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1984年 第30回 江戸川乱歩賞

1984年 第30回 江戸川乱歩賞
受賞作

てんにょのまつえい

天女の末裔

受賞者:鳥井加南子(とりいかなこ)

受賞の言葉

 大変な強運を引き込んでしまいました。あこがれの乱歩賞。しかも、ちょうど三十回記念の年に。私の歳も、ピッタリ三十歳です。
 去年候補の中に入れて頂いたとき、天にも昇る夢心地でしたから、今年はもう、夢心地を通り越して恐ろしくなってしまいました。
 「鳥井さん」と呼ばれるたびに、私の白昼夢の中にしか存在しなかったはずの『鳥井加南子さん』がこの世に出現して、私をぎょっとさせています。
 今年の受賞は、運の要素がかなり強かったと伺いました。『天女の末裔』には、運を呼び入れる超自然的なパワーがこもっているのかもしれません。
 運で頂いた賞だからこそ、身に余る賞の重みをしっかり受け止められる人間に成長したいと考えています。
 これまでお世話になった皆さん、これからお世話になる方々、小説を読んで下さる方、未熟者ですがよろしくお願い致します。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

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 本年度乱歩賞は、一月末日の締切りまでに応募総数二八〇篇が集まり、予選委員(及川雅、関口苑生、千代有三、原田裕、松原智恵、結城信孝の六氏)により最終的に下記の候補作四篇が選出された。
 なお、会報六月号で発表した作者名に変更があったので次のように訂正する。(「天女の末裔」取井科南子→鳥井加南子)
<候補作>
 天女の末裔 ―殺人村落調査報告書―  鳥井加南子
 黄金艦隊の海 ―the Caribbean Sea― 大須賀祥浩
 魔球                 東野 圭吾
 G線上の悪魔             邦城 紀男
 この四篇を六月二十五日(月)福田家「扇の間」において、選考委員・大谷羊太郎、小林久三、早乙女貢、土屋隆夫、山村正夫の五氏(五十音順)の出席のもとに、慎重なる審議の結果、鳥井加南子氏の「天女の末裔」が第三十回江戸川乱歩賞受賞作に決定。
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選評

