、ジャン・コクトーらとの関わりも楽しい。最後にファントマとは何だったのかという著者自身の考察があれば、おそらく一票を投じたことと思う。
 『虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』は、候補作中で唯一本格的な評論だが、引用が多く著者自身の大胆な意見や肉声が聞けなかったのは残念だった。面白さという点で、筒井氏ご本人の『創作の極意と掟』と比べるのは、アンフェアだろうが。
 『ザ・流行作家』は、月産千枚をこなしたという笹沢佐保さんらへのオマージュだが、そこに担当編集者としての愛や戦友意識が感じられなかったのは、なぜだろうか。いかに本が売れなかったかという数字より、最盛期の祭りの熱気について読みたかった。
 『殺人犯はそこにいる』には目を瞠った。現実の幼女連続誘拐殺人事件をテーマにしており、エンターテインメントに対するような賛辞は慎まねばならないが、これほどまでにページを繰らせる力に満ち溢れたノンフィクションは、いまだかつて読んだことがない。著者のとてつもない取材力にはただ感服するしかないが、彼を突き動かしたものは鬼畜のごとき犯人への怒りであり、杜撰な捜査により冤罪事件を作り出し、その結果、真犯人を野放しにしてしまった警察に対する深刻な危惧だろう。当初、五人の選考委員中三人が◎、一人が○、一人が×という評価だったが、真剣な討論をへて堂々の受賞となった。この賞が一人でも多くの読者を獲得する一助となることを願うが、日本の警察に自浄能力があるなら、いずれ「ルパン似の男」が逮捕される続編が書かれるに違いない。その日がやって来ることを衷心より待ち望んでいる。
 変格とはけっしてミステリーから本格を除いた余りではなく、エンターテインメントの豊穣な母体であることを知らしめてくれた『変格探偵小説入門』も、優れた労作である。個人的には、早すぎたモダンホラーである、谷崎潤一郎の『人面疽』という隠れた傑作に光を当ててくれたことも嬉しかった。こちらは、選考委員全員からほとんど異論が出ず、めでたくダブル受賞となったことを喜びたい。
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新保博久[ 会員名簿 ]選考経過を見る
残念な短篇、豊作の評論

 短編部門候補作五篇、日々を養う糧には充分おいしくとも、協会賞を差し上げたくなるには特別料理を望みたい。翔田寛氏「墓石の呼ぶ声」は、課題小説としての二〇一三年・帝国ホテルという条件が裏目に出たようだ。帝国ホテルが関東大震災に耐えた故実を活したくなったのだろうが、主人公が震災当時十歳だといま百歳で、介護者なしに宿泊できるとは信じられない。額縁小説の額縁が邪魔だという他委員の意見に同感する。同じ書下しアンソロジーに参加した薬丸岳氏「不惑」はもう少し自由だが、とうに不惑を過ぎて二十年の私から見ても、登場人物の思考が幼すぎよう。東川篤哉氏「春の十字架」は連作「純喫茶『一服堂』の四季」第一話で、四話で一冊にする予定のせいかネタに比べて長すぎる。五十枚以内で書けば切れのいいトリック小説になったものをと惜しまれた。『ブラウン神父の童心』なら十二篇入っている。西澤保彦氏「恋文」にも東川作品と同様の水増し感があった(無駄な部分も面白くはあるのだが)。水生大海氏「五度目の春のヒヨコ」はお仕事小説アンソロジーに書下されて殊更ミステリと構えなかったせいか、真相が明かされて初めて何が謎だったのか分るのでは“日常の謎”の謎がない。だが読み返してみると、一人称の新米社会保険労務士の愚痴全部が伏線に機能していて贅肉がなく、あと少し意外性があれば受賞作に推したかったところだ。それにしても、候補作五篇のうち書下しアンソロジーのが三篇、ミステリ専門誌から二篇で、一般の月刊小説誌掲載作品がなかったのは、老舗の紙面の多くが長篇連載かベストセラー作家に占められ、協会賞未受賞であるような有望作家から、きりりとした短編を書く機会を奪っているのではないかと、小説誌の衰弱がお節介に懸念された。
