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2008年 第61回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門

2008年 第61回 日本推理作家協会賞
長編及び連作短編集部門受賞作

かだん いんぺいそうさ2

果断 隠蔽捜査2

受賞者:今野敏(こんのびん)

受賞の言葉

 受賞を心よりうれしく思います。
 しかし、推理作家協会の常任理事である私がこの賞をいただいたというのは、ただ名誉というだけでなく、特別な意味合いがあるように思います。
 推理作家協会賞のネームバリューを高め、世間の認知度をさらに高めたいというのは、協会の長年の懸案事項でした。推理作家協会賞の名に恥じぬ作家になるという決意はもとより、推理作家協会賞の名を高める作家にならねばならない。そう感じています。
 とはいえ、具体的に何ができるかというと、これまで同様に、ただひたすらに小説を書き続けるしかないのです。
 量を書くことでしか質は向上しない。
 これは故・石ノ森章太郎さんが私に言ってくれた言葉で、座右の銘にしています。今後もこの言葉を胸に仕事に励みたいと思います。

作家略歴
1955.9.27~
出身地、北海道。七四年、函館ラ・サール高校卒。七九年、上智大学文学部新聞学科卒。在学中の七九年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞しデビュー。その後、東芝EMIで制作と宣伝を担当、八二年に専業作家となる。

2006年『隠蔽捜査』にて第24回吉川英治文学新人賞を受賞。
2008年『果断 隠蔽捜査2』にて第21回山本周五郎賞と第61回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞。
2017年「隠蔽捜査」シリーズにて第2回吉川英治文庫賞を受賞。

著作、「蓬莱」「リオ」「触発」「慎治」等。

空手三段、棒術四段。その他、スキューバダイビング、ダーツ、模型作りなどが趣味。

選考

以下の選評では、候補となった作品の趣向を明かしている場合があります。
ご了承おきの上、ご覧下さい。

選考経過

北村薫[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 第六十一回日本推理作家協会賞の選考は、二〇〇七年一月一日より同年十一月三十日までに刊行された長編と連作短編集、および評論書などと、小説誌をはじめとする各紙誌や書籍にて発表された短編小説を対象に、昨年十二月よりそれぞれ予選を開始した。
 昨期の短編部門に続き、今期から長編および連作短編部門でも、各出版社からの候補作推薦制度を適用した。なお推薦枠を持たない出版社からの作品については、従来通り予選委員の推薦によって選考の対象とした。
 長編および連作短編部門では出版者推薦と予選委員の推薦による二一〇作品、短編部門では出版者推薦と予選委員の推薦による五八四作品、評論その他三十一作品をリストアップし、協会が委嘱した部門別の予選委員がこれらの選考にあたり、各部門の候補作を決定した。
 本選考会は五月十六日午後三時より、第一ホテル東京にて開催された。長編および連作短編部門は逢坂剛、小鷹信光、真保裕一、菅浩江、福井晴敏(立合理事・北村薫)、短編部門・評論その他の部門は有栖川有栖、北森鴻、野崎六助、馳星周、山田正紀(立合理事・垣根涼介)の全選考委員が出席して、各部門ごとに選考が行われた。
 選考経過は以下の通り。受賞作決定後、今野敏氏、長岡弘樹氏、最相葉月氏を迎えて、記者会見が行われた。

〔長編および連作短編集部門〕
 北村 薫
 まず投票を行った結果、上位二作と下位三作にはっきりと分かれた。
 最初に下位となったものの中から次の段階に残すべきものがあるかの討議に入った。『人形の部屋』『密室キングダム』については、それぞれ独自のものはあるが、また短所も多すぎるとして落ち、続いて『首無の如き祟るもの』も、最後の解決部分の快感はあるものの、作品総体としては賞に届かないという判断になった。
 次に『サクリファイス』のことも論じつつ、最高点であった『果断 隠蔽捜査2』について検討した。プロの作家がプロの作家に与える賞として、技術を評価したいという声があり、協会賞はそれまでの作品も判断材料としてよいということから、前作『隠蔽捜査』並びにこれまでの業績も加味し受賞作と決定した。『サクリファイス』については、小説としては魅力的だが、ミステリとしての問題点があるとして、二作受賞とはならなかった。