大谷羊太郎[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 「黄金艦隊の海」は、空間的にも時間的にも大きなスケールを持ち、文章も四作中いちばんよかった。昨年の氏の候補作より、小説技法はいちだんと進歩し、実におもしろく読めた。しかし本格推理として眺めると、いくつかの不満が生じるし、登場人物の性格が、どれも一本調子で魅力に乏しかった点などが惜しまれる。かなりの素質を持った作者だと思う。
「G線上の悪魔」は、不可能興味あり
パニックシーンありSF調あり、そして各種の情報など、さまざまな小説ジャンルがふんだんに盛り込まれている。その上、緊張場面が連続していて、熱と力のこもった作品になった。だが推理小説と呼ぶには論理性に欠け、また盛り沢山のストーリー展開にスペースをとられたせいか、登場人物の描写に深みが出なかった。
「魔球」は、全篇の細部にまで心を配り、丹念に仕上げてある。伏線も利いている。主人公の高校生投手の独自の個性は、よく書き込まれてある。欠点は、ストーリーがあまりにも平坦で、山場がなかったことだ。話を運ぶテンポ、起伏、あるいは小説に色どりを添える要素などを、今後の研究課題にしてほしい。
「天女の末裔」は、ヒロインの心情を細かく分析することで、なぜ、という疑問を絶え間なくヒロインに抱かせ、読者をストーリーに惹き込んでゆく。素材の民俗学も、全篇によく溶け込んでいる。心理は描かれているが、反面、情景描写がおろそかになり、推理面にも弱い部分が目立った。しかし氏の前年候補作に比べると、おどろくほどの技法の進歩が見られ、将来性は十分に買えた。受賞作家として、今後の成長が期待できる。
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小林久三[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補作四篇は、一応の水準に達していて、私はそれぞれ面白く読んだが、入選作とするにはもうひとつキメ手に欠け、審査はかなり難航した。
 入選作は「天女の末裔」ときまったが、私は終始、この作品を推した。作品の中心に、シャーマン信仰の残る山合いの村の調査報告書に残る謎をすえたことに、作者のなみなみならぬ意欲を感じたからである。惜しいことに、後半が乱れ、ご都合主義的に連続殺人が起こるのが難点だけれども、作者は若い女性にはめずらしく、推理小説派というより探偵小説を指向しているかのようにみえる。今後の作者の成長を見守りたい。
野球ミステリの「魔球」は、捨てがたい魅力をもった作品であった。まとまりという点では、この作品が一番よくできている。主人公たちの性格設定も、よく書けている。トリックの点で、作者のひとりよがりが目につく点をのぞけば破綻も少ない。だが、作品のモチーフとなる魔球のネタ明しが、あまりにも安易で、これが致命的な傷のように、私にはおもえる。この作者は、若い。充分、書けるひとである。次回作に期待している。
「魔球」とは逆に、力みすぎて失敗したのが、「黄金艦隊の海」である。題材はきわめて魅力的なのだが、同時進行的に進む財宝探しと密輸船との話が、後半で有機的にむすびつかず、折角の力作が空転したのは惜しい。もうひとつ、人間描写が平板すぎることも、私には気になった。
「G線上の悪魔」は、SF推理である。他の審査員から袋叩きにあったが、私はこの作者の力量を高く買う。荒削りだが、たたみこむようなテンポと筆力は相当なものだ。これが小説ではなく、シナリオ・コンクールだったら、ゆうに入賞しただろう。その意味で作者は小説というものを、勘違いしているのではないか。次回の応募を心から待ち望んでいる。
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早乙女貢選考経過を見る
 この賞は四百枚前後という長篇だけに、他の懸賞小説に比べて安直な気持で応募する人がいないのは気持がよい。もっとも推理長篇となると、枚数を埋めるために、やたらと殺しを重ねたりする。この陥穽に嵌ると、脈絡をつけるのは容易ではない。構成上からも破綻を招くことになる。「黄金艦隊の海」と「G線上の悪魔」がまず落ちたのは、他にも理由はあるが、あまりにも盛り沢山にし過ぎて、物語りに無理が生じ、作者の力量でカヴァ出来なかったことだ。前者は大上段に振りかぶり過ぎて、主人公のヒロイズムが冒険小説的な仕上りで、乱歩賞にふさわしくなかった。後者はSFとしては面白いという声が多く、劇画なら売れる、ともいわれた。バイオテクノロジーや遺伝子操作の組込みだの、ハイブリット型脳解析装置だのと賑やかで、道具立ても近未来SFだが、それなら人物にもそうした配慮がほしい。今日的俗物では漫画チックになるだけである。
「天女の末裔」と「魔球」が点を稼いだのも前ニ作と比べて素直な書き方と設定のゆえだ。推理小説としては両者とも部分的に無理が多く、前回の写楽のように満場一致で推す、というわけにはいかなかった。天女の方には、女子大生の父母探しという身近な問題があり、魔球のほうには高校野球と貧困家庭の異母兄弟という現実的設定がある。黄金探しにマフィアやアメリカ帝国主義をからめたり、知識をひけらかす科学SFなどは創作姿勢という点ですでに差がつけられる。
