一般社団法人日本推理作家協会

江戸川乱歩賞の制定

 一九五四(昭和二十九年)十月三十日、江戸川乱歩は、自らの還暦祝賀会の席上で、探偵作家クラブに百万円の寄付を行うことを明らかにした。これを基金として、探偵小説奨励の賞を制定するのが目的であった。こうして制定された江戸川乱歩賞は、「その年度の探偵小説の諸分野において顕著なる業績を示した人に、過去の実績をも考慮して贈賞する」というもので、功労賞としての意味合いを備えた賞としてスタートした。
 五五年の第一回は「日本探偵小説辞典」他の書誌的研究が評価された中島河太郎、五六年の第二回はポケット・ミステリの出版に対して早川書房に、それぞれ賞が贈られたが、五七年の第三回以降、長編を公募して優秀作を選ぶという現在のスタイルに変更されている。その第三回は、仁木悦子の『猫は知っていた』が当選。著者が病気で寝たきりの若い女性であるという境遇と、旧陋な探偵小説とはひと味ちがった明朗かつ軽快な作風が話題を呼んで、一躍ベストセラーとなった。翌五八年に刊行された松本清張『点と線』とともに、推理小説を一般的な娯楽として認知させた功績は計り知れない。
 第四回以降も、多岐川恭、陳舜臣、戸川昌子、西村京太郎、斎藤栄、森村誠一といった人気作家を次々と輩出、現在もっとも伝統ある推理小説新人賞として常に注目されているのは、みなさんご存じの通りである。

社団法人化への道