一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

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  • 長編及び連作短編集部門愚者の毒宇佐美まこと
  • 短編部門黄昏薬丸岳
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2011年 第64回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門

2011年 第64回 日本推理作家協会賞
評論その他の部門受賞作

とおのものがたりとかいだんのじだい

遠野物語と怪談の時代

受賞者:東雅夫(ひがしまさお)

受賞の言葉

 「怪談」そして「遠野物語」という、一見したところ推理小説とは縁遠いテーマを追究した拙著に、由緒ある本賞を授与された日本推理作家協会の雅量に、まずは心から敬意と感謝を捧げたいと思います。ありがとうございました。
 日本推理小説育ての親・江戸川乱歩に不朽の名作「怪談入門」があり、その盟友たる小酒井不木もまた、近世の怪異小説と近代の推理小説との所縁を折にふれ説いてやまなかったように、怪談文芸とミステリーは本来、未知なるものの探求という土壌に根ざす樹幹から生え出た二つの枝にほかなりません。このたびの受賞を機に、怪談・ホラー・幻想文学分野の研究や評論、アンソロジー編纂という天職に、よりいっそう精励して参りたいと心に期しております。
 なお、本書執筆と並行して開始された「みちのく怪談プロジェクト」は、中核を担う仙台の出版社・荒蝦夷が、先般の震災により被災し、存亡の危機にあります。その支援活動を発意した矢先の受賞は、まさに天佑と呼ぶほかはないでしょう。怪談文化さきわう地みちのくの復興を祈念しつつ、重ねて御礼を申しあげます。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

大沢在昌[ 会員名簿 ]選考経過を見る
≪長編及び連作短編集部門≫ 柳広司

 本年度の本賞候補作は『明日の雨は。』『華竜の宮』『アルバトロスは羽ばたかない』『隻眼の少女』『折れた竜骨』の五作品。
 最初に、各選考委員から「本年度の推理作家協会賞に相応しい」と考える作品を推薦して頂きました(但し、各委員最大二作まで)。
 この時点で最も評価が高かったのが『折れた竜骨』。次いで『隻眼の少女』と『華竜の宮』が同票で並び、以下『アルバトロスは羽ばたかない』『明日の雨は。』の順位となりました。
 右結果を踏まえて、各作品への講評が行われ、まず『折れた竜骨』の受賞が決定。さらに議論を経て『隻眼の少女』との二作受賞とする旨、合意に達しました。

≪短篇部門・評論その他の部門≫ 大沢在昌

 評論その他の部門から始まった選考会では「現代本格ミステリの研究『後期クイーン的問題をめぐって』」が、早い段階で外され、残る二作品について議論がおこなわれたが、「エラリー・クイーン論―」は、筆者の思い入れの強さが、評論というよりはファンブックであるという指摘があり、一方の『遠野物語と怪談の時代』は、「怪談という窓からのぞいた近代文学史」とも読めるなどの評価に加え、東雅夫氏のこれまでの実績も踏まえると、授賞にふさわしいのではないかという結論に至った。
 短編部門においては、五作品のうち二作品が上位を占め、これに入らなかった「原始人ランナウェイ」「芹葉大学の夢と殺人」「天の狗」がまず選から漏れた。
「殷帝之宝剣」と「人間の尊厳と八○○メートル」の争いとなり、それぞれを推す選考委員との間で、議論の決着がなかなかつかなかった。そこで「二作授賞とするかどうか」の投票をおこない、一作授賞まで絞り込むという意見の一致をみたところで、再度討議をおこなった結果、「人間の尊厳と八○○メートル」に決した。
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選評