〔短編部門〕
〔評論その他の部門〕
 垣根涼介
 選考会はまず短編部門から始まり、五つの候補作すべてについて各選考委員が三段階で評価を行った。その結果、『傍聞き』が最高得点の13点を獲得し、他の四作品はすべて7点で横並びとなった。この時点で『傍聞き』の優位はまず動かないものとなったが、選考委員の一人に『退出ゲーム』を強く推す声があり、再びこの二作品で審議となった。が、結局はすべての選考委員が高得点をつけた『傍聞き』の完成度を推す声が再度強まり、結果、この作品が最終的に受賞作となった。
 続いて評論その他の部門の選考に移った。これも短編部門と同様、各選考委員が三段階で評価を行った。候補作は四作品。その結果、『幻想と怪奇の時代』が12点、『星新一 一〇〇一話をつくった人』が13点と、二つ飛びぬけ、この両者の競い合いとなった。途中、『星新一 一〇〇一話をつくった人』は既に複数の賞を受賞しているという話題も出たが、それはこの本の本質には関係ないということもあり、結果、同時受賞ということになった。
 なお、選考後の記者会見には、『傍聞き』の長岡弘樹氏、『星新一 一〇〇一話をつくった人』の最相葉月氏が出席し、また『幻想と怪奇の時代』の紀田順一郎氏もファックス文面にて、受賞の喜びを語った。
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選評

