新入会員紹介

入会のご挨拶

吉岡梅

 この度、佐藤青南先生と知念美希人先生のご推薦を賜り、日本推理作家協会の末席に加えていただくことになりました、吉岡梅と申します。両先生、並びに、滞りなく速やかに手続きを進めていただいた事務局の方々に、この場をお借りして厚く御礼申し上げます。
 まずは、自己紹介をば。私は富士山麓、静岡県は富士宮市に在住しており、普段はIT系の書籍を書いたりインストラクターをやったりして生計を立てています。IT系と言うといろいろありますが、現在は、8割ほどが表計算ソフトのExcel関連です。
 Excelにはプログラムによる自動操作、いわゆるマクロの作成が可能になるVBAなる仕組みが搭載されているのですが、主にこの機能に関する書籍を執筆しております。こちらは「吉岡梅」でなく「古川順平」という筆名で何冊か出させていただいておりますので、書店で見かけたら中身を覗いてやってみてください。そういうものを書いてます。
 実は、私が新たな筆名を名乗り、小説を書くきっかけになったのも、プログラム関連の作業がきっかけです。当時、趣味で「PCのブラウザ上で本のようにテキストや絵を捲りながら読み進められる仕組み」を作っていました。そして、仕組み自体は出来上がったものの、肝心のコンテンツが無い。表示するテキストや絵、さらにはBGM音源が無かったのです。勝手に他人の作品を使うのは違法ですし、お金を払って書いていただくには予算が無い。そこで自分でそれらしい物を書き、それをサンプルとして動作の説明をする事にしたのです。
 森博嗣先生のMシリーズにドはまりしていたこともあり、「詩的私的ジャック」を捩ったタイトルでテキストを書き、絵は誰かに描いてもらおうと思ったのですが見つからず、結局こちらも自分で描きました。音に関しては全然ダメなのでフリー素材を使う事に。これがまあ、楽しかったのです。すごく。今調べたら、もう20年近く前の話です。
 それ以来、ちょこちょことお話を書くようになりました。多くはプログラムのサンプルに使用するつもりだったので、短い話を。そしてだんだんと長い話に挑戦したくなり、少しずつ文字数を増やしていきました。
 そんなこんなをしている内に、私が仕事や趣味で関わってきたWebの世界に、新しいお話の発表形態がどんどん増えてきたのです。初めは個人が勝手に自分の「ホームページ」にテキストを載せる形式だったのではないでしょうか。その他、メーリングリストの仕組みでサークル内で自作小説を配信する仕組み。さらにはもっと手軽に小説のみを集めたサイトができたり、ケータイ小説が流行ったり、SNSの仕組みと組み合わせたサークル的な小説投稿サイトが誕生したり。BBSに投稿して周りとワイワイやりながら話を組み上げていくスタイルや、ボカロ等の詩とキャラクターの世界と結びついてマッシュアップするスタイルもありました。掲載先も雑誌や書籍に加え、電子書籍が現れました。端末自体もガラケーやスマートフォン、電子書籍の専用端末と広がってきました。
 当初はまだ皆手探りで、多種多様のごった煮状態。恐る恐るという感じでしたが、そこは黎明期の熱量と言うのでしょうか。「今、良く分からないけど面白い事やってる」という肌感がありました。そんな環境に、仕事半分、興味半分で浸かってきたのです。
 最近では、Web上の小説投稿サイトで各種のコンテストが行われ、それをきっかけに書籍が発刊されることも少なくありません。実は私もその一人です。10万字の小説にチャレンジしてみようか、でも、何を書こう。どうせ書くなら好きな物がいいな、という事で選んだテーマが「ミステリ」か「サウナ」でした。
 ミステリ、好きなんです。協会員の皆さまならその理由は言わずもがなですね。魅力的な謎が提示され、それが解き明かされるというスタイル。たまりません。
 そしてサウナ、好きなんです。ある冬の日に突然に腰へと走った魔女の一撃。立つこともままならず温浴施設で療養しながら過ごす日々のうち、ふと気づいたサウナ室への扉。これがまあ、天国への扉だったのです。暖まるのはいい。血流が体の隅々まで行き渡り、いろんなメンテを施してくれます。サンキュー血液。流水不腐。留まらず、流れることが肝心なのです。そして水風呂で身体を冷やして自律神経を鍛え、ベンチでぐったり休息してととのえていく。たまりません。
 結局私がどちらのテーマを選んだかと言うと、「両方」でした。できあがったのは、普段は冷え性のお爺ちゃんが、サウナで暖まると全盛期の輝きを取り戻し、休憩用のリクライニングチェアに安楽椅子よろしく腰掛けて事件を解決するという、サウナ室限定の安楽椅子探偵のお話です。「好きなものと好きなものを足せば凄い好きなものになるのでは?」という頭の悪い選択でした。
 こちらが運良く、当時開催されていた「30歳以上の主人公を主役にしたお話のコンテスト」の募集要項にうまくハマり、賞をいただいて出版に至りました。人生何がおこるかわからないものですね。さらに、コミカライズ化されることに。本当に人生何がおこるかわからないものです。
 と、そんな経緯で日本推理作家協会の末席へ加わらせていただく事になりました。ミステリが好きな方々に楽しんでいただけるような作品はもちろん、ミステリをあまり知らない方に読んでいただき、間口を広め、沼に叩き込めるようなお話が書けたら良いな、と考えております。あわよくば、ミステリ沼だけではなく、サウナ沼にも。皆さま、あらためまして、よろしくお願いします。