新入会員紹介

入会のご挨拶

武内涼

 はじめまして。この度、入会させていただきました武内涼と申します。主に時代小説を書いております。どうぞ、よろしくお願い致します。
 ご推薦して下さいました細谷正充さん、今野敏さんに、この場をかりまして、心より御礼申し上げます。ありがとうございました。
 私は二○一○年、「第一七回日本ホラー小説大賞」の最終選考までのこった作品を、貴志祐介先生にご推輓いただきまして、作家になる機会を得ました。「忍びの森」という小説です。改めて、貴志先生に厚く御礼申し上げたいと思います。
 ありがとうございました。

 さて、何を書こうか迷ったのですが、作家になる前は何をしていたか、どうして小説を書くようになったか、簡単に説明したいと思います。
 私は劇場映画の「制作部」という仕事をしていました。簡単に申し上げますと、テレビのADさんのような仕事です。お弁当を頼んだり、機材を満載した車を運転したり、スタッフが飲む温かいコーヒーや温かいお茶(未曾有の量の)をつくったり、誰よりも早く現場に乗りこみ、冷暖房をつけ、掃き清め、誰よりも遅く現場にのこって、掃除をして、動いていた棚とか箪笥とかを元に戻して、鍵をしめて帰る……という仕事です。
 過酷な現場の時は、深夜十二時くらいに帰宅。朝、三時くらいに家を出る、そういう生活をつづけておりました。
 もっと過酷な現場の時は、深夜一時くらいに、次の現場まで移動。その門前で夜が明けるのを待ち、朝四時くらいにむっくり起きて、動き出す……そんな日々を送っておりました。
 大体、何でお前その仕事、していたの? と疑問をお持ちになるかもしれません。
 夢が、ございました。
 映画監督になりたい、あるいはジョージ・ルーカスのような制作総指揮と呼ばれる人になりたい、という途方もない志がありました。
 いつか監督になるぞと、この一念で、制作部をつづけていたわけです。
 しかし私は制作部としてそれほど優秀ではありませんでした。
 三十をすぎ、体力的な厳しさというものも、強く感じました。
 私より若く、私より優秀な人間が、続々と出てきます。突き上げられる感じがします。
 自分はこのままスタッフをつづけていても、一生監督になれないのではないか、という強い挫折感に打ちひしがれました。
 そのような中で、私はある一つの決断をしました。

 それは制作部をやめることでした。

 何故、その決断に至ったかというと、私の中に、これは面白いぞ、という映画のネタ、つまり「話」がいくつかありました。その「話」を、面白いと共感してくれる人が世の中にいるのなら、それを届けられないまま私が終るのは世の中的に悲しい(少々不遜ですが)、また私自身もとても悲しい、この二つの思いからでした。
 とにかく「話」を書く。それが脚本なのか、小説なのか、漫画の原作なのか、まだわからないが「話」を書くことに専念し、それを飯の種にする。
 そういう思いで、私は仕事をやめました。
 野に下ったわけです。

 さて、仕事をやめますと……何をしても自由なのですが、近い将来の不安、つまり何日か後の食費の不安と常に隣り合わせになるわけです。
 無限の可能性が開けると同時に、拭い去りようのない憂鬱が、忍び寄ってくるわけです。
 そんな状態の私は、新宿御苑に行きました。新宿御苑には、私の好きな植物が沢山生えているので、何かひらめく気がしたわけです。
 ちなみに、真夏でした。
 私は、強烈な日差しで焼けたようになったベンチに座りました。そして何か面白い「話」を思いつくまで、決してベンチをはなれないぞ、ペットボトル水も、昼飯も買いに行かないぞ、決意しました。
 太陽光で、ひたすら己を追いつめるという奇策に出たわけです。
 午後二時過ぎ。
 ある一つの「話」が思い浮かびました。
 私の好きな忍者と妖怪を、一つの寺で戦わせたら面白いんじゃないのか。その寺は、やはり私の好きな植物にかこまれた荒れ寺……つまり鬱蒼とした密林の中の、古寺にしたら面白いんじゃないのか。
 こうして生れたのが、私のデビュー作「忍びの森」です。冒頭でふれた作品です。
 書きはじめた時、それが脚本なのか、小説なのか、わかりませんでした。
 書いてゆく内に小説になりました。
 まだまだ、いろいろ勉強しなければならないことが、あると思います。
 まだ洗練されていない部分は多いと思いますが、こういう物を書きたいなという、強い原動力があります。
 それは、報われなかった日々、暗く厳しかった人生の一時期に感じた感じた様々な思いです。(今も……決して楽ではありませんが)
 働いても働いても報われない、自分の夢や志と逆の方向に人生が滑落している気がする、将来に希望がもてない……そのような人たちが、面白い、あっこれ今の私だ、と心の中で叫べるような小説を、書いていきたいと思っております。
 どうぞ、よろしくお願い申し上げます。