一般社団法人日本推理作家協会

推理作家協会賞

2019年 第72回
2018年 第71回
2017年 第70回
  • 長編及び連作短編集部門愚者の毒宇佐美まこと
  • 短編部門黄昏薬丸岳
2016年 第69回
2015年 第68回

推理作家協会賞を検索

推理作家協会賞一覧

江戸川乱歩賞

2019年 第65回
2018年 第64回
2017年 第63回
2016年 第62回
2015年 第61回

江戸川乱歩賞を検索

江戸川乱歩賞一覧

1975年 第21回 江戸川乱歩賞

1975年 第21回 江戸川乱歩賞
受賞作

ちょうたちはいま……

蝶たちは今・・・・

受賞者:日下圭介(くさかけいすけ)

受賞の言葉

   受賞のことば

 小学生の時、賞状を貰ったことがある。町の絵のコンクールのものだったと思う。祖母に「特等だった」といったら、彼女は涙を流して仏壇にそなえた。だが実際はただの佳作で、僕は目の悪くなった八十過ぎの老婆を欺したのだった。そのうち本物を取ってやるさと、心の苛責をごまかしていた。ところが、以来、賞と名もつくもの頂戴したことはない。
 この受賞を祖母の霊に報告しようか。いや、止そう。も早信じてはくれまいから。

作家略歴
1940~2006.2.12
出身地 東京
学歴 早稲田大学商学部
職歴 協和醗酵工業を経て、昭和五八年末まで朝日新聞記者 デビュー作 「蝶たちは今…」 代表作 動物病院女医シリーズ(短篇)
趣味 陶芸・酒

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

選考経過を見る
 本年度の江戸川乱歩賞は、二月末日の締切までに応募作品総数一三八篇に達した。予選委員会は、去る五月十四日、青木雨彦、大谷羊太郎、海渡英祐、権田萬治、森村誠一氏ら五予選委員が出席して開催。第二次予選で七篇を選び、さらに左の五篇を候補作品として選出した。
 蝶たちは今・・・・   日下圭介
 仕手株殺人事件   多賀 親
 倒錯の報復     井沢元彦
 虹の叛旗      福田洋志
 蒔く如く穫りとらん 余志 宏 
 この五篇を本選考委員に回読を乞い、去る六月二十三日午後五時半より赤坂“清水”において、佐野洋、島田一男、都筑道夫、南条範夫、三好徹氏の五選考委員出席のもとに慎重なる審議の結果、日下圭介氏の「蝶たちは今・・・・」が第二十一回江戸川乱歩賞に決定した。
閉じる

