土曜サロン

「知られざるミステリ映画、その深遠(?)なる世界」
土曜サロン・第一九三回
二○一三年五月十八日

 一大労作『ミステリ映画の大海の中で』(アルファベータ刊)は先に決まった日本推理作家協会賞では残念ながら次点に留まったが、その著者・小山正氏にお越しいただいた。本業のTV局社員として、第一三七回でも推理ドラマの話を当サロンで伺ったことがある。
 今回は、オーソドックスな名作より怪作・珍作を愛するらしい氏だけに、秘蔵のレア物DVDの再生を交えながら、珍しもの好きには眼福の三時間となったが、氏は開口一番、表題のテーマのもと、ミステリ映画とは何か改めて考えてみたという。そしてシナリオライター高岩肇の、「良い探偵小説を原作にしても良い映画にはならない。何が起こるかを興味とする映画と、最初に何が起こったかを追求する探偵小説は相反するものだ。映像で謎解きを満喫させようとするなら、倒叙物しかない」(要旨)という説が紹介されたが、一九五四年に早くも刑事コロンボを予見していた慧眼に驚かされる。
 続いてミステリ映画史の考察となり、最初の犯罪映画、映画の発明から四年後のジョルジュ・メリエス「ドレフュス事件」(一八九七)は小山氏でさえ観ていないそうで、黎明期の作品は現存が確認されないものが多いとの嘆きも。溝口健二の撮った「813」「七面鳥の行衛(ホームズ物の「青い紅玉」)」などは国内の映画コレクターによって死蔵されているか、中国や旧ソ連といった海外に残っているかも知れなくて、いずれ発掘したい由。ともかく、世界最初の探偵映画「シャーロック・ホームズ困惑す」(米)30秒や晩年のコナン・ドイル・インタビューなどを見せてもらう。
 また、イギリス時代のヒッチコック映画の大半は戯曲を原作としており、映画研究には戯曲の研究が不可欠だという。そして、映像と小説にまたがって活躍した推理作家、エドガー・ウオーレスやエリック・アンブラーなど、研究課題は尽きない。
 さらに、小山氏が個人的に特に注目するクリエーター六人衆──。マキノ雅弘や黒澤明とのコンビ作品で知られる小國英雄。事件事故があるとドキュメンタリーを撮りに行って自身の低予算映画に繋げて迫力を出した映像リサイクリスト、アンドリュー・L・ストーン。「ゴールドフィンガー」や「続・猿の惑星」などエンタテインメントを通じて反核を訴えたポール・デーン。『ミステリ映画の大海の中で』でも一章を割かれているおバカなギミックの帝王ウィリアム・キャッスル。それにコロンボの生みの親レヴィンスン&リンクを加えて六人を語るはずが惜しくも時間切れ。語りたいことはまだまだありそうだ。
 最後に、氏の私的〈異色〉ミステリ映画ベスト10を紹介しておく。「TheNinthGuest」(33・米)「Dedodestjem」(58・瑞)「TheGirlHunters」(63・米)「Desyatnegrityat」(87・ソ連)「Invasion」(69・アルゼンチン)「影なき男の影」(41・米)「蝋人形館の怪奇殺人」(73・米)「暗闇の中の殺意」(71・米)「宇宙船02」(69・英)「真昼の切り裂き魔」(84・日)。ちなみにワタクシは一本も観ておりません。どこまでも奥が深い世界です。
[出席者]石井春生、直井明、平山雄一、松坂健、新保博久(文責)
[オブザーバー]深堀骨