一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

2017年 第70回
  • 長編及び連作短編集部門愚者の毒宇佐美まこと
  • 短編部門黄昏薬丸岳
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1991年 第37回 江戸川乱歩賞

1991年 第37回 江戸川乱歩賞
受賞作

ないとだんさー

ナイト・ダンサー

受賞者:鳴海章(なるみしょう)

受賞の言葉

 機体製造番号二〇七八三/二三〇、SR-46型、ボーイング747。登録番号JA八一一九。同機は、一九八五年八月十二日午後六時十二分、羽田空港C滑走路を離陸し、四十四分後、群馬・長野の県境にある御巣鷹山に墜落した。
 その後のシミュレーター実験で、同じ状態を再現し、ヴェテランパイロットたちが事故回避に挑んだが、傷ついた機体を海へ誘導するどころか、二十六分間飛ぶことすらできなかったといわれる。墜落機の機長は超人的な技を発揮し、四人の命を救った。自らの死を乗り越えた『プロ』の手腕に胸が痛くなるほど心が震えた。能力のすべてによって乗客を「助ける」パイロットを描きたいというコケの一念が、この度の“ナイト・ダンサー”となった次第。
 大変に権威ある賞をいただき、茫然としています。本当にありがとうございました。

作家略歴
1958~
北海道帯広市生れ。日本大学卒。
零細PR会社に勤務していた一九九一年、「ナイト・ダンサー」で江戸川乱歩賞を受賞。「ネオ・ゼロ」「シャドー・エコー」「ゼロと呼ばれた男」「荒鷲の狙撃手」といった航空サスペンスのほか、「原子力空母『信濃』」や「国連空軍」などシミュレーション戦記のシリーズがある。ほかに、「第七の天使」「サバイバルゲーム」「俺は鰯」など。

1991年 第37回 江戸川乱歩賞
受賞作

れんさ

連鎖

受賞者:真保裕一(しんぽゆういち)

受賞の言葉

 小学生の頃、マンガに夢中だった。TVといえばアニメーション、手にする本は漫画、マンガ、まんが・・・・。行く末を案じてか、活字も読ませるためにと父が買ってくれた本が、ポプラ社の江戸川乱歩シリーズ第1巻「怪人二十面相」だった。以来、僕の熱中するものにミステリが加わることとなった。
 とは言っても、どちらかというと、マンガに対するのめり込み度のほうが高かった。今ではアニメーションを仕事とし、何本かのマンガ原作も書いている。それに・・・・何を隠そう、あれほど熱中していた江戸川乱歩シリーズも、中学二年の夏、マンガの新刊ほしさに古本屋に売ってしまっている。今にして思えば何とももったいなく、また、ばちあたりなことをしたものだが、当時の僕にはどうしても読みたいマンガがあったのです。
 でも、これからは、ミステリとのつき合い方が少し違ってきそうです。

作家略歴
東京都出身。千葉県立国府台高校卒。アニメーション・ディレクターを経て、一九九一年「連鎖」で第三七回江戸川乱歩賞を受賞。以後「取引」「震源」「盗聴」「ホワイトアウト」と年一作のペースで発表。最近では年二作をひそかな目標としているとの噂がある。
2006年『灰色の北壁』にて第25回新田次郎賞を受賞。
著作は他に「朽ちた樹々の枝の下で」「奪取」「奇跡の人」等。なお、作中のしつこい取材はあくまで本人の趣味にすぎず、そればかりを誉められると少々気分を害するらしい。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 本年度乱歩賞は、一月末日の締切りまでに応募総数二六一篇が集まり、予選委員(香山二三郎、郷原宏、関口苑生、松原智恵、松村喜雄、結城信孝の六氏)により最終的に下記の候補作五篇が選出された。
<候補作>
 ナイト・ダンサー       鳴海  章
 地獄のウェーブ        竹本みやこ
 ロボットは、ためらいなく殺す 梅原 克哉
 かぐや姫殺人事件       瑞木 晶子
 連鎖             真保 裕一
 この五篇を六月二十七日(木)福田家「扇の間」において、選考委員・阿刀田高、生島治郎、五木寛之、逢坂剛の四氏(五十音順)の出席のもとに、慎重なる審議の結果、鳴海章氏の「ナイト・ダンサー」と真保裕一氏の「連鎖」の二作に決定。授賞式は九月二十五日(水)午後六時より帝国ホテルにて行われる。
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選評

