新入会員紹介

入会のご挨拶 彷徨えるミステリ脳

秋好亮平

 日本推理作家協会70周年 書評・評論コンクールにて「通俗的な、余りに通俗的な――初期連城文学試論」を奨励作に選出していただき、昨年九月に入会することと相成りました、秋好亮平と申します。ものぐさなもので、締切がないからとすっかりご挨拶を後回しにしていたところ、同時期に入会した方々が皆きちんとお書きになっているのを見て冷汗三斗、ワセダミステリクラブの後輩でもある荒岸来穂氏に「はて枚数はどれくらい書けばよかったかしらん」などと動揺してLINEしたものの彼もまだ書いておらず、とかくこうして慌ててしたためている次第。誠にお恥ずかしいかぎりですが、今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
 前述の論稿をはじめ、自分は大西巨人の「俗情との結託」という表現を、ときに原義から外れながらも借用しがちなのですが、己自身の生活を顧みると俗情にまみれていることはなはだしく、常にテレビバラエティや深夜ラジオ、ネット配信番組を追いかけている気がします。とはいえ、ただ笑って視聴しているだけでもなく(と云いわけめく必要もないのですが)、ミステリ好きであれば誰しも同じような視点を持っているかと思いますが、そうしたコンテンツに関してもついつい、ミステリ要素を読み込んでしまいます。なんでもかんでも「これはミステリとして云々」「あれは本格としても云々」といった調子で語ってしまう思考と精神を〝ミステリ脳〟とでも云うのでしょうか。業が深いですね。
 千街晶之氏編著『21世紀本格ミステリ映像大全』(原書房)では、そういった視点でもってバラエティ番組を紹介させていただきました。取り上げたのは、『くりぃむナントカ』『総合診療医ドクターG』『クイズ☆タレント名鑑』『Kiss My Fake』『とんぱちオードリー』『水曜日のダウンタウン』『テラスハウス』『今夜はナゾトレ』の八番組。近年の地上波バラエティのヘゲモニーを握っていると云っても過言ではない、TBSの藤井健太郎Pの番組が多いのは、氏がテレビという枠組みを相対化しているがゆえに、視聴者を驚かせる仕掛けとしてそれを利用できるということの証左にほかなりません。
 二〇一八年以降も様々な物議を醸しながら、先鋭的な攻めた企画の数々を見せてくれた『水曜日のダウンタウン』。別段ミステリというわけではないものの、「一週間予告ドッキリ」におけるホラーめいたサプライズエンディングや、警察沙汰にまでなった「数珠つなぎ企画で1番過酷なのジョジョの鉄塔システム説」のスリリングさも印象深いですが(ところで、アマゾンプライム配信の『今田×東野のカリギュラ』で二度行なわれた、お笑い芸人が芸能人の拉致に挑む「SARAI選手権」という企画も記憶に新しい)、特筆すべきは『テラスハウス』のパロディ企画「モンスターハウス」でしょう。ことに第三話以降の展開は、(結末は後味の悪いものでしたが)間違いなくテレビ史に刻まれるであろう衝撃がありました。
 しかし、パロディ元である本家も負けていません。相変わらず、〝館もの〟で殺人事件の起こる前のような、ひと癖もふた癖もある出演者たちの織り成す異空間を、副音声とともに見守るという構図は新