伊坂幸太郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 短編部門で、最も賞に相応しいと感じたものは、『殷帝之宝剣』でした。独自の世界を構築し、そこでだからこそ通用する謎を設定し、灯台下暗しともいえる解決を提示する、理想的な短編ミステリーに思えました。妖しげな剣術場面がある上に、「殺人事件の犯人探し」が「大きなシステム」の話に繋がるあたりも大変、贅沢でした。今後の作品も楽しみにしており
す。『芹葉大学の夢と殺人』は、若い恋人同士の生活や性行為が繰り返し描かれ、好みとは言いがたかったのですが、そういった部分が、主人公の選択するラストの行動に説得力を与えているのだと分かり、感嘆しました。『人間の尊厳と~』は、シンプルな設定と後半の捻りが非常に頼もしいのですが、どこかこじんまりとした印象は拭えず、僕自身は積極的に推せなかったのも事実です。『天の狗』は、「土地に伝わる不穏な話と謎めいた事件」「"ある道具"を使ったトリック」「怪奇的なラスト」などなど、(僕の知る)新本格ミステリーの骨格を丁寧に踏まえた作品に感じられたのですが、(たとえば、一昨年の候補作『官能的』と比べると)そこからはみ出す部分があまりなく、また、『原始人ランナウェイ』は、「学校で目撃された原始人」の真の意味が分かった際、はっとさせられたものの、「情けない男の子」と「奇妙で凛々しい少女」との組み合わせに新鮮さを感じられず、それよりも、主人公が体育祭で抱いた羞恥心や孤独や疎外感を描いたほうが奥行きが出たのではないか、と気になり、やはり、僕としては高く評価することができませんでした。評論部門では、『遠野物語と怪談の時代』が受賞に相応しいと感じました。「遠野物語とは実話怪談でもあるのだ」という主張を、さまざまな文献や推理によって説明していく、一つのミステリー作品のようにも読め、さらには当時の空気を知ることができる豊かな作品です。本文中に柳田國男について、「その背後にどれほど膨大な怪談書の探求と濫読があったものか、空恐ろしいほどである」と書かれていますが、同様の空恐ろしさを、この著者、東雅夫さんに対しても感じずにはいられません。『エラリー・クイーン論』もとても興味深く読みました。「意外な真相を描く作家」と「意外な推理を描く作家」とに分類することなど、今まで考えたことがありませんでしたし、なるほど、と膝を打ちたくなる箇所も多々ありました。自ら敬愛する作家について、ここまで詳細に分析した迫力に圧倒されましたし、『遠野物語と~』との同時受賞も願っていたのですが、クイーン以外の作品を(マイナスに)評価する際に「『意外な真相』派の物語は『詐欺』に近い」など強い言い方を用いることが多く、そのために、「思い入れが強すぎ、客観性がない」という印象を与えてしまったのは惜しかったように思います。『現代本格ミステリの研究』は、ゲーム「逆転裁判」における考察が新鮮で興味深く読めましが、小説作品に対する評論については、「深読み」に感じる部分もあり(評論における深読みは、魅力でもあるのですが)、他の二作品に比べると、説得する力が弱く感じました。
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歌野晶午選考経過を見る
<短編部門>
 受賞にはいたらなかったが、候補五作の中にあって『芹葉大学の夢と殺人』が頭二つ三つ抜け出ていたというのが個人的な評価である。百点満点で評するなら九十点以上のものがあった。最後に明かされる異様な動機は過去に例のないものであり、そこにいたるまで描かれる日常は現代をよく投影しており、各登場人物の心の機微も巧みに描かれ、仮にああいう動機でなかったとしても、ミステリーとして高く評価できる。数年間の出来事が簡潔に、それでいて起伏のある物語として描かれている点にも、小説家としての伎倆の高さが窺われた。
