一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

2017年 第70回
  • 長編及び連作短編集部門愚者の毒宇佐美まこと
  • 短編部門黄昏薬丸岳
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1980年 第26回 江戸川乱歩賞

1980年 第26回 江戸川乱歩賞
受賞作

さるまるげんしこう

猿丸幻視行

受賞者:井沢元彦(いざわもとひこ)

受賞の言葉

   受賞のことば

 ようやく重荷を降ろした――それが今の正直な気持です。喜びの大きさという点では、大学時代、初めて乱歩賞の候補作になった時の方が大きかったのですが、それ以来、応募するのが義務のような気持になってしまい、受賞を知らされた瞬間は、ほっとしたというのが実感でした。
“義務”を果した以上、今後はより高度のミステリーの創造をめざして行くつもりです。
 ――政治家の当選御礼みたいになっちゃった。

作家略歴
1954~
名古屋市生まれ。
早大法学部卒。
TBS入社、報道局放送記者時代「猿丸幻視行」にて第二六回江戸川乱歩賞受賞(二六歳)、三一歳にて退社。以後、執筆活動に専念。歴史推理に独自の世界を開拓、主なる著書に「忠臣蔵元祿十五年の反逆」「恨(ハン)の法廷」「隠された帝」「義経はここにいる」。また、ノンフィクションとして「言霊(ことだま)」「逆説の日本史」「言霊の国解体新書」などがある。趣味は古寺探訪。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

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 今回の江戸川乱歩賞応募作品は、本年一月末日の締切りまでに百九十八篇の応募があり、四十二篇が第一次予選を通過、さらに第二次予選で十七篇が選ばれ、第三次予選では次の四篇が残った。
 島田荘司 「占星術のマジック」
 関口甫四郎「北溟の鷹」
 長井 彬 「M8以前」
 井沢元彦 「猿丸幻視行」
 この四篇を七月四日(金)帝国ホテル楓の間において、五木寛之、海渡英祐、斎藤栄、南條範夫、三好徹の五氏(五十音順)の慎重なる審議の結果、井沢元彦氏の「猿丸幻視行」が第二十六回江戸川乱歩賞受賞作に決定した。
 授賞式は九月二十九日午後五時半から、東京の新橋第一ホテルで行われる。
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選評

