一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

2023年 第76回
2022年 第75回
2021年 第74回
2020年 第73回
2019年 第72回

推理作家協会賞を検索

推理作家協会賞一覧

江戸川乱歩賞

2023年 第69回
2022年 第68回
2021年 第67回
2020年 第66回
2019年 第65回

江戸川乱歩賞を検索

江戸川乱歩賞一覧

1951年 第4回 日本推理作家協会賞 長編部門

1951年 第4回 日本推理作家協会賞
長編部門受賞作

いしのしたのきろく

石の下の記録

受賞者:大下宇陀児(おおしたうだる)

受賞の言葉

   受賞の喜び

 「石の下の記録」が授賞作品になったことを、むろん私は喜んでいる。賞をもらっても私が喜ばないのじゃないか、と微妙な考え方をしていた人もあったように察せられるが、そんなことはない。たしかに私は大喜びである。書き改めたい部分がかなりある。笠原登場の場面がまづいし、貴美子夫人が十分に書けていない。園江新六の失踪を、もっと深く工夫した方がよかった。が、賞になってよかったと思うのである。特筆すべきことが二つほどあるが、その一つは、木々君がこの小説をたいそうほめてくれたことであり、他の一つは、乱歩さんが、この小説を賞としたくなかった、ということである。これは非常に興味のある問題だ。私が「石の下の記録」の作者でなかったら、それにつき言いたいことがあるが、今は遠慮しておいた方が無難であろう。たゞ、木々君の讃辞、その他あの作を認めてくれた人々に対し、心から感謝し、併せて乱歩さんには、やがていつか、乱歩さんも賞を与えたくなる小説で、しかも私流の小説を書いて見せるよ、と申しておくにとどめる。喜ぶ、とはいっても、私は喜んでばかりもいられない。この乱歩さんの態度で、探偵小説の本質を、もういっぺん、考えさせられるところがあった。常に私は議論を避け、私の道を進めることに専念したが、組立てる議論がないのではなく、いくどか思考のうちにそれをとりあげてきて、なおまたここで、考えさせられるものがあったわけであるし、もう一つ、最近の私は、文学の修業というものが、実にたいへんなことだと気づいている。それは、文章で衣食の道を立てるということとは別問題であって、もっと深い恐ろしい問題だ。そこを私は十分に考えぬいてから、さて、余裕綽々として、たとえばチェスタートンのように面白い探偵小説を書く日がきたら、その時こそ私は、有頂天になって喜ぶだろうと思うのである。(一九五一・四・一五)

作家略歴
1896~1966
長野県生れ。九州帝大卒。
農商務省臨時窒素研究所に勤務中の一九二五年、「新青年」に「金口の巻煙草」を発表。二九年に作家専業となり、「宙に浮く首」「蛭川博士」「鉄の舌」ほかの長編や、「毒」「義眼」「烙印」「偽悪病患者」と多彩な短編を発表。戦後は「柳下家の真理」「不思議な母」「虚像」などがあり、五一年、「石の下の記録」で探偵作家クラブ賞を受賞。五二年より一期二年、探偵作家クラブの会長を務める。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
四月十二日在京幹事会が召集され、新宿のレストラン雅叙園に於て午後二時から五時迄種々の議案が評議された。出席者は江戸川会長、大下副会長、木々、渡辺両会計監事、水谷幹事長、城、香山、島田、永瀬、大坪、山田、延原各幹事十二名。
 まづ、会計報告と本年度予算の研究、年鑑五一年度版を岩谷書店より継続出版すること、新幹事推薦の検討、並びに来月より本会報編集担当者として島田一男氏を、土曜会司会担当として永瀬三吾氏を委嘱することに決定し、最後に二十五年度クラブ賞決定の討議に入った。
 クラブ賞の詮衡については、既に報告された通り準備委員六氏によって選出された作品が在京幹事全員に廻覧され終ったのが四月十日であった。一方、クラブ全員に対し三月十五日〆切で約一七〇通の投票ハガキを配布、投票は七〇通であった。投票内訳は左の通りである。(長篇一、短篇一を選出)
【長篇】
「石の下の記録」(大下宇陀児) 二十八票
「薫大将と匂の宮」(岡田鯱彦)  十三票
「ペトロフ事件」(中川 透)   十一票
「びろうどの眼」(小島政二郎)   一票
 白票              十五票
【短篇】
「社会部記者」(島田一男)十一票 「天国荘綺談」(山田風太郎)十票 「断崖」(江戸川乱歩)九票 「影なき女」(高木彬光)四票 「モンゴル怪猫傳」(渡辺啓助)四票 「検事調書」(大坪砂男)三票 「死と恋と波と」(井上靖)三票 「少女の臀に礼する男」(木々高太郎)三票 「人間競馬」(船山馨)二票 「風船魔」(島田一男)二票 「翡翠湖の悲劇」(赤沼三郎)二票。
 以下各一票「かむなぎうた」(日影丈吉)「チャタレー部落」(武田武彦)「下山総裁」(山田風太郎)「さそり座事件」(水谷準)「戦後派殺人事件」(高木彬光)「犠牲者」(飛鳥高)――白票十二票
 以上の資料を参考として各幹事の意見が開陳され、改めて投票に移り、長篇は「石の下」九票、「薫大将」二票、「ペトロフ」なしの結果となり、異議なく大下宇陀児氏へ授賞が決定した。
 短篇賞は作品の価値判断に個人的な段階があって、毎年議論百出の盛観を呈するのであるが、今回も種々の見解が各幹事より提出され、結局投票の結果は「社会部記者」六票、「断崖」三票、「かむなぎうた」一票、白票二といふ結果となり、授賞は島田一男氏に決定した。但し島田氏は授賞作品の他にも力作が相当あるので、発表は「社会部記者」その他と附加へることを申合せた。功労賞的な意味も含めたものである。
 第一回以後中絶の形の新人賞は中止したわけではないが本年度も授賞なく、また探偵映画賞も本年は一応見送ることに決定した。会員諸氏の御協力、ことに準備委員六氏の労に対し本欄より厚く感謝いたす次第。
閉じる

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第4回 日本推理作家協会賞 長編部門  
『ペトロフ事件』 中川透(鮎川哲也)
[ 候補 ]第4回 日本推理作家協会賞 長編部門  
『薫大将と匂の宮』 岡田鯱彦