ミステリ演劇鑑賞録

第五回 近年の印象に残った二人芝居

千澤のり子

 ドラマ「黒い十人の秋山」(二〇一七年十二月二十六日放送)は、容疑者全員をロバート秋山が演じているという珍しい内容だった。単なるバラエティではなく、彼の卓越した演技力がないと成り立たない構成に、非常に感心した記憶がある。
 役者の人数に限りのある舞台では、一人で複数人を演じることは稀ではない。ここ数年で観た演技の奥深さを楽しんだ二人芝居の作品を紹介していこう。
 オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『マーダー・フォー・トゥー』(二〇二二年一月八日~二十三日Bunkamuraシアターコクーン/一月二十六日~二月一日森ノ宮ピロティホール/二月八日~九日仙台電力ホール/二月十二日~十三日キッセイ文化ホール長野県松本文化会館大ホール)は、元V6リーダーの坂本昌行が十三人の容疑者を一人で演じている。相方となる刑事役は若手ミュージカルスターの海宝直人だ(二〇一六年の初演では松尾貴史)。二人のピアノ連弾のみで奏でる音楽も目を引いたが、姿勢や帽子、ドアの開閉を使って老若男女を演じ分ける坂本の演技力に圧倒された。アメリカにある田舎町の一軒家で、家主の作家が誕生日パーティー中に銃殺された謎を解き明かす。事情聴取もさることながら、犯人に逃走され乱闘となるクライマックスを、建物内から実況中継を行うことで表現する演出に驚かされた。今年度、坂本はヒューマンサスペンスの三人芝居『凍える』(二〇二二年十月二日~十二月十一日PARCO劇場含む全国八劇場で上演)にも出演し、小児愛者の連続殺人犯という難役を演じた。
 舞台『スルース~探偵~』(二〇二一年一月八日~一月二十四日新国立劇場小劇場)は、演出も務める吉田鋼太郎と劇団四季出身の柿澤勇人によるタッグマッチだ。推理小説家が妻の愛人を自宅に呼び出し、自宅にある宝石を彼に盗み出してもらい、保険金を受け取りたいと提案する。二人芝居であることが足かせになる懸念を物ともせず、予期せぬ展開で終始釘付けにさせられた。吉田が柿澤を指導し、あるいは試しているかのようなアドリブにも好感が持てる。私が観た回は演出の一カ所にミスがあり、終了後のトークショーでその場面が再現された。比べると違いが分かり、細部にまでこだわる吉田の演出家としての顔を知ることができた。二〇一六年十二月から一月では、西岡德馬が推理作家、愛人は新納慎也と音尾琢真が演じる二バージョンが上演されている。
 被害者を一人が演じた二人芝居では、加納和可子企画公演『結婚詐欺師の女』(二〇二二年七月二十八日~七月三十一日下北沢OFF・OFFシアター)が強烈なインパクトを残した。複数の男たちから合計三千万円を騙し取った自称結婚詐欺師の月子は大山劇団の加納和可子、被害者らしき男性たちはすべて劇団昴の宮崎貴宜が演じる。器量も色気もない女がどうやって結婚詐欺を働いたのかという内容の倒叙ミステリだと思いきや、とんでもない展開が待ち受ける。物語が進むにつれて月子が魅惑的になり、応援したくなってくる。唯一被害者といえる人物が告訴しなかった理由は、ミステリ好きものけぞる説得力があった。機会があったらぜひ観てもらいたいコメディだ。