ソフトボール

ソフトボール合宿報告

徳間書店 鶴田大悟

 ベルベル民謡の歌詞に「若いだけで勝てる」というのがある。2013年9月20日、踊り子号、東京駅九時発、修善寺行き。車窓を眺めながら、僕はこの言葉を思い出していた。
 日本推理作家協会主催のソフトボール合宿に向かっている。今回「若い」という理由だけで初参加となった。
 まだ暑さが残る初秋、人工芝のグラウンド、ウォーミングアップする選手たち。対するのはミステリーズとエディターズ。ミステリーズには経験者が多い。とはいえ、平均年齢であればエディターズの完勝だ。
 一日目の第一試合最終スコアは七対六でミステリーズの勝利。ミステリーズの経験者たちを前に、エディターズが若いパワーで迫る好ゲームとなった。
 しかし、第二試合目。十七対三のコールドゲームでミステリーズの圧勝に終わる。エディターズには力は残っていなかった。一方、平均年齢が高いはずのミステリーズの選手たちは輝きを増しているようだ。
 「ビール! 飲みたい!」
と言いながら投球するエディターズのピッチャー、川田未穂選手(文藝春秋)の一言は、エディターズ選手全員の気持ちを表していた。
 そして第三試合、ミステリーズオーナーの逢坂剛チーム、エディターズ監督村山昌子(徳間書店)チームが、AKBに負けるとも劣らぬ真剣なジャンケンでメンバーを振り分けた混合戦を行い、その後はホテルでの宴となった。
 夕食後は、カラオケや二次会が繰り広げられた。
 二日目は午前八時にグランド集合予定である。しかし、K野選手、K林選手(K談社)のように就寝したのが午前四時となった者もいる。自分もその一人だったが……。
 七時過ぎ、ホテルの朝食に向かうと、運天那美選手(角川春樹事務所)は白米を何杯もおかわりしている。これなら昨日同様の熱戦が再び、と思ったが、運天選手は試合に参加せず帰っていた。彼女はきっとお酒を飲み、おいしいご飯を食べに合宿に参加したのかもしれない。気持ちのよい食べっぷりだった。「結婚式、結婚式!」と言いながら飄々と帰っていった運天選手、お疲れ様でした。
 明朝八時、僕がグランドへ向かうと、壁のようなものがあった。ミステリーズはストレッチをし、ランニングを行い、皆で談笑をしている。一方エディターズのベンチは、ほとんどの人が動かず、暗く曇っていた。
 この状況を打破するために一回表、ミステリーズのピッチャー小沢章友選手から僕は先頭打者ホームランを打った。一回表ではこの一点しか入らなかったが、エディターズはこの一点でベンチに活気が戻った、と思う。一回裏のミステリーズの攻撃を零に抑え、続く二回表には二点を追加した。だが、ミステリーズもすぐに反撃に出る。
 二回裏ミステリーズは小前亮選手の二塁打や逢坂選手の四球、吉野仁選手と庄村敦子選手のヒットなどで二点を返した。
 四回を終え、スコアは三対二(エディターズ対ミステリーズ)である。
 試合が動いたのは五回だった。エディターズはなぜか僕をライバル視する園原行貫選手(光文社)や助っ人の上村哲也選手など上位打線の集中打で三得点を得て、五回裏のミステリーズを三人で抑え、六回表にはさらに一点を追加する。
 六回表を終えた時点で七対二(エディターズ対ミステリーズ)。この時、僕は勝ったと思っていた。
 しかし、ミステリーズはここから、試合を物語のように展開していく。
 六回裏、二点を返した後、七回のエディターズの攻撃を三者凡退に抑え、その裏に三点を加えて、七対七の振り出しに戻したのだった。
 七回はソフトボールの最終回だが、どこからか延長戦という言葉が聞こえ、当たり前のように延長戦に突入する。
 分が悪いのは、エディターズだった。試合前に疲労困憊で、何とか七回まではとゲームに臨んできた。
 エディターズはミステリーズの攻撃を八回こそなんとか零に抑える。しかし、九回裏ミステリーズの攻撃。伊東潤選手がシングルヒットを打ち、逢坂選手がライトの頭を超えるサヨナラヒットでゲームセットとなった。
 結局、来月古稀を迎える逢坂選手がすべてを〝もっていった〟。
 帰宅途中、僕は民謡の続きを検索した。そこには
 「若いだけで勝てる。老いただけで負けない」
とあった。
 あー、ビール飲みたい。