逢坂剛[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 協会賞の選考にあたっては、ミステリーのおもしろさと小説のおもしろさは別物、という認識を持つことにしている。両者が兼ね備わっていれば、それに越したことはないのだが、この賞は元来すぐれたミステリーのために存在するのだから、一般の文芸賞と違うスタンスで評価しても、不都合はあるまい。
 それにしても、である。『密室キングダム』と『首無の如き祟るもの』の作者は、持てる才能と意欲をすべてトリックの創出と構築に注ぎ、小説的洗練やキャラクターの造型を一顧だにしない。推理小説は、推理さえあればよいという考え方と、同時に小説でもあるべきだ、という考え方とがある。これらの二作を読んだかぎりでは、その対立は永久に解決しそうにない。
 わたしは、これをよいか悪いかの問題ではなく、単に作家としての小説観の違い、読者の好みの問題として、とらえることにする。この種の作品をおもしろいと思い、愛読する読者がいるかぎり、作者も同じ趣向のものを書き続けるだろう。作者も読者も、これでよしとする考え方がある以上、その善し悪しをあげつらっても意味がない。
 わたしも、横溝正史に代表される本格探偵小説を好む点では、決して人後に落ちるものではない。しかし、横溝が半世紀以上も前にもっと短く、もっと人間味豊かに、もっとおもしろく書いたものを、現今の作家がいまだに超えられないのは、納得がいかない。蒲柳の質の美少年探偵、奇妙な名前の登場人物、おどろおどろしい舞台装置、あくまでも無能な警察と、それらがすべてお約束ごとと分かっていても、あまりに工夫がなさすぎはしまいか。空気圧によるドアの開閉トリックは、二十年以上も前に刑事コロンボが見破っている。黒い頭巾をかぶった首無し人間など、今さら披露されても挨拶に困る。これも小説観の違いだから、しかたがないといえばそれまでだが。
 『人形の部屋』は、わたしの好きな薀蓄ものに属する作品だが、その提示のしかたに疑問が残る。これもまた、その衒学性に魅力を感じる読者がいるとすれば、善し悪しを論じても意味がない。わたし個人の好みで言えば、<虐使><酷愛><禍喪><狂きつ>など、へたをすると日本国語大辞典全十三巻にも載っていないような、非日常的な用語をなぜ使う必要があるのか、とうてい理解できない。これまた、小説観の違いだろうか。舞台が、いわゆる平凡なホームドラマ的家庭だけに、その違和感が最後まで気になった。
 『サクリファイス』は、小説としてはまことに上出来の青春小説だが、ミステリーとしての味つけに難がみられる。大藪春彦賞には新鮮な風穴をあけたが、推協賞としてはいささか弱いというのが、正直な感想である。
 『果断 隠蔽捜査2』は、この作者の最上の作品とはいえないかもしれないが、その実力が安定したことを証明する佳作、といってよい。そのリーダビリティの高さ、キャラクター造型に対する強い意欲、どれをとっても筆歴三十年のキャリアにふさわしい、まさにプロの小説である。授賞について、贅言を尽す必要はあるまい。
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小鷹信光[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 五篇の候補作中抜きんでているのはどれか。その一作のみを選ぶことを目標にして選考にのぞみました。
 連作『人形の部屋』では各篇ごとに珍気な趣向が凝らされ、名刺は「名紙」、手本は「しゅほん」がそのお話の中では“正解”という衒学趣味に楽しく翻弄されましたが、ミステリとは認め難く、推すことはできませんでした。
 『首無の如き祟るもの』については、読み始める前の悪い予断が的中してしまいました。ジェイムズ・クラムリーの『正当なる狂気』の冒頭でいきなり生首が飛ぶシーンにぶちあたり、たまげてしまったやわな翻訳家でもある私にとっては、これが四つも(五つだったか?)ごろごろされたのではたまりません。
 念入りに仕掛けられた叙述トリックからも残念ながら“うまくだまされた!”という快感は得られませんでした。
 『密室キングダム』についても同じような予断がありました。“密室物”という、ミステリの重要なサブ・ジャンルへの挑戦という尺度をあらかじめ用意した上で読み始めねばならない、というあまりうれしくない制約を課せられたという思いです。
 その結果、選評として私の頭に浮かんだのは、この作品は密室物および主要人物の入れかわりというミステリの一技法に寄せる長大な葬送曲ないしは鎮魂曲であるという言葉でした。長大ではなく壮大なパロディとならずにあやうく踏みとどまったのは、「初めに密室ありき」というミステリ手法をここまで徹底してきわめようと試みた著者の熱情によるものでしょう。
 選考経過自体は、私の予想と相反して、いま挙げた三作がまずレースから脱落する形で進行しました。私自身は議論がミステリの趣向物対リアリズム派という具合に進むのではないかと考えていたのです。しかし結果としては、残りの二作のどちらを選ぶかというきわどい展開になりました。
