追悼

勝目さんは恩人

神崎京介

 勝目梓さんは、わたしにとって特別な人です。
 今わたしがここにいるのも、勝目さんのおかげなのです。心から感謝しています。
 一九九六年、わたしは出版社に持ち込んだバイオレンス小説でデビューしたのですが、後に当時関わった編集者から、『迷うところがありましたけど、最終的には、勝目さんに原稿を読んでもらい、好印象の感想だったのが決め手になりました』、と教えられました。今にして思えば、新人を世に送り出すかどうかの最終判断を作家に委ねるものかという気もしますが、当時の出版業界は好況でしたし、なにより、勝目梓という作家が偉大だったからでしょう。
 勝目さんは恩人なのですが、先輩でもありました。銀座のクラブでよくご一緒させてもらいました。ゴルフコンペを催されていた時は、何度も誘ってくださいました。そして折々、作家の有り様や生き様について語ってくれました。
 炭坑で働いていた時の落盤事故で九死に一生をえたというお話、流行作家として月産枚数が千枚を超えていた時期があるといったお話、筆の乱れと月産枚数との関係、小説誌の締切に間に合わなくなった時のために、懇意にしている作家と原稿を都合しあうよう協力していたといったお話などなど、デビューして間もないわたしに、訥々と語ってくれたことは今もはっきりと憶えています。さりげなくですが、何かを伝えようとしてくれていたのです。
 昨年の十一月頃と今年一月に、電話で話をさせてもらいました。お元気そうでした。
 勝目さん、ありがとうございました。合掌。