一般社団法人日本推理作家協会

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1985年 第31回 江戸川乱歩賞

1985年 第31回 江戸川乱歩賞
受賞作

もーつぁるとはこもりうたをうたわない

モーツァルトは子守唄を歌わない

受賞者:森雅裕(もりまさひろ)

受賞の言葉

 この作品の清書にかかった頃、テーマを同じくする映画「アマデウス」がやって来ると知り、不吉な予感がしたのですが、案の定、アカデミー賞受賞作として脚光を浴びることになってしまいました。
 おかげで、後から世に出る形となった私の作品をその亜流だと誤解なさる方もあるのですが、作者としては、読んでくだされば、映画をご覧になった方もそうでない方も、楽しんでいただけるはずだと申しあげるしかありません。
 受賞の発表と同時に鳴りまくる電話、渡された名刺の束、届いた祝電の山に、あらためて乱歩賞の重みを思い知らされました。
 かような未熟者を名誉ある賞の歴史に加えてくださった選考委員の方々、誠意をもって接してくださった講談社の方々、心やさしい祝電をくださった先輩受賞者の皆様に心から御礼申しあげます。

1985年 第31回 江戸川乱歩賞
受賞作

ほうかご

放課後

受賞者:東野圭吾(ひがしのけいご)

受賞の言葉

 初めて読んだ推理小説は小峰元さんの「アルキメデスは手を汚さない」。高校生の時でした。
 それまでロクに本を読まなかった僕が、この本によってミステリー狂への道を歩み出したのですから、まさしく運命の出会いということになります。
 それから約十年後、僕の病気はますますひどくなっていました。何しろただ読んだり書いたりするだけでは飽き足らず、無謀にも乱歩賞を狙うという夢想にとりつかれてしまっていたのですから。
 チャレンジすること三回、此のたびついにその夢を実現できました。念ずると、願いが叶うこともあるのですね。
 しかし喜んでばかりはいられないことに気づきました。早くも次なるチャレンジの場が、舌なめずりをして僕を待っているのですから。
 乱歩賞というのは、どうやら僕が想像していた以上の化物のようです。

作家略歴
1958~
大阪市生れ。大阪府立大学卒。
日本電装に勤務していた一九八五年、「放課後」で江戸川乱歩賞を、九九年「秘密」で日本推理作家協会賞長編部門を受賞。
2006年『容疑者Xの献身』にて第134回直木賞と第6回本格ミステリ大賞小説部門を受賞。
2012年『ナミヤ雑貨店の奇蹟』にて第7回中央公論文芸賞を受賞。
2013年『夢幻花』にて第26回柴田錬三郎賞を受賞。
2014年『祈りの幕が下りる時』にて第48回吉川英治文学賞を受賞。

長編「卒業」「学生街の殺人」「鳥人計画」「宿命」「ある閉ざされた雪の山荘で」「変身」「天空の蜂」「どちらかが彼女を殺した」、連作集「交通警察の夜」「名探偵の掟」、短編集「怪笑小説」「毒笑小説」など、本格推理を中心に作品多数。エッセイに「あの頃ぼくらはアホでした」。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

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 本年度乱歩賞は、一月末日の締切りまでに応募総数二七二篇が集まり、予選委員(及川雅、関口苑生、千代有三、原田裕、松原智恵、結城信孝の六氏)により最終的に下記の候補作五篇が選出された。
<候補作>
 風燈              玉塚 久純
 極秘新薬殺人事件        池上 敏也
 阿片戦争殺人事件        大須賀祥浩
 モーツァルトは子守唄を歌わない 森  雅裕
 放課後             東野 圭吾
 この五篇を七月二日(火)福田家「扇の間」において選考委員・河野典生、小林久三、土屋隆夫、伴野朗、山村正夫の五氏(五十音順)の出席のもとに、慎重なる審議の結果、森雅裕氏の「モーツァルトは子守唄を歌わない」と東野圭吾氏の「放課後」に決定。授賞式は九月二十六日(木)午後六時より新橋第一ホテルにて行なう。
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選評

