新入会員紹介

入会のご挨拶

藍沢今日

 この度、知念実希人先生と佐藤青南先生のご推薦をいただき、日本推理作家協会に入会させていただく事になりました、藍沢今日と申します。
 この場をお借りして簡単な自己紹介をさせていただきますね。
 僕は第18回『このミステリーはすごい!』大賞の隠し玉「犬の張り子をもつ怪物」でデビューしました。まだまだペーペーで小説業界の事は手探り状態です。こないだも編集さんからの電話に本名を名乗ってしまうという新人キャバ嬢みたいなミスをしてしまいました。
 僕が生まれたのは大阪市。子供の頃はスーファミと漫画三昧で、土曜日はさっさと下校して吉本新喜劇を見てから遊びに行き、帰ってから探偵ナイトスクープの録画を見るという、一般的な大阪の少年の生活を送っていました。
 中学でロックンロールに目覚め、「金髪にしたらギターが上手くなるのではないか?」と謎の理論にたどり着き、頭をギンギラギンに染めて登校し、見事に生徒指導室で丸坊主にされました。なおその頃は、小説どころか文字すら読んでいません。
 高校大学を卒業し、ロック熱が冷めた頃に出会ったのが小説でした。たしか買ったのは乙一先生の『The Book ―jojo's bizarre adventure 4th another day―』でしたね。ジョジョの奇妙な冒険第4部のノベライズ版です。かねてからジョジョファンである僕は「小説かぁ……」と尻込みしながらも書店で手に取りました。ジョジョは漫画やからおもろいのになぁ……、とか文句を言いながらも読み始めました。それが、面白いんですよ!
 これが僕の小説との出会いでした。
 ネットで京極夏彦先生の「姑獲鳥の夏」が紹介されていたので、Amazonでポチりました。結構な分厚さに尻込みしましたが、戦後のレトロな空気感と人物たちの躍動感に引き込まれて夢中になりました。面白い! と思って「魍魎の匣」もポチりました。そして届いたのがあの鈍器です。
 結局、僕は京極先生の百鬼夜行シリーズの大ファンになりました。そして「これ俺にも書けんじゃね?」と謎の自信が湧いたのです。それで初めての小説執筆に取りかかりました。
 初めて書いたのは百鬼夜行シリーズのパクリ。しかも下手だから全然パクりにもなってなくて「云う」「嗚呼」「匣」とか難しい漢字を使っているだけ。
 その一年後にアガサ・クリスティ賞とこのミス大賞の最終選考に残ったのです。結局落選したのですが「やっぱ才能あんじゃね、俺」と謎の自信が再燃したのです。その頃、僕に衝撃の出来事が起こったのです。
 当時、僕はある怪談イベントのスタッフをしておりました。その日の出演者リストを見るとそこにこんな名前が印字されているのです。京極夏彦、と。僕は奇声を上げました。
 やがて先輩から「おい藍沢。京極さん呼んできてー」と指示が飛んできました。軽い感じで言いやがる。僕はガチガチに緊張しながら京極先生の楽屋のドアを開け「京極さーん。出番でーす(1オクターブ上)」と呼び掛け、ステージまでご案内しました。誘導している間「俺の真後ろに京極先生がいる……」と考えてガチガチでした。
 そして打ち上げ。小さな町中華でした。なんと僕の隣は京極先生なのです。カンパーイとか言ってビールを飲みましたが、緊張のあまり味は覚えていません。あ、チャーハンは美味しかったです。僕の手の中のグラスは泡だらけです。このビールなんでこないに泡立つんや、と思っていたら、僕の手が震えていて泡立っているのでした。
「君、最終選考どうだったんだよ」
 不意に声を掛けられました。なんと京極先生です。京極先生に話し掛けられているんですよ!
 僕は「お、お、お、お、お、お、落ちました!」と答えると、京極先生がおっしゃいました。
「来年は大賞獲りたいよな!」
 そう言って京極先生は僕と握手してくださいました。そこから記憶がありません。
 打ち上げ終了後、僕は店の前で一人で放心していました。すると京極先生も店から出て来て「君、ちょっと来て」とおっしゃいました。僕はチワワのように目を輝かせて駆け寄ると、京極先生は筆ペンを取り出し、今日の怪談イベントの台本に何やら書いておられます。
「頑張れよ」
 そうおっしゃった京極先生は僕に台本を手渡しました。サインです。あの京極夏彦のサイン入り台本です。
 嘘だろ。夢だろ。
 その夜、僕はホテルに戻り、サインを眺めて一晩中ニヤニヤしていました。現在でもそのサイン入り台本は額に入れて飾っています。家宝です。
 来年は大賞獲りたいよな! そうお声掛けいただいてから十年の歳月が経ちました。来年ではありませんでしたが、十年かかってデビューしました。奇しくも十年前に落選したこのミス大賞からデビューです。
 作家はデビューしてからが大変とか、二作目の壁が分厚いとか言われております。中には「ここからが本当の地獄だ」とフリーザ第二形態と出会った時のベジータみたいな事をおっしゃる先輩方もいらっしゃいます。しかし難しいのは分かって飛び込んだ世界です。僕は新人ですが二作目、三作目ともっと面白い物語をお届けできるよう頑張ってゆきますよ。長い自己紹介となりましたが、みなさま今後ともよろしくお願いいたします。
 そして日本推理作家協会のHPを確認した時は驚きました。現在の代表理事は京極夏彦先生だったのですね。