選評

佐野洋[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補作五編の中で、選考委員としての義務感なしに、楽しみながら読めたのは、日下圭介氏の『蝶たちは今・・・・』だけであった。推理小説の面白さとは何かを十分に知りつくした上で、自分自身の形式を創り出している点にも心が惹かれた。ストーリー・テリングも巧みであり、将来が楽しめる新人の誕生を喜びたい。
 多賀親氏『仕手株殺人事件』、福田洋志氏『虹の叛旗』に共通して言える欠点は、余りにも多くのものを盛り込もうと意欲的になり過ぎたことであろう。むろん、意欲的なことは結構なのだが、そのために、全体が小説というより、筋書きになってしまっていた。多賀氏における仕手株操作の手口、福田氏における銀行員の横領の動機と、この金の行方など、独創的な着想なのだから、そこに照点を絞り、人物の肉付けをすることによって、現実感を与えてもらいたかった。この種の社会的主題を持つ小説では、現実感が何よりも必要なのであり、そして小説の現実感は、経済的或いは政治的な背景説明をいかに詳細に加えても、また生のデータをふんだんに取り入れても、それだけでは、決して得られるものではない。
 余志宏氏『蒔く如く穫りとらん』は、ヴァン・ダインの世界を狙ったものと言えるが、そして、それなりの面白さもあるのだが、何をいまさら・・・・という読後感を持った。もっともトリックには、いろいろ工夫がこらされており、アメリカの地方都市の雰囲気などもよく出ているから。探偵役をもう少し魅力的に書き直せば、一部のファン層には喜んで迎えられるかもしれない。
 井沢元彦氏『倒錯の報復』は、言わば教科書通りの作品である。それと、作者の年令(21歳)を考えると無理もないが、社会的常識の欠如が目立ち過ぎる。しかし、推理小説的感覚は優れているし、その若さで四百枚の本格長編を仕上げた才能は並たいていのものではない。この作者の何年か先の作品を期待したい。
閉じる
島田一男[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補作五篇を読んで今回は清々しさを覚えた。その第一は公害問題に対する不消化な告発ものが全く無かったこと、第二は必然性のないベッドシーンを読まずに済んだことである。オーバーかもしれないが、応募者が推理小説の原点へ戻って小説を書いていることが感じられ、嬉しかった。
 他面、物語に日本赤軍を取り入れたもの、金融機関の不正を背景にしたものが各二篇、またトリックに、擬装心中、ガス自殺と見せかけた殺人、電話の特殊な利用によるアリバイつくりがそれぞれ二篇ずつあり、動機やトリックの貧しさに失望させられた。
 そんな中で、日下圭介氏の「蝶たちは今・・・・」は、古い二ツの殺人事件を、追う側と追われる側から同時進行形で巧みに書き分けられており、モノを見る目も確か。会話も軽妙。五篇の中ではただ一ツ楽しみながら読むことが出来た。
 福田洋志氏「虹の叛旗」は、警察関係の機構や動きがよく調べてあるのに感心した。ただ推理小説というよりは、犯罪実話的な展開に終始したことは惜しいと思う。余志宏氏「蒔く如く穫りとらん」は、よく工夫は凝らしてあるが、古典的なアメリカ式本格小説を読まされた感じであった。多賀親氏「仕手株殺人事件」は枚数不足だったのか、四百枚を過ぎて混乱が目立つ。井沢元彦氏「倒錯の報復」は動機が弱く説得力に欠ける。だがこの作者は将来が楽しみだといっておく。
閉じる
都筑道夫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 五百枚前後の長篇ともなれば、推理小説でなくても、書きだしで読者をつかむ工夫が必要なものだけれど、候補作の五篇ともに、それがなかったことが、なによりも淋しい。冒頭に魅力ある謎を提出することが、推理小説の必須条件なのに、当選作以外は、それさえも忘れている。
 多賀氏と福田氏の作品は、千五百枚ぐらいの長篇のシノプシスとしか、私には思えなかった。ストーリイをひろげすぎ、登場人物が多くなりすぎて、いかにも息苦しい。ことに福田氏のものは力作であるだけに、ばっさり枝葉を刈りとって、小説としてのこくを出してもらいたかった。井沢氏の作品は二十一歳の若さなのに、推理小説のおもしろさを心得ていて、さまざまな趣向をちりばめている点を、称揚したい。候補作はトリックの必然性がなく、論理にも矛盾があったが、将来に期待できる人だろう。余志氏の作品は三十年代ふうの本格で、アメリカが舞台だけに、その物物しい道具立ても、私には気にならなかったが、事件のはこびが紋切形すぎた。ただ犯罪メロドラマとして、達者に書けていることは舌をまくばかりで、とりわけ背景となる場面場面を、効果的にえらぶ注意をしているのは、この作者だけであった。
 当選作は改行が多く、そのために表現が舌たらずにさえなっている点のあるのが気になったが、ウールリッチふうのスリラーとして、さらっと小味にまとまっている。肩ひじ張った未熟な力作よりも、こうした小味な作品のほうが、乱歩賞らしいと私は思う。
閉じる
南条範夫選考経過を見る
 「蝶たちは今――」――不用意な表現や誤字が多いが、文章は闊達で、会話が面白い。あとの三分の一ぐらいが急に見劣りするのは、気力が尽きたものか。殺人の動機が弱いのと、和子の性格が末尾で急変した様に思われ少々後味が悪いのが難点だが、全体として最も面白く読めた。一篇だけ選ぶとすれば、これだろうと予想していたのがその通りになった。
 「虹の叛旗」――前者と全く違う持味の作品だが、殆ど並列する佳作である。前者と共に当選させてもよいのではないかと思った。文章がじみで損をしているが、量平と云う元刑事の人間味がよく描かれている。但し、警備士と云う現職がどこかに消えてしまっているのはどうしたことか。赤軍関係の事情はかなりよく調べているが、無数に使われているトリックの小道具が余りに技巧的に過ぎるのではなかろうか。
 「蒔く如く穫りとらん」――筆力は勇健だが些かメロドラマ的要素が強すぎる。シエリフや刑事が余りに無能なこと、アリバイの為に日本人画家二人を大がかりに利用すること、酒井と云う人物の突然の出現、などに抵抗を感じた。熱帯魚の描写は優れている。但し知っていることをすべて読者に説教する癖はやめた方がよいのではなかろうか。
 「倒錯の報復」――廿一才の若さでこれだけの長篇を書き上げた筆力は大いに買う。将来性は充分にありと見る。犯人とゲイ・ボーイの関係が終りまで伏せられているのはフェアでない。津村が末尾に至って急に素晴らしい推理力を発揮するのも不自然だ。
 「仕手株殺人事件」――すでにセミプロの域に達しているこの作者の作品としては出来がよくない。書き出しが陳腐だし、結末も尻切れとんぼである。
閉じる
三好徹[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補作五編は、本格あり、サスペンスものあり、社会派ありで、なかなかバラエティにとんでいた。ただ、電話のトリック、ゲバ学生、すし屋の出前持による死体の発見、金融関係の登場人物など、重複しているものが多かったのは、偶然にせよ、奇妙であった。
 全般的にいえることは、文章が荒っぽいこと、誤字の多いことで、わたしには、ものたりなかった。推理小説だから書き飛ばしてもいいという安易な気持は許されない。
 受賞した日下氏の文章は、後半に乱れがみられるものの、もっとも安定していた。それでも「盛大に」を「勢大に」と書いてあったりして、選者たちを苦笑させた。無意識のミスだと思うが、書いたものを読み直すのは基本的な姿勢である。氏の受賞を祝すると同時に、苦言を呈しておきたい。
 福田氏の作品は、意欲作であった。アラブゲリラに関する知識も正確である。物語をつくる能力もある。ただ、電話のトリックに無理があったことや、物語が拡がりすぎて、まとまりを欠いたのは惜しまれる。余志氏の作品は、いわゆるパズラーであるが、いささか冗漫であった。もっと刈りこめばよい作品になったであろう。多賀氏の作品は、逆に欲ばりすぎて、あまりにも多くのことを詰めこみすぎた。しかし、株価を変動させる事件の狙いはおもしろい。井沢氏は、二十一歳だという。その若さで長編をかいた資質には敬服する。こんごの精進を期待したい。
閉じる

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第21回 江戸川乱歩賞   
『仕手株殺人事件』 多賀親
[ 候補 ]第21回 江戸川乱歩賞   
『倒錯の報復』 井沢元彦
[ 候補 ]第21回 江戸川乱歩賞   
『虹の叛旗』 福田洋志
[ 候補 ]第21回 江戸川乱歩賞   
『蒔く如く穫りとらん』 余志宏