御挨拶

貫井徳郎

 皆様、新年明けましておめでとうございます。
 昨年は悲しいことに、いくつかの訃報がありました。大事な仲間である協会員を亡くすのは、とても残念なことです。その一方、大半の協会員の皆さんと新年を迎えられたことを嬉しく思います。来年以降も、同じ喜びを皆さんと共有できることを願っております。
 さて、昨年を振り返りますと、変化の年だったように思います。コロナ禍が明けた、という表現は正しくないにしても、新型コロナウイルスが感染症法上の五類に分類され、日々の制約が少なくなったことは事実です。これまでは編集者との打ち合わせをリモートで、ということが多かったはずですが、昨年は直接会う機会も増えたのではないでしょうか。そして、対面でコミュニケーションを取る喜びを改めて感じた一年であったのではないかと推察します。
 当協会も、コロナ禍で活動形態を大きく変えました。理事会はリモートでやり、立食形式のパーティーは行わず、日本推理作家協会賞と江戸川乱歩賞の贈呈式は公開形式に切り替えました。これらの変更は直接的には感染を防ぐためでしたが、時代の要請という側面もありました。遅かれ早かれ、変更は必要だったと認識しています。
 リモートでやる理事会は便利です。事務局までの往復の時間を無駄にせずに済みます。ですがその一方、他の理事と雑談をする機会がなくなりました。理事会で正式に発言するほどではないけど、代表理事の耳には入れておきたい、というレベルの話が伝わってこなくなりました。これは大きな弊害です。
 立食形式のパーティーがないことを残念がる声も、よく聞きました。なかなか参加が難しい形態ではないかと思っていましたが、惜しまれて初めて、協会としてはやるべきイベントであったと理解しました。ですので、まずは新年会を再開します。
 とはいえ、以前とまったく同じ形でありません。会場を日本出版クラブホールに移し、会費をこれまでの半額の五〇〇〇円としました。ぼく自身、新人の頃(というより十年目くらいまで)は一万円の会費を高いハードルと感じて参加しませんでした。五〇〇〇円とすることで、まだ若い書き手の方にたくさんいらしていただけたらと考え、変更しました。
 また、コロナ禍前は恒例となりつつあった、新人の自己アピールタイムも設けます。コロナ禍にデビューした人は自己アピールできなくてかわいそう、との話をいくつも伺っていたので、昨年一年間に限らず、この三年間にデビューした新人は登壇できることにします。まだキャリアの浅い皆さん、ぜひご参加ください。
 ただし、新年会再開はあくまで試みのひとつです。ですので、夏の懇親会はまだ見送ります。今年、当協会で行う立食パーティーは新年会のみとご了解ください。
 一方、日本推理作家協会賞江戸川乱歩賞合同贈呈式は、今年も継続します。コロナ禍故の緊急措置的な変更と捉えている方も多そうですが、そうではありません。受賞の喜びは業界内だけで共有していればいいものではなく、読者にも伝える必要があると考えます。受賞者のファン、あるいは賞のファンであれば、贈呈式に興味は当然あろうかと思います。これを公開形式にしたのは、正しい方針転換だったと確信しています。
 個人的な経験ではありますが、非常にたくさんミステリーを読んでいて、店頭の売り方にも工夫を凝らしている書店員さんが、日本推理作家協会賞の存在を知らなかったというショッキングな出来事がありました。書店員さんにとって意識すべきは、芥川賞と直木賞、そして本屋大賞だけだったのです。日本推理作家協会賞は全ミステリー作家の憧れの賞であり、錚々たる名作が受賞している歴史もあります。そんな賞がその程度の知名度にとどまっていていいはずがありません。
 江戸川乱歩賞も同じです。どれだけ真剣な討議の末に受賞作が決まっているかを直接読者に伝えれば、これまで以上に興味を持ってもらえるのは間違いありません。宣伝だけでは受賞作を読む気にならなかったが、著者が喋っているところを見て読んでみようと思った、という読者も少なくないでしょう。
 これからは、我々作品の送り手はいっそう読者を意識し、大事にする必要があります。不況が常態となった出版業界ですから、読者に届ける工夫は様々凝らしていかなければなりません。以前の形式の方がよかった、と考える協会員や編集者がいらっしゃるのは無理からぬことと理解しますが、同じことを続けていては時代から落伍するだけです。積極的な変化を受け入れていただけると幸いです。
 最後になりましたが、協会員の皆さんのご健康とご多幸をお祈りしております。直接お目にかかる機会があることを願っています。