阿刀田高[ 会員名簿 ]選考経過を見る
“連鎖”は社会派推理小説らしい骨子を備えた手厚い作品である。食品検査官という主人公の設定も新しいし、なるほど、こういうところにも人間の欲望と、そこから生ずるドラマが存在するだろうな、と読者に納得させてくれるものがある。登場人物が、ありきたりのモラルの持ち主ではなく、大人の人格を感じさせてくれるところも、おもしろい。後半で、ココム違反やら麻薬の輸入やら、あるいは主要な人物について、二つのどんでん返しを置いたりして、少し繁雑に作り過ぎたようにも感じられたが、安定した筆力と、すぐれた取材力、構成力の持ち主であることは疑いない。よい受賞者をえたと思った。
“ナイト・ダンサー”は、スケールの大きな作品である。航空機事故と、それに関連して発生するさまざまな出来事と人間の思惑。つぎつぎに関係者を登場させ、その身分を紹介し、ちょっとした癖などを披露する手法には、フレデリック・フォーサイスの“ジャッカルの日”を連想した。知識も広汎で、正確で、たたみ込むような筆致とともに評価されてよいものだろう。ただ繁雑にふくらみ過ぎて、エンターテインメントとしては読みづらい。これだけの事件が実際に起きれば、現実はこの作品以上に複雑であろうが、小説としては、もう少しわかりやすい構成が必要だったろう。ナイト・ダンサーの使命はなんだったのか、私はそのあたりに不満を覚えたが、この作家の可能性に賭けたいという他の委員の意見には、さほどの異存はない。
“かぐや姫殺人事件”は、義経がジンギスカンになった、といったたぐいの作品である。この手の嘘は、うまくつくだけでもむずかしい。その点については、作者の作りを私は評価したけれど、その他の部分が、たとえば登場人物の存在感などが弱いように感じられた。この作者には、これ以外にどんな作品が書けるのか、そこにも不安がないでもない。
 他の二作については、“地獄のウェーブ”のほうに好感を持った。
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生島治郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 私は『連鎖』『ナイト・ダンサー』『かぐや姫殺人事件』の三本のうちなら、どれが入選作になってもいいと思って選考委員会に臨んだ。
 そのうちの『連鎖』と『ナイト・ダンサー』が受賞と決ったので満足している。
『かぐや姫殺人事件』は竹取物語の時代における殺人考証の部分は面白いが、それが現代の殺人事件と重なり合うところにむりがある。つまり、歴史ミステリの部分は面白いが、現代ミステリの部分では欠点が多すぎるということである。しかし、こういう欠点は、今までの乱歩賞候補作品にも数多く見られた。多分、新人の力倆ではその両方を成立させるのはむりということかもしれない。
『ナイト・ダンサー』にも、前半の見事な臨場感とストーリイ・テリングの妙にくらべると、後半が辻褄合わせのためか因縁話風にまとめてあるのが気になる。しかし、この書き手は今後に充分期待できるだけの筆力を持っていることは間ちがいなく、私はその可能性を充分に評価したいと思う。
『連鎖』は文章にテンポがあり、主人公に検疫Gマンを配するなど、登場人物の描き方がユニークであり、しかも、意外性の使い方に仲々のテクニックを示してくれる。ただ、後半になるに従って、ストーリイを複雑にしすぎているきらいがある。もっと読者にわかりやすく整理する必要があるだろう。謎を深めれば、推理小説としての価値が高まると考えるのはアマチュアの陥りやすい欠点なのである。しかし、この書き手は明らかにプロに成り得る素質を持っている。
『ロボットは、ためらいなく殺す』と『地獄のウェーブ』の書き手は、小説というものを根本的に考え直す必要があるのではないか。
 異常な殺人事件をひとつ、それにかかわるトリックをひとつ考え出せば、推理小説が成立すると考えるようでは、とても乱歩賞に応募する資格はない。
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五木寛之[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今回の受賞作である「ナイト・ダンサー」と「連鎖」は、きわめて対照的な作品である。
