新入会員紹介

新入会員挨拶

水野沙彰

 この度、佐藤青南様と沢野いずみ様のご推薦を賜り入会させていただきました、水野沙彰と申します。
 推薦くださったお二方、そして事務局、理事会の方々へ、この場を借りて厚くお礼申し上げます。
 私は、幼い頃から本に囲まれて育ちました。読書が好きな母と祖母、働きながら西洋文化史の研究を続けている叔母、そして私に読み聞かせをしてほしいと言う祖父。皆本が好きで、私も自然と物語を読むこと、話すことが身近にある生活をしていました。
 特に近くに住んでいた父方の祖父は、私が文字を読めるようになってくると、遊びに行く度に「今日も絵本を読んで欲しい」と、何度も同じ絵本を音読するよう言われました。
 分からないところは教えてもらいながら、つっかえつっかえの音読でしたが、祖父はいつも「とても上手だ。ありがとう」と言って抱き締めて、頭を撫でてくれました。
 大好きな祖父に褒めて貰えるのが嬉しくて、私はもっと読書が好きになっていきました。
 祖父は癌で寝たきりになっても、お見舞いに行った私に読み聞かせをして欲しいと言っていました。その頃には私ももう絵本を卒業しており、音読していたのは児童文庫の「赤毛のアン」でした。音読をするには長い物語で、最後まで読み終える前に亡くなってしまったことが、今でも心残りです。
 それからも、私は本を読み続けました。
 胸がどきどきするような恋も、初めての世界の冒険も、正義を貫こうとする人間の情熱も、そして大切なものを失う悲しみも、私は本を通して知りました。
 そして読書を通して知った感情は、いつも私の力になってくれました。
 初めての感情に胸をときめかせたとき、引っ越しで見知らぬ場所に飛び込んだとき、心ない言葉を浴びせられ挫けそうになったとき、当たり前にあったものを亡くしてしまったとき。いつも私の側には物語がありました。
 物語の中の主人公達は、未知のことと出会ったときには道しるべになり、辛いときや悲しいときには同じ感情を共有する親友にもなってくれました。日本推理作家協会に所属していらっしゃる先生方の御本にも、支えられたことは数知れません。
 私が初めて物語を本にしたのは、小学校の総合的な学習の時間でした。「絵本を作ろう」という課題で、猫が冒険をする物語を書きました。その授業では、先生が画用紙をラミネート加工してくれ、角を丸くして、紐で閉じてくれました。それは私が初めて手に取った「自分の本」でした。家族以外の誰も読まない絵本でしたが、それでも、私にとっては宝物のように大切で、何度も読み返しました。
 そして今、多くの方のお力添えもあり、私が書いた物語は、書店様の棚に並べていただいています。私の本を手に取ってくださった誰かの宝物になってくれたら良いなと思いながら、日々物語を書いています。
 そして尊敬する先生方のように、誰かの道しるべとなり、親友となるような物語を書きたいと思いながら、日々精進しています。
 まだまだ未熟者ですが、どうか皆様、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。