 『殷帝之宝剣』は題材がおもしろく、その題材に合った文体を操り、その題材ならではの動機が光っていた。つまり作品として統一感があった。残念だったのは、密室殺人の謎が見えやすかったことで、それを補うためにも展開にもう一山あればと思わされた。
 『天の狗』の眼目は、密室トリックよりむしろ動機にあると読めるのだが、そこにあまり驚けないのがマイナス評価になった。
 『原始人ランナウェイ』は、原始人の正体に、なるほどと思わせるものがあった。ありがちなキャラクター設定にこだわらずに物語を作っていれば、印象はかなり変わっていたと思う。
 『人間の尊厳と八○○メートル』は、このアイディアならもっと枚数を削って切れ味を鋭くすべきで、かつ、もっと謎めいた話が展開され、予想もつかないところから最後の一撃が振ってきてほしかった。そういう技術的な向上を今後は望みたい。
<評論その他の部門>
 評論というものは概して、その分野に興味がないことには取っつきにくいものであるが、『遠野物語と怪談の時代』にはページをめくらせる力がみなぎっていた。構成の巧みさ、引用の的確さ、熱を込めながらも抑制を聞かせた文体と、完成度は文句なしに高い。あえて難を挙げるなら、推理小説とは分野が違うのではということなのだが、すでに推理小説がその枠をエンターテインメント全般にまで広げていっている現在、ジャンルうんぬんを欠点とするのは不明というものだろう。
 『エラリー・クイーン論』は、クイーンの評価を上げるバイアスと、他作家を低評価するバイアスが、全体を通して気になった。エラリー・クイーンのファンブックという位置づけならそれで問題はないのだが、これを一般論とするには牽強付会はまぬがれない。<意外な推理>の論考がユニークなだけに、残念である。
 『現代本格ミステリの研究』は、後期クイーン的問題を、それが現代本格ミステリに与えた影響という点に絞って論じている切り口のアイディアがよい。一九九〇年代前半から十年余の本格ミステリシーンを統括するものにもなっており、個人的には、受賞に値する作品であるとの評価である。ただ、取りあげられている各小説を相当読み込んでいないことには理解できないような難解さ、まとまりの悪さが、評価を下げる結果となった。
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逢坂剛[ 会員名簿 ]選考経過を見る
【短編部門】
 『原始人ランナウェイ』は、マツリカという年長の女子学生の、キャラクターで読ませるキャラクター小説、といってもよいほどだ。校庭を駆け抜ける原始人の伝説や、その真相解明にさしたる驚きはないし、これといった落としがないのが惜しい。残念ながら、ミステリーの賞の対象としては、いささか弱すぎるだろう。
 『殷帝之宝剣』は、ミステリーには珍しい舞台、時代設定だが、おもしろく読ませてもらった。もっとも、これまたミステリーとしては、物足りないものがある。無敵といわれた英雄が、名もない従者を刺客と気づかず、簡単にやられてしまうのでは、無敵もくそもない。ただし、小説としての力は十分に認められるので、今後を期待したいと思う。
 『芹葉大学の夢と殺人』も、ミステリーとしての仕掛けに乏しいし、殺された人間の殺されるまでの(独白?)というスタイルは、それなりの新しい工夫や理由づけが必要だろう。作者は、すでに既存の文学賞をとった人だが、この作品に関する限り文書表現に、いくつか不用意な点が見られた。
 『天の狗』は、バカミスを身上(?)とするこの作者としては、まことにまともなミステリーである。この、野外の密室トリックものは、ともかくも合理的に解決されるので、ほっとした。さしたる驚きがないのが弱点だが、こうしたオーソドックスなミステリーに、私は好感を覚える。
 『人間の尊厳と八○○メートル』は、タイトルをなんとかしてほしいと思ったが、これまたわたし好みの短編である。狭いバーの中だけで話が完結し、予想外とまでは言わぬまでも、それなりの落としがあっておもしろい。短編賞の条件を十分クリアしいる。