五木寛之[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 小説というやつは、そのジャンルのいかんにかかわらず、個人的な好みの評価がわかれるのが当然だ。したがって、選考委員の好みの集積が結果を左右することになる。
 私の主観では、井沢元彦氏の<猿丸幻視行>が他の候補作より一歩ぬきんでていたように思う。
 暗号解説のややこしい手続きや、殺人のトリックなどには、それほど興味をひかれなかったが、発想がユニークで、文章もまずまずだし、作品全体に若々しさが感じられて、このましく受けとめることができた。これからの可能性も期待できる書き手だろう。先入の業績を土台にしながら、そこから自分なりの発見を提出している点もいい。今後は、物語りの長さに頼らず、引きしまった小説をこころざして欲しいものだ。<猿丸幻視行>にしても、四百枚くらいに整理することは不可能ではあるまい。いずれにせよ、新しい作家の登場に拍手を送りたいと思う。
 最後まで残って論議の対象になった<M8以前>についても、冗漫さは指摘できる。現代を感じさせる唯一の候補作だっただけに、会話の部分や、描写のあらさが惜しまれた。この作品を評価する声も少なくなかったことをつけ加えておきたい。
 <北溟の鷹>と<占星術のマジック>は、ともに筆力のある作品だが、個性の強さがマイナスになっている部分もあったようだ。バランスのとれている面で、受賞作に一歩ゆずったと考えていいだろう。
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海渡英祐[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 井沢元彦氏の『猿丸幻視行』を読んだときに、私は「これだ」と思ったが、その通りの結果になって、大いに満足している。柿本人麻呂イクォール猿丸太夫という説や、いろは歌の謎の解明の部分が、他人の説によりかかりすぎている、という意見もあったが、本人の独創と思われる箇所もあるし、若き日の折口信夫を主人公にしてそれを再構成し、秘めたロマンスをもりこむなど、こりにこった小説に仕立て上げた手腕を高く評価したい。
 五年前に、同氏の作品が乱歩賞候補になったとき、私はたまたま予選委員をつとめていたが、そのときとくらべると長足の進歩が認められる。二十六歳という若い作家の今後には、大いに期待できるものがあろう。
 島田荘司氏の『占星術のマジック』は、あまりにもリアリティに欠けるのが難で、この話を生かすためには、徹底的にパロディ仕立てにする以外になかっただろうと思う。しかし、この人にはミステリィを書く才能はある。捲土重来を期待したい。
 長井彬氏の『M8以前』は、地震予知という今日的な問題を取り上げ、いちおうまとまった作品になっているのだが、主人公が別人になり変る理由が薄弱であるなど、根本的な点に大きな難があるのが惜しまれる。
 関口甫四郎氏の『北溟の鷹』は、雄大な構想の小説だが、時代考証にかなり難があるし、間宮林蔵等の人物像もうまく書けていない。特に、ひどくクセのある文章には一考を求めたいと思う。
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斎藤栄[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 今回、最終候補となった四篇は、いずれも力作ぞろいで、乱歩賞の質の高さを物語っていた。正直のところ、どの一篇をとても、作者の情熱を感じさせるものばかりだった。
「北溟の鷹」は、間宮林蔵を探偵役とした時代ミステリーで、構成、トリック共に面白かった。しかし、なんといっても、不必要に近い難読文字の多用や凝り過ぎた文章は、大衆読物としてマイナスとしか考えられなかった。
 「占星術のマジック」は、ミステリー作家としてのセンスは一番感じられた。残念ながら、動機とか社会性の問題で損をしたために、受賞するには至らなかった。しかし、この小説のトリックを、このまま捨て去るのは惜しいし、何よりもセンスはいいのだから、更に捲土重来を期して書き続けて欲しい。
「M8以前」は、受賞作と共に、最後まで残った作品である。小説としては、一番読みやすく、文章にはこれという難点もなく、熟達したものがあった。欠点とされたのは、犯人が他人とすり替る動機と方法などだが、もう少し加筆すれば充分に一篇の完成作となった。
 「猿丸幻視行」は、完全なる暗号小説である。私自身、「殺人の棋譜」「奥の細道殺人事件」など暗号ものを好きで書いてきたので、一番関心があった。資料的に重複する嫌いはあったが、作者の暗号製作への情熱がよく表現された力作である。上下密度の高い作品こそ、真に乱歩賞にふさわしいものとして推した。若い作者の将来に期待したい。
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南條範夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
(1)猿丸幻視行――先づ、廿六才の新鋭がこの力作をものしたことに祝意を表したい。むろん難点はある。SF的発端と末尾が照応しないこと、引用がくどく重複していること、梅原氏の著書によりかかっている点が多いことなど、だが、それらの欠点を帳消しにするに足る面白さ、巧妙な暗号解読に魅せられた。山中峯太郎・東條英機・南方熊楠などを登場させているのも思わず微笑させられた。
(2)北溟の鷹――文章が古めかしく、通常の日本語として熟さない表現があり、誤字も頗る多いと云う点で、各委員は概ねこの作を最下位にをいたようである。文章上の欠陥は私もそのまま認める、甚しく読みづらい。だが、それにも拘らず私はこの作品を非常な興味をもって読んだ。雄大なスケールと複雑な構成をもつ時代推理小説である。文章を全面的に書き換えて読み易くすれば、かなり違う評価を受けたろうと惜しむ。
(3)M8以前――現代的な地震問題を扱い、平明な文章で相次ぐ事件を息もつかせず読ませる。最大の問題は、森が木村に変身し、それを貫いてきた根拠が薄弱であることだ。
(4)占星術のマジック――五人の死体を六人にみせるトリックは秀抜であるが、父や姉妹を全部殺ろすほどの動機が充分説明されていない。その死体切断及びその直後処理の説明も全くないのはおかしい。
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三好徹[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補作四編ともそれぞれ作風に特徴があって、いずれもおもしろく読めた。ただ、乱歩賞の選考は、なま原稿を読むわけだから、判読に苦しむような乱雑な字があると、読むがわの負担は大きい。職業作家として立つ決心なら、読みやすい字を書くように心していただきたい。本にしろ雑誌にしろ、現場で活字を拾う人の苦労を考えるべきである。
 「猿丸幻視行」は多くの委員の支持を得た。作者は数年前に応募してきているが、そのときの作品と比べると、格段の進境をみせている。人麿の名前が、猿丸に変えられたのではなくて、その逆だろうという推理は、従来の史家の説にないならば、評価されてよい。年齢的にも、これからの活躍を期待できる新人である。
 「M8以前」は東海大地震の予知というホットな題作をたくみに使って、おもしろく読ませた。惜しくも賞を逸したが、わたしはいまでも未練をもっている。「占星術のマジック」は、死体処理のトリックの新しさにおいて魅力的であった。しかし同時にそれが欠点にもなっている。もう一くふう欲しいところだった。「北溟の鷹」は、その構成に見るべきものがあったが、文章や時代考証で全委員から欠点を指摘された。一例をあげれば、この時代は従者を君呼びすることはない。また地の文にせよ「検証」「捜査」と言う表現は時代物の興趣を損ずるのである。
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選考委員

候補作

[ 候補 ]第26回 江戸川乱歩賞   
『占星術のマジック』 島田荘司(『占星術殺人事件』として刊行)
[ 候補 ]第26回 江戸川乱歩賞   
『北溟の鷹』 関口甫四郎
[ 候補 ]第26回 江戸川乱歩賞   
『M8以前』 長井彬 (『連続殺人マグニチュード8』として刊行)