 私が初めに推したのは『サクリファイス』でした。候補作五篇の中で読後の好感度が最も高かったからです。これがいわゆるライト・ノヴェルなのかと思わせるさわやかさ、軽やかさと同時に、この先に何が待っているのかを期待させるサスペンス味も盛りこまれていました。
 『果断 隠蔽捜査2』は読物小説としての完成度が『サクリファイス』よりずっと高い作品です。ただし、吉川英治文学新人賞を受賞した前作を大きく超えてはいないという感想をいだきました。個性的にしっかりと描かれている主人公が、その個性を私自身はあまり好まないという点は別問題として、前作と何ひとつ変わっていないことに不満をおぼえたのです。
 物語の最後に待っていたミステリ風味の弱さのために『サクリファイス』はレースに敗れ、前作との合計点を味方にした『果断』が受賞作にきまりました。おめでとう。
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真保裕一[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 候補となった五作はどれも力作で、実に悩ましい選考だった。
 『人形の部屋』は文章に惹かれた。装飾過多の気味は強くとも、独自の言い回しが際立ち、作品世界に良く合っていた。ただし、論理の飛躍に強引さを感じる部分があった。一例だが、いくらそうしたほうが価値も高くなろうと、持ち主の前で人形の足を割ってみせるのは、どうか。日常の謎を扱う作品だから、人物の無理が所々で気になってしまったのである。それと、素っ気ないタイトルもマイナスだった。全体を通す謎があれば、印象はかなり違ったかもしれない。
 『首無の如き祟るもの』の遊び心あふれて凝りに凝った謎の構築には、非常に好感が持てた。犯人など誰でもいいじゃないか、といわんばかりの展開も、さして気にはならなかった。が、人物や情景の描写が幼いために、せっかくの推理の醍醐味が減じられてしまったようだ。実に惜しい作品だった。
 『密室キングダム』の意欲と執念には頭が下がる。が、多くの伏線は張り巡らせてあるものの、あまりにも言い訳と無理が多すぎた。警察の無能も、リアルな物語になると、どうしても見過ごせなくなってくる。隠し扉のある部屋で尋問する不可解さ。計画性があるようでいて、共犯者の自首を端から無視したような見通しの甘さ。いずれも作者の都合のほかに理由がわからなかった。この根幹となるトリックを成立させるには、パロディ仕立てにするしかなかったのではないだろうか。また探偵役に強烈な個性があれば、些細な弱点は消し飛んだかもしれない。もったいない、というのが読後の本音だった。
 『サクリファイス』の筆力を評価する声が高かった。この世界でしか輝けない人の個性を描写する力は本物だ。それでも受賞に至らなかったのは、ミステリ部分の弱さが見受けられたからである。ミステリ色が弱いということではない。無理してミステリ仕立てにしたのでは、と評する選考委員がいたほどで、それほど明かされる真相に無理が感じられた。が、この作者はまだまだ引き出しを持っていると思われる。次作に大いに期待したい。
 受賞作には、手慣れすぎていて気に入らない、という厳しい注文もついた。が、人物描写や筋運びの安定感は、まさにプロの書き手だと思わせる手堅さだった。戸高という刑事の出し方など、実に上手い。ある種の政治劇と思わせておき、意外な真相に導く手腕も心憎い。
 あまりのそつのなさと、続編であるために、小粒な印象を与えた面もあったろう。が、プロの技術を評価してこその、この賞だと思う。
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菅浩江[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 ありふれた論点ではありますが、今年の選考では「巧い」と「凄い」について改めて考えさせられました。
 ミステリは、仕掛けの「凄い」作品に気を引かれがちです。けれども『密室キングダム』と『首無の如き祟るもの』は、凄さを追い求めるあまりに自家中毒に陥ってしまった感がありました。
 絢爛豪華な装置でミステリファンにサービスする『密室~』ですが、冒頭の棺脱出からして、観客の視界から棺を離した時点で、そもそも脱出マジックとしての体をなしていないのではないでしょうか。他のトリックにもそれぞれに無理があり、多視点の用い方も一部アンフェアで、真犯人にいたっては伏線があるものの、あまりと言えばあまりの仕打ち。エピローグがありがちな幻想風味へ振れていたのも、残念に思います。
 同じく力業で挑んだ『首無~』は、無理も多少は許せる世界観をドンと構えていたので、私の点はさほどからくありません。ここのところの感触を真保さんも「お約束の世界、歌舞伎だと思って読んだ」と、適確に表現されていました。けれど、何もかもがステロタイプで、一番大きな秘密などは簡単に読者に知れてしまうように思います。私個人としては、せっかくの伝承や怪奇味が、祟りを痛感させるほどの繋がりを持たなかったのはもったいない、と思いました。