 天女の作者は前回も候補に上がったが、心理学のひけらかしがひっかかり、私は辛い点をつけた。今回もシャーマニズムが出て来て、一寸抵抗があったが、どうにか物語の背景に溶け込ませてある。しかし、幾つかの殺しのトリックはうまいとはいえない。話に運びにも偶然性が多く、不満は残るが、作者に熱意があり、前回よりも確実に成長している点に明日の期待をこめて受賞に賛成した。
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土屋隆夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 選考会の当日まで、私は迷っていた。4篇の候補作は、いずれもなかなかのできばえで、力作感にあふれている。どの一篇も、捨て去るのは惜しい。そんな気持だった。
 ではこの中から、授賞作を選ぶとしたら、どれにすべきか。そこに私の迷いがあった。つまり四篇とも、一応はうまくまとめられているが、乱歩賞はこれだ、と強く推せるほどの傑出した作品がない。いずれも殺人事件を扱っているが、なぜ、これほど安易にバタバタと人を殺すのか。しかも犯人側のトリックに独創的なものはなく、犯罪捜査に関する作者自身の無知が、そのまま刑事たちの行動となって描かれている。つまり四篇の候補作は、推理仕立ての部分になると、一様に未熟で拙劣なところだけが目についてくる。授賞作はどれか。私は心を決しかねたまま、選考会に臨んだのである。
 当日の模様を、詳しく述べる紙数はないが、最終的には全員一致の形で「天女の末裔」の授賞が決定した。よかったと思う。
 土俗的な山岳信仰を背景に据えて、人間の怨念と愛憎のドラマを、推理小説に仕立て上げた、なかなかの力作である。もちろん、作中にいくつかの不満はあった。しかし、この作者の持っている独自の文学的世界に、私は惹かれた。今後の活躍が期待できる有望な新人の誕生に、まずは拍手を送りたい。
 惜しかったのは「魔球」の一篇である。現実の捜査は、これほど粗雑なものではないし、ダイイングメッセージの扱い方にも難点があった。しかし、高校野球に青春をかけた投手の悲劇は、鮮烈な印象となって、いまも私の記憶の中にある。この作者の次の作品が楽しみである。「黄金艦隊の海」は、この種の作品にありがちな善玉と悪玉の対比が、あまりにも図式的であり、「G線上の悪魔」は、むしろSFに徹したほうがよかったと思う。
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山村正夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今年は江戸川乱歩賞の三十回記念の年に当たる。そのせいか、応募作品が、史上空前といわれた昨年度をさらに上回ったそうなので、候補作にも絶大な期待を抱いたのだが、正直なところ全般的に低調の感を免がれなかった。
 選考委員諸氏の意見もかなり分かれ、論議の末に鳥井加南子さんの「天女の末裔」に授賞が決まった。観念的な要素が強かった前作の「トワイライト」に比べると、すっきりとした仕上がりになっていて進歩が著しい。シャーマニズムを扱った伝奇的な素材に、主人公の娘の出生の秘密をからませた設定も斬新だった。小説技法は決して達者とはいえないが、特異な個性とその意味での将来性を買い授賞に賛意を表した。ただ今後はいま少し、場面毎の背景にも目を向け、描写力を身につけてほしいと思う。
 東野圭吾氏の「魔球」は、二十六歳の作者の作とは思えぬ力作である。高校野球の内幕や生徒たちの生態などもよく描けていて、候補作品中一番破綻が少なかった。最後に残った二篇として審議の対象になったが、小じんまりとまとまり過ぎている点に魅力が薄く、授賞にためらいを覚えた。新人作家にはやはり、未完成でもいいから破天荒なみずみずしさを備えた小説作りを望みたい。
 大須賀祥浩氏の「黄金艦隊の海」は、国際色豊かな冒険小説で、ダイナミックな物語の展開に視野の広さが感じられた。スペインの黄金艦隊やアステカ文明の史実などもよく調べてある。作者の意欲や苦心のほどはよくわかるのだが、登場人物があまりにも類型的な上、殺人事件の処理が粗雑で、黄金探しとマフィアの暗躍ぶりがうまく噛み合っていなかった。
 邦城紀男氏の「G線上の悪魔」は、バオオテクノロジイをはじめ盛り沢山な趣向を凝らした作品で、あれもこれもと欲張り過ぎていた。面白かったのは科学的な仕掛の部分だけで、推理小説としては構成上無理が多く、欠陥が目立った。全体的に劇画調で厚みのない小説だったことも惜しまれる。SFに徹して書いた方がよかったのではないか。
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選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第30回 江戸川乱歩賞   
『黄金艦隊の海 ―the Caribbean Sea―』 大須賀祥浩
[ 候補 ]第30回 江戸川乱歩賞   
『魔球』 東野圭吾
[ 候補 ]第30回 江戸川乱歩賞   
『G線上の悪魔』 邦城紀男