 片や評論その他の部門は豊作だった。清水潔氏『殺人犯はそこにいる』は推す声が圧倒的なのに、私独りが、真犯人をルパン三世似の男と特定する根拠が弱く、眼目のDNA型鑑定が専門家の受売りでしかない点に引っ掛って異を立てた。ミステリのプロ団体がこれにお墨付きを出すこと自体を躊躇したのだが、内容は多くのひとに読まれるべきもので、迫力でも抜群という評価に異存はない。狭義の評論らしい評論では谷口基氏『変格探偵小説入門』の、これまでの本格推理優位のミステリ史観に拮抗する堂々の論陣に喝采を惜しまない。氏の旧著『戦前戦後異端文学論』では緯糸(各論)の卓抜さに較べて経糸が脆弱なのが気になったが、今回は変格の復権という経糸の強靭さが弱点を補って余りある。赤塚敬子氏『ファントマ』の博捜も驚異的だが、調査結果報告に終っており、より上質なルパン以上の人気を本国で博しながら、日本では受け容れなかったのは何故かといった考察にまで及んでもらいたかったと思う。藤田直哉氏『虚構内存在』は筒井康隆論だと思い違いして読んだのが私にとって敗因となった。校條剛氏『ザ・流行作家』は貴重な証言で興味津々だが、体験と伝聞だけでは評論とは評価できない。しかし受賞作以外の三冊も熱心な読者にぜひ手に取ってもらいたい水準であった。
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貫井徳郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 短編部門に受賞作がなかったのは、全部駄目だったからではありません。個人的意見ですが、日本推理作家協会賞短編部門はミステリー史に残るくらいの大傑作でなければ授賞させられないと思っています。今回の候補作は単に大傑作ではなかったというだけであり、劣るところがあっての落選でないことは強調しておきます。
 評論その他部門では、『ファントマ』を推しました。小説部門で努力賞はあり得ませんが、評論ではあってもいいのではないかと考えたからです。それほどに労作であり、過去もそして将来もこのテーマでここまで調べ上げた人はいないし出てこないだろうと思います。その希少性故に推したのですが、データの集積以上の“論”になっているかと言われると弱く、推し切れませんでした。
 もうひとつ推した作品が、『殺人犯はそこにいる』でした。この作品は大宅壮一ノンフィクション賞を落選していただけに、推協賞で背中を押したいという気持ちがありました。この受賞で、もっと大勢の人に読んでもらい、こんな未解決事件があることを知ってもらいたいです。できたら、その動きが解決まで繋がってくれることを、選考委員として切に願います。
 『変格探偵小説入門』には、『ファントマ』を読むまで○をつけていました。○ではなく△にしたのは、単に取り上げるテキストの入手のしやすさに格段の違いがあると考えたからです。つまり努力を評価するという観点から『ファントマ』の下に位置づけただけであって、内容的には非常に面白かったです。これまで系統立って取り上げられなかった“変格”というジャンルに真っ向から切り込んでいる姿勢も、好印象でした。受賞に異論はありません。
 『虚構内存在』は、論としては立派なものでした。推さなかったのはただ、取り上げられているのがミステリー作家ではないという理由からです。
 それは『ザ・流行作家』も同じです。取り上げた小説家が両方ともミステリー作家であれば、個人的にはもっと嬉しかったのですが。
 短編部門では受賞作が出ませんでしたが、評論その他部門では評論とノンフィクションという別のジャンルでそれぞれ受賞作を出すことができ、満足しています。
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立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第67回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門  
『ファントマ 悪党的想像力』 赤塚敬子
[ 候補 ]第67回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門  
『虚構内存在―筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』 藤田直哉
[ 候補 ]第67回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門  
『ザ・流行作家』 校條剛