 推理小説といえども人間を描くというのは当然の作家の仕事であるから、その点では「連鎖」のほうに分があるように思われるが、読む側をひきつけて離さぬ奇妙な魅力が「ナイト・ダンサー」には確かに存在していた。それはモノとメカニズムに関する即物的な描写において特に鮮明にあらわれてくる。「ナイト・ダンサー」における機械の描き方は、決して機械的ではない。カタログそのものでもない。調べた知識にせよ、作家の感覚をとおして構成された文章である。読む人によっては無味乾燥とも、煩雑とも感じられそうな技術用語の羅列が、私にはすこぶる興味ぶかく思われて舌なめずりしながら読みすすんだのだから小説というやつは不思議なものだ。人間関係の描写になると、とたんに興ざめしてしまう欠点を承知の上で、テクノ・サイエンスの新種として「ナイト・ダンサー」を強く推す結果となった。日米間のパワー・ポリティックスの構造を単純化しすぎている点は目をつぶるとしても、安易なナショナリズムに傾斜することのないよう、作者に望みたい。
「連鎖」は食品汚染問題というアクチュアルなテーマの選び方と、主人公の職業の設定に新鮮さを感じた。地味な文章ながら大人の読むに耐える現代小説となっている。この作者には職業作家として自立するに足るサムシングエルスがあると思う。満票で受賞作となったのも、その期待あっての結果だろう。
 ほかに注目された作品としては、「かぐや姫殺人事件」と「地獄のウェーブ」があった。両作品とも発想そのものにオリジナリティのある異色の作風で、選考会の席上でもさまざまな議論が展開されたことを付記しておきたい。
 江戸川乱歩賞も幅が出てきたものだ、とあらためて感じさせられた今回の選考会だった。
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逢坂剛[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 乱歩賞という名前を意識しすぎるのだろうか、テーマは面白いのに無理やりトリックをくっつけ、木に竹をついだような小説にしてしまうケースが多い。もう少し柔軟な発想で応募してもらわないと、乱歩賞そのものがどんどん狭い領域に落ち込んでしまう。乱歩賞=トリック物という図式から、そろそろ脱却してほしいと思う。 
『ロボットは、ためらいなく殺す』は残念ながら小説になっていない。警察や銀行、会社の仕組みをもっと勉強してほしい。
『地獄のウェーブ』はトラック野郎の仕事ぶり、無線のやりとりなどに見るべきものがあるが、受賞作の水準には達しなかった。
『かぐや姫殺人事件』は、竹取物語をテーマに選んだところはよかったが、現実の殺人事件と遊離しすぎて、文字どおり木に竹をつぐような結果になった。犯人の心理が描けておらず、殺人をゲームのように扱う感覚には、ついていけなかった。
『ナイト・ダンサー』の前半部分は実に快調な展開で、ストーリーテリングの才能を充分に感じさせた。航空機に関する知識は相当なもので、これを取材だけでこなしたとすれば、たいした力量といわなければならない。ただし小説の方は場面転換が多すぎ、後半にはいると話があちこち錯綜して、ひどく読みにくくなる。作者には展開がよく分かっているのだろうが、それを読者にも分かるように書いてほしかった。
『連鎖』は今回の候補作の中で、もっとも文章力のある作品だった。食品検査官という主人公の設定が珍しく、取材・調査も行き届いている。欠点がないわけではないが、それを補う小説的魅力があり、今後伸びる可能性を秘めた作者だと思った。華がないという意見も出たが、それはこれから咲かせてくれればいい。乱歩賞にはこのところ、社会派とハードボイルド派を融合させた作風の受賞作がなかっただけに、新風を吹き込む意味も込めてこの作品を第一に推した。
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選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第37回 江戸川乱歩賞   
『地獄のウェーブ』 竹本みやこ
[ 候補 ]第37回 江戸川乱歩賞   
『ロボットは、ためらいなく殺す』 梅原克哉
[ 候補 ]第37回 江戸川乱歩賞   
『かぐや姫殺人事件』 瑞木晶子