新入会員紹介

入会の挨拶

斜線堂有紀

 この度、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました斜線堂有紀と申します。入会に際してご協力頂いた皆様には、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。幼い頃から推理小説を愛好し、はやみねかおる先生の作品を通して名探偵の何たるかを知り、島田荘司先生の傑作である「斜め屋敷の犯罪」にあやかって斜線堂有紀という大仰なペンネームを付けた身ですので、この度のことを大変嬉しく思っております。推理小説はただの趣味というだけではなく、自分の人生に深く食い込んでいる灯火のようなものです。
 さて、日本推理作家協会といえば、かの江戸川乱歩氏が中心となって設立した探偵作家クラブを前身とする歴史の長い団体です。そんなところに籍を置くのですから、一推理作家としてこれからも精進して参らねばと身の引き締まる思いです。
 その身の引き締まる思いが魂に何らかの変革を起こしたのか、ここ最近は建物を見ればここで事件が起こるとしたらどんなものになるだろうか、不可解なものに出くわせば何とか理屈を付けられないかと九マイル問題をやり始め、友人とオードブルを囲めば「誰がどのおかずを食べたがっているかは観察と推理で明らかに出来るのでは?」と思うようになりました。友人がフォークを取り出して小皿に醤油を湛えたなら、これはもうシュウマイを真っ先に食べるだろう、と予測出来るというわけです。現実には、そのまま友人のフォークはフライドポテトを突き刺していたのですが。そう簡単にはいかないとは思いつつ『推理』が外れてしまったことを悔しく思うようになりました。完全に道を踏み外しているような気が致します。日本推理作家協会の重みの為せる業ですね。
 作家として活動し始めたばかりの時も、身の回りのもの全てを創作に生かし、人生を全て小説に献じなければという思い込みに取り込まれましたが、ここにきて新たな段階に足を踏み入れたような気がします。恐ろしい話だと思います。
 それと同時に、これからの人生のなんと楽しげなことか、とも思います。これから自分の人生にどんな喜ばしいことが起ころうと、どんなに悲しいことが起ころうと、それは全てミステリーの糧になることでしょう。先述した九マイル問題─「九マイルは遠すぎる」から、北村薫先生の傑作「砂糖合戦」、そして多すぎる五十円玉を両替する男の謎を追う「五十円玉二十枚の謎」など、自分の生活の延長線上に置かれた魅力的な謎の何と多いことでしょうか。推理作家を名乗るからには、これからはどんな衝撃的な出来事が起ころうと、それを薪に筆の進みを早めようと思います。そう思えるようになっただけでも、いい人生だったと(今からでも)胸を張れます。仮に今日自宅が燃えたとしても「どうして自分の家は燃えたのだろう?」を主題にした小説が書けるようになったのは救いだと思います。もうどんなものでも真に自分を脅かすことはないのだ、と安心しました。絶対に家は燃えてほしくないですが。
 長々と申し上げましたが、日本推理作家協会に加入出来たことで、人生が今までよりもっと楽しくなりました、というお話です。感謝しかありません。スティーヴン・キング先生の「しなやかな銃弾のバラード」のような顛末を迎えないよう、健やかに作家生活を送っていこうと思います。
 最後になりますが、かねてから人生で一番楽しいことは小説を書くことであり、二番目に楽しいことは小説を読むことだと思っていました。重ねて申し上げると、小説の中で一番面白いものが謎を持った推理小説だと思っております。そのあまりに大きな存在に筆を以て挑めることを嬉しく思っております。
 これからも面白い推理小説を書いていきたいと思いますので、未熟者ではございますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。