新入会員紹介

入会の挨拶

望月麻衣

 この度、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました望月麻衣と申します。入会に際してご協力いただいた皆様に、この場をお借りして心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
 代表作は『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)、『わが家は祇園の拝み屋さん』(KADOKAWA)などを刊行しております。
 タイトルからも分かるように京都を舞台にした作品を多く執筆していますが、私は北海道出身、ついでに言うと昭和五十年生まれです。私が社会人になった時は、「わぁ、昭和五十年生まれが社会に出てきたんだぁ」等と、今でいうと令和生まれが社会人になった時に言われたであろう驚きの言葉を受けて、ちやほやしてもらえた時代もあったのですが、今は昔。恐ろしく遠い過去の話です。
 そんな私は京都府出身で転勤族の夫と結婚し、全国転々としたのですが、やがて夫は転勤に嫌気が差し、転職して地元に戻ると決断。
 そうして私たち一家は、二〇一三年に京都府に移住しました。その年の夏、小説投稿サイト『エブリスタ』が主催する小説賞を受賞し、デビューの運びとなったのです。私は長い間、執筆活動してきたのですが、結果を出すことができず、苦しい思いをしてきました。ですが、京都に引っ越してから割とすぐに受賞したので、「京都パワー、すごいね」と周囲の人たちに言われたものです。ちなみに、それについては異論はありません。京都のパワーは本当にすごいな、と常々思っております。
 デビューについてお伝えする際にいつも少しだけ迷うのが、デビューの年です。
 小説賞を受賞したのは、二〇一三年夏なのですが、書籍初刊行は二〇一四年春。となれば、本当は二〇一四年にデビューと言えるのでしょうが、各プロフィールには『二〇一三年に受賞』と記されている。それを見た人は、「二〇一三年にデビューしたんだ」と思うだろうけど、実際はそうではない。それはまるで、テレビには出ているけれど、デビューはまだしていないと言っている某アイドル事務所のジュニアのような曖昧さです。私にはそんな不確かな一年間があり、今に至ります。
 不確かと言えば、執筆をしているとちょっとしたことで迷い、筆が止まることが多々あります。
 少し前は、携帯電話関連の記述でした。最初は躊躇いなく『携帯電話』と書いていましたが、現代はほとんどがスマートフォン(以下スマホ)です。キャラクターの性格を見ても絶対にスマホを持っているであろう。となれば、スマホと書いてしまって良いものか。いやいや、スマホだって携帯する電話なのだから、そのまま『携帯電話』で良いのではないか? などといちいち考えてしまって、物語が進まない。
 同じようにLINEの記述にも迷いました。今、ほとんどの人たち―特に若い子はメールではなく、LINEでメッセージのやりとりをします。ですが、ずばり『LINE』と書いてしまうと、少し時間が経った時にはその存在がなくなっているかもしれない。そう、ポケベルが姿を消してしまったように……。
 また、近年、もっとも悩まされたのは、新型コロナウィルス(以下コロナ)に関する描写です。コロナが作品のテーマに関わってくるのでしたら、躊躇いなく書くことができるのですが、あまり関係がない場合、マスクの描写、感染対策のことなどどこまで書くべきか……。
 言ってしまえば、コロナは『流行り病』です。
 どんな猛威を奮っても、長い歴史の中で人類は幾度となく病に打ち勝ってきたわけです。近い将来、「あんなこともあったよね」と笑っているかもしれない。そうなった時、コロナの描写がある作品を読むと、古さを感じるだろう。いや、別に古さが悪いわけではないし、その時代をリアルに感じ、ノスタルジックに浸れるのではないか?
 そんなふうに逡巡した結果、私が下した決断は「もういい、その時書きたいように書こう」という開き直りでした。
 携帯電話・スマホ問題は、作品によって『携帯電話』にしたり『スマホ』としたり、使い分けることにし、LINEは『メッセージアプリ』と記述。
 コロナに関しては、今のこの現代を描写した方が良い作品ならば書き、そうではないエンタメ作品ならば、本を読んでいる時くらい、嫌なことは忘れてもらいたいから書かない、と決めました。これもまた気持ちが変わるかもしれませんが……。
 こんなふうにいちいち迷うのは、私だけなのか、皆さんも同じなのか、一度お話を伺ってみたい、なんて思っております。
 最後になりましたが、「大変」がつく未熟者の私、今も高名な推理作家協会の末席に加えていただけたことが恐縮で震えておりますが、憧れだったので本当に嬉しく思っております。あらためて、ありがとうございしまた。今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いいたします。