河野典生[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 「極秘新薬殺人事件」「風燈」「モーツァルトは子守唄を歌わない」「阿片戦争殺人事件」「放課後」以上が小生による順位である。
 読者を快適に<もてなし(エンタテイン)>するために、その作品の持つ小説世界に最もふさわしい人物設定と語り口(文体、プロットなど)を創造すること――それが娯楽小説作り(エンタテインメント)の基本である。
 特に密室とか連続殺人とか国際的陰謀など、日常的でない事件が頻発するミステリー小説の場合は、いっそうそういう技法の問題を重視すべきだと思っている。難しく書けというのではない。なるほど、こういうバカがいる世界ならこういうバカらしい事件も起り得るだろうな、でもよいのだ。いつの間にかひき込まれて大いに楽しめるように書け、ということである。むろん、こういう重厚な人物が・・・・、こういうタフガイが・・・・という場合もあるだろう。小生との評価の違いについて「文学観の違いだから仕方がない」という声もあったが、これは文学論以前の基本的な技術論であって、仕掛けの大きい小説であればあるほど、フィクション化の労力を惜しむな、小説世界を構築して書け、と言っているのだ。たとえば、そのあたりの会社員が突然<探偵役>となって007の世界に出没する話を糞リアリズムで描いていいわけがない。
 まあプロ作家にはそれなりの事情があって構築も熟成もさせないまま凡作を生産し続けることもあるが、クリスティにしろ、チャンドラーにしろ、ヴァルー&シューヴァルにしろ古今東西の名作はすべて、人物設定、語り口、内容が、みごとに一体化した独自の小説世界を持っている筈だ。新しい人たちはそれらの真贋を見極め、志を高く持って下さい。
 作品について少し。「極秘新薬――」は細部に問題は多いが、やや過剰に思える科学的描写や会話に独特の臨場感があり、小生は最も楽しませてもらった。「モーツァルト――」は古典音楽の巨人をすべて俗物扱いするなど面白いが、暗号その他の発想が安易にすぎると思う。
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小林久三[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 東野圭吾氏の「放課後」と森雅裕氏の「モーツァルトは子守唄を歌わない」の二作が受賞したが、順当な結果だといえるだろう。私は、この二作品を推した。
 「放課後」は、学園ミステリーである。女子高校を舞台に、狭義、広義の意味での二つの密室殺人に挑戦している。私は、まずこの意欲を高く買った。動機や小道具の使い方などの点で、疑問がないわけではないが、致命的な欠陥にはなっていない。
 ややもすれば、平板で、陳腐な作品にもなりかねない学園ものを、水準以上のミステリに仕立てあげた作者の力量は相当なものである。この作者は、昨年度の乱歩賞にも同じ学園ミステリで挑戦し、わずかの差で受賞を逸したけれども、前作にくらべて進境いちじるしい。年令も若く、将来が楽しみな作家である。
 同じ若い作者による「モーツァルトは子守唄を歌わない」の作者の才能に、私は感服した。
 音楽の知識にとぼしい私は、ミステリの鍵となる暗号の良否と、作品のオリジナリティがどこまであるのかが読みとれなかったが、探偵役にベートーベンを起用し、この楽聖の俗物性を徹底的にからかっている作者の才気は抜群である。一種のパロディ・ミステリとして面白く読め、エンターテインメントとしても申し分がない。
 受賞作とはだいぶ差があったが、「阿片戦争殺人事件」、「風燈」もなかなかの力作である。この二作とも、野心的な題材で光るものをもっているのだが、残念なことに、前者の作者は小説というものをカン違いし、後者はエンターテインメントに仕立てるために、もう一工夫あったらと惜しまれる。
 「極秘新薬殺人事件」も、今日的な題材で、最後まで一気に読ませるだけの力量の持主だが、ミステリの点で、重大な計算ちがいをしている。次回の応募に期待したい。
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土屋隆夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今回の候補作五篇は、前回と違って、作品の題材や背景にそれぞれ特色のあるものばかりで、たいへん面白く読むことができた。しかし、小説技術の面から見ると、いろいろな欠陥が目について、私自身、授賞作を一篇に絞ることができなかった。選考会に出席する前から、おそらく各委員の意見が分かれるであろうと予想していたが、結果はその通りになってしまった。授賞作なし、という事態は避けたいという各委員の気持が、今回の決定になったわけで、いずれも満票ではなかったことを受賞者は知っていてほしい。
 東野氏の「放課後」は、前回候補になった「魔球」よりよくできている。私はその努力と将来性を買って、この作品を推したが、そのトリックやストーリイには、いくつか不手際の点やミスのあったことを指摘しておく。殺人の動機も説得力にとぼしい。刊行までに、できるだけ手直しをしてもらうことを条件に、私は授賞に賛成した。