 一方、日常の謎という手駒で<巧い>ほうを志向したかに見えるのが『人形の部屋』。このタイプの作品は、何を知っていて何を知らないかのバランスが重要です。知識水準を、筆者、主人公、読者のそれぞれと摺り合わせるのが重要な手続きなのに、謎解きイコール知識の有無である上に展開が一方的すぎました。とにもかくにも筆者が調べた事柄へ向かって直線的に筋を運んでいる印象。例えば、作者はジュモーを調べ損なったままに表題作を書いてしまったのではないでしょうか。さして人形好きではない「私の常識」からしても、五十センチ前後もある抱き人形がマントルピース付きジオラマケースへ収められている状況はあまりにも信じがたく、出鼻を挫かれるに充分でした(もしもハウス付きの実例があるのならごめんなさい)。百歩譲っても、ヘッドマークを読めるほどの人ならばおかしい点は一目で判るだろうし、証明のためとはいえあんな乱暴なこともしない、と思ってしまうのです。
 『サクリファイス』と『果断 隠蔽捜査2』は、堂々たる「巧い」作品で、最終的にはこの二本が残りました。
 『サクリファイス』は、ヒーローではなくサポートに喜びを抱く主人公が新鮮で、好感を持ちました。ただ、陥れられたと判っているのに石尾がああまでする必要と度胸はいかに、という点で、無理を感じます。推理作家協会賞という冠に比してミステリ度が低かったのも敗因となりました。
 受賞作の『果断』もまたユニークな主人公を配し、簡潔な文章で人々の機微を描く、巧い小説です。私はその安定性に、書き慣れ感とでも言うべき気配りの足りなさを垣間見てしまって、この筆力があればもっと「凄い」ものを用意できたように思いました。しかしながら、作家が作家に与える賞であるのだから「巧い」を評価しなくてどうする、という御意見には大いに首肯した次第です。
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福井晴敏[ 会員名簿 ]選考経過を見る
 二回目にして、己の不勉強を痛感する羽目になった選考でした。今回の候補作五本のうち、二本がいわゆる本格推理小説、密室殺人を扱った作品だったのですが、わたくし、これまで一冊もその種の小説を読んだことがなかったのです。
 ですから、トリックの質に関しては論評不可能。純粋に小説として読ませていただく他なかったのですが、それにしても推理物のお約束というものがあり、どこまでがお約束で、どこからが筆者の個性であるのか……。正直、まいりましたが、どちらも力作であることはわかりましたし、完全な門外漢であるからこそ、逆につかめたこともあったような気がします。
 『密室キングダム』と『首無の如き祟るもの』。どちらも近過去を舞台にしており、密室推理物というジャンルに真正面から取り組んでいると思えます。逆に言うなら、密室と真正面に取り組むために、両作とも近過去を舞台にせざるを得なかった、とも読めるのです。
 そしてそこから見え隠れするジャンルの限界、いまどき密室物でもないんだよね、という冷めた視点を互いに持ち合わせながら、失われゆく昭和と対照してジャンルそのものに対する葛藤を表明したのが『密室キングダム』。小説ならではの昨日を十全に駆使し、迷いなくびっくり箱をやりきったのが『首無~』である、というのが当方の感想でした。
 そうであるなら、ミステリー全体が地盤沈下を起こしている現状にあって、「今あえて密室推理物を作る意義」をそれぞれ別のやり方で表明したこの二作は、推理作家協会という名を持つ団体が推挙するに相応しいのではないか。賞のありようを世間にアピールする上で、インパクトのあるツラがまえをしているとも思ったのですが、いかんせんこのジャンルに関しては素人のこと、他を説き伏せて強く推すだけの根拠とモチベーションは持ち得ませんでした。その点は自身、忸怩たるものを感じております。
 とはいえ、今野敏先生の受賞に異論はなく、心からの祝福を捧げさせていただきます。推理作家協会賞には、「当該作者の過去の業績を加味することを妨げない」という美しい規定があります。難しい言い方ですが、ようは功労賞的な側面もあるということです。また選考委員のひとりが言われた、「その場の話題性ではなく、小説を書くという技術に対して評価する賞でありたい」という意見にも胸を打たれました。数多ある他の賞では見失われているかもしれない視点です。言わばプロの寄り合い団体がプロに贈る賞であるなら、そのようなものであっていいし、そうあるべきという側面は間違いなくあるでしょう。その意味においては、今野先生はもっと早くに受賞していて然るべき業績をお持ちの方です。
 あらためて、おめでとうございました。そして一刻も早く『隠蔽捜査3』を。
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立会理事

選考委員

予選委員

候補作

[ 候補 ]第61回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門  
『人形の部屋』 門井慶喜
[ 候補 ]第61回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門  
『サクリファイス』 近藤史恵
[ 候補 ]第61回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門  
『密室キングダム』 柄刀一
[ 候補 ]第61回 日本推理作家協会賞 長編及び連作短編集部門  
『首無の如き祟るもの』 三津田信三