【評論その他の部門】
 ミステリーに限らず、文芸評論とは特定の作家やジャンル、あるいは作品等に関する著者独自の分析、解釈を開陳するものと定義できよう。同時に、取り上げられた作家やその作品を、未読の読者に読んでみたいと思わせるような、読者意欲促進機能とでもいうべき要素も、期待されてよいはずだ。その点、『エラリー・クイーン論』と『現代ミステリーの研究』は、前者の分析解釈についてはしばらくおき、後者についてはほとんど配慮されていない。取り上げられた本をすでに読んだ、特定のマニアックな読者にのみ語りかけている、という印象が強い。特に後者は、博士論文としての出来はともかく、推協賞として広く江湖に勧められるべき作品、とはいえない。異論があるのを承知で言うが、やさしいことをむずかしく書くのではなく、むずかしいことを分かりやすく、書いてほしい。そうでないと、評論そのものがこのジャンルの小説を、ますます狭い堂宇に押し込めるだけ、という結果になる。
 『遠野物語と怪談の時代』は、その意味で普遍性があると同時に、読みやすさでも勝っている。このテーマの発見は、著者が初めてではないかもしれないが、その博捜ぶりには好感が持てる。怪談を座標軸にした、近代文学史という位置づけもできるし、受賞に値する労作だと思う。
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小鷹信光[ 会員名簿 ]選考経過を見る
〈評論その他の部門〉
 マニアックともいえる緻密な論考がきわだつ候補作三作のうち、柳田國男『遠野物語』を素朴な怪談として読み直そうとする東雅夫『遠野物語と怪談の時代』をまず選外においた。力点が置かれている怪談"文壇"の勢力相関図や民俗学との関連における怪談の位置づけといった研究主題に興趣をおぼえなかったからである。だが三陸沖大海嘯(つなみ)にまつわる怪談の四つのバージョンの詳解など、怪談そのものへの関心を駆き立てられたことはまちがいない。
 いわゆる「後期クイーン的問題」そのものをテーマにした諸岡卓真『現代本格ミステリの研究』と、そのテーマもふくみこんだ飯城勇三『エラリー・クイーン論』の二作のどちらかを選ぶか、というのが私自身の課題となった。マニアック性で甲乙つけがたい二作のうち、「意外な結末」より、探偵の「意外な推理法」のおもしろさをクイーン・ミステリーの本質とみなし、それにしつこくこだわった後者を選んで選考会に臨んだ。長年のクイーンびいきの研究業績もよく知られているので、それが決め手になるのではないかと考えていたのだが、特定の専門分野にこだわりすぎている二つの本格ミステリー論がそろって怪談に押し切られてしまう結果になった。論考の対象となった原典への関心を最も強くそそった作品という支持の根拠に屈したということだ。
〈短編部門〉
 「原始人ランナウェイ」は学園怪談。少年を操る奇妙な女のおもしろさが私にはピンとこなかった。現実味のある隠れテーマが見えてくると同時に興趣が薄れてしまう。
 「芹葉大学の夢と殺人」は性愛描写、女性心理に主眼が置かれたミステリー。その肝腎の部分の描写に新鮮味がなく、かったるい。意外な動機もつくりものじみている。
 「殷帝之宝剣」は時代ミステリ。読物としては十分におもしろい。だが逆に、殺人現場を大がかりな密室とみなしたり、消去法を用いてそれほど意外でもない犯人を割り出したりといったミステリー仕立てが小説に無理を生じさせている。
 この三作は推理作家協会賞には一歩及ばずとみなし、「天の狗(いぬ)」と「人間の尊厳と八○○メートル」のいずれを選ぶかを考えた。前者の奇抜なオチは、本文中だけでなくタイトルにも伏線がしかけられた用意周到なオチなのだが、わかってしまうときゅうに肩すかしをくわされた感じになってしまう。すぐれた先例がいくつもあるオチを扱うのはむずかしい、
 その点、受賞作のほうは、二段構えのオチがうまく効いている。微妙なテーマが読後、人に勇気を与える感動を与えてくれる。詐欺の手口にもっとうまい仕掛けがほしかったが読後感がよかったので強く推した。
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真保裕一[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 『遠野物語と怪談の時代』は、単に黎明期の怪談文壇事情を紹介するに留まらず、民族史書として名高い作を、怪談集という側面から光をあてる刺激的な一冊だった。傍証を積み上げて証拠固めをしていくようなミステリ的面白さもある。個人的には、前回の候補作同様、著者が怪談における語り口の重要性に触れている箇所が特に興味深かった。エピソードの重ね方、文体の妙など、創作の原典につながる部分が多いのである。怪談やミステリはもちろん、小説の極意に通じる論評にもなっていると思う。
 『エラリー・クイーン論』を私は熱烈なるクイーンへのラブレターとして読んだ。労作のように見えて、実はまだまだ書き足りないのでは、と思えるほどに著者の熱意と愛情が感じられた。愛は盲目であり、たとえ贔屓の引き倒しや牽強付会に近い論法があろうと、個人的には楽しく読めてしまった。が、論評と謳うからには、冷静な筆致と分析が求められるべきという意見には、首肯するほかはなかった。とはいえ、この著者のラブレターは、まだまだ違った形で読ませてもらえるのではないだろうか。それを期待したい。
 短編部門の候補作には、どれも独自の狙いが見られ、それを一編の小説として仕上げていく手腕に注目して読むこととなった。
 もったいないと感じたのは『芹葉大学の夢と殺人』だった。ラストの動機の部分は非常に面白い。その動機を納得させるために、今の若者を感じさせてくれる部分の筆致も悪くないのだ。が、この男女の形は、今まで多く書かれてきたパターンの域に留まっていると思えてしまった。見慣れた定型を提示されると、切実さは薄くならないだろうか。タイトルも損をしていたと思う。
 悩んだのは『殷帝之宝剣』である。話はすこぶる面白く、遠大な計画も練られており、さらに作者の筆力にも並々ならぬものを感じた。だが、ミステリの根幹部分で、中国ものというジャンルの力に頼っている部分があると思えた。おかしな喩えになるが、中国拳法の達人なら空を自在に飛べてトリックも成立する――に近いニュアンスを感じてしまったのである。私の頭が硬すぎるのかもしれないが、ミステリの根幹部分はフェアであってほしく、秀作でありながら一票を投じることができなかった。だが、この作者の実力は十二分に感じられた。本当に申し訳ない。
 受賞作は、バーに居合わせた客による会話だけで成立する小粋な短編である。ストーリーの風呂敷は小さくとも、伏線が実に効果的で、話の運びも上手い。小品すぎるという指摘がでるかもしれないが、作者の腕を一番感じることができた。タイトルと読後感の良さにも、作者のセンスが光っていたと思う。
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立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第64回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門  
『エラリー・クイーン論』 飯城勇三
[ 候補 ]第64回 日本推理作家協会賞 評論その他の部門  
『現代本格ミステリの研究』 諸岡卓真