ミステリ演劇鑑賞録

第三回 体験型の犯人当てイベント

千澤のり子

 今夏、三年ぶりに、E-Pin企画による「ミステリーナイト」が開催された。一泊二日の宿泊型イベントで、殺人事件の起きる舞台劇を鑑賞したのち、観客たちは手がかりを集めて推理をおこなう。翌朝、犯人名を含む推理結果を規定の紙に書いて投票し、解決編となる舞台劇を鑑賞するという内容だ。
 誕生後、三十五周年となる新作は「ミステリーナイト2022 『〈綾辻行人〉の殺人~Reality or NOT~』」(二〇二二年八月十一日~十二日、九月十七日~十八日、九月十八日~十九日東京・ホテルメトロポリタン、九月十日~十一日大阪・リーガロイヤルホテル)。企画・原案は城島和加乃、構成にかとうだいが加わり、トリッククリエイトは両者の合作ペンネーム・ふじしろやまとが担当する。舞台劇は、監督・久寿田義晴、脚本・佐野バビ市、演出・早船聡が務める。
 物語は、インターネット上の仮想世界であるメタバースを使った新作ゲームのテストプレイ中、バグが発生してゲームのキャラクターが勝手に動き出し、殺人事件が起きるというあらすじだ。
 以降は参加レポートである。チェックインは大広間にておこなわれ、スケジュール等の入った書類一式を受け取った。開演までは自由時間。ゲームの概要、登場人物たちの人間関係、テストプレイ時の建物など、世界観に入り込みやすくなる情報は、ヒントとして各自の客室を含むホテル内に提示されていた。一人参加も多く、初めてでもシステムが分からずに右往左往するということもまったくない。
 問題編となる劇は、スムーズに内容を理解できた。被害者が意外で、どこに手がかりがあったのかもつかめないまま、幕が下りた。質問タイムもあり、壇上と客席ではあるが、役者と直接話ができた。
 さらなる情報は、グループに分かれて小広間をいくつか移動して入手していった。夕食のレストランでもヒントはもらえるが、外で済ませても差し支えない。各部屋のテレビ放送も要チェックとのことで、最終問題を受け取れる二十二時までは自由に推理をする時間となった。
 どうしても解けない場合は、詳細なヒントをもらうこともできる。最終問題にたどり着けなかった私は、暗号解読のヒントをもらえた。犯人確定につながる重要な質問は、得点ポイントが引かれるが、気にせず受付時間の終了直前に駆け込んだ。しかし、核心を突く質問ではなかったので、減点は免れた。三時くらいまで資料をあさり、犯人やそこにいたる推理の過程を解答用紙に書き込んだ。朝一番に解決編の舞台劇を鑑賞した。結果は、惨敗。同じ回に参加していた黒田研二氏は正解だった。
 殺人事件の推理を一晩かけて真剣におこなう機会はなかなかない。役者と距離が近く、劇中に自分も入り込んでいる気分になる経験も、めったにできない。ミステリ好きにも、演劇好きにも、ぜひともお勧めしたい一夜であった。