 森氏の「モーツァルトは子守唄を歌わない」は、ベートベンを探偵役にした異色の作品である。これも、ベートベンと弟子の漫才コンビによるコミックミステリーとして読めば、結構面白い。重たい題材を、軽妙に処理した作者の力量を買って、授賞に同意した。
 大須賀氏は、かなり筆力のある人だと思うが、前回同様、劇画的なストーリイの展開に失望した。小説とは何か。作者自身、もういちど問い直して、劇画的世界から抜け出してほしい。
 池上氏の作品は、人物の描写があまりに平板で、小説としてのコクがない。殺人の捜査にしても、現在の法医学や鑑識の技術をまったく無視している。
 玉塚氏の「風燈」は、歴史小説、あるいは戦記文学としては努力作であろうが、推理小説とは異質の作品であると思った。
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伴野朗[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 玉塚氏の『風燈』は、元寇遠征軍のなかの連続殺人という舞台設定に感心した。特に主人公の南宋の敗将がいい。表現の古めかしさ、シナリオのト書きのような地の文章には閉口したが、私には面白く読めた。選考委員各位の同意は得られなかったが、困難な歴史推理に挑戦したことを高く評価する。
 池上氏の『極秘新薬・・・・』は、開発新薬のトリックによりかかり過ぎて、人物や背景がおろそかになった。この卓抜のトリックを生かすためには、もっと丁寧に書き込まなくてはならない。
 大須賀氏の『阿片戦争・・・・』は、壮烈な失敗作といえる。種戦争と香港主権の中国返還を中心においた構成は実にいい。だが、惜むらくは、ストーリーがご都合主義に終始した。また、中国近代史の把握が大雑把すぎる。辛亥革命で清が倒れていなかったり、関東軍が上海にいたり、勘違いではすまされない間違いが多すぎた。付け焼刃でない勉強が望まれる。書ける人だけにものたりない。それに原稿にナンバーをふるのは礼儀である。
 森氏の『モーツァルト・・・・』は、最も楽しく読めた。探偵役のベートーベンの俗物ぶりが、なんとも嬉しい。弟子のツェルニーとのやりとりは秀逸だ。ただ、モーツァルト毒殺というよく知られた話を土台にしているだけに、作者の独創性が問題となる。その意味でオーストリア国王と、ローマ法皇の対立をもっと前面に押し出す必要があったのではないか。受賞は当然といえる。
 東野氏の『放課後』は、まとまりがあった。将来性も十分と見る。だが、推理小説では最も大切な動機が、なんとしてもおかしい。妻のエピソードも不要だ。読後感が、きわめて悪かったことも付記したい。それらの点を指摘した上で、二作授賞に同意した。だが、一作授賞のすっきりした形が望ましいという持論には変りはない。
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山村正夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 昨年度に較べると候補作のレベル・アップが見られたのは嬉しかったが、その反面、一作に絞って強力に推せるものがなかった。選考会は難航するだろうと予想していたら、やはりその通りになった。最終的に二篇が残り同時授賞が決定したのは、作品の出来栄えに甲乙がつけ難かったからにほかならない。
 「モーツァルトは子守唄を歌わない」は、ベートーベンを探偵役にして、モーツァルトの死の謎を解くという着想が秀抜だった。ベートーベンを楽聖のイメージとは異なる俗物的な人間像に設定し、助手のツェルニーとの掛け合い漫才的なやり取りで最後まで楽しく読ませる。重厚な作とは言い難いが、こうしたコミカルなミステリイがあってもいいのではないか。ただ、楽譜の暗号が音譜の読めない者には馴染めないし、モーツァルトの毒殺説は既刊の文献がないではない。これが作者のオリジナリティーだという要素を、もっと明確に示してほしかった。
 「放課後」は若い作者ながら、昨年の候補作より著しい進歩が見られ、その点をまず買った。新鮮味には欠けるが、綿密に構築された本格仕立の学園物として力作感に溢れている。惜しむらくは動機が弱いことと、不必要なエピソードの挿入が難点だったといっていい。
 だが、この二人の作者とも将来性という意味では多大な可能性を秘めており、今後の成長に期待できそうである。
「阿片戦争殺人事件」はスケールの大きさとストーリー性に富み、私はかなり好感を持ったが、小説作りが荒削り過ぎて劇画的に過ぎ、他の選考委員諸氏の支持が得られなかった。「極秘新薬殺人事件」は、前半の科学的説明部分が小説としてよくこなれておらず、犯行手段の推理小説的処理に疑問点があった。また結末の意外性にも、構成上の基本的な矛盾が見られた。「風燈」は史実をよく調べてあり、労作という気はしたものの、登場人物があまりにも多過ぎて煩らわしく、物語の起伏に乏しいので、どうにもついていけなかった。
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選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第31回 江戸川乱歩賞   
『風燈』 玉塚久純
[ 候補 ]第31回 江戸川乱歩賞   
『極秘新薬殺人事件』 池上敏也
[ 候補 ]第31回 江戸川乱歩賞   
『阿片戦争殺人事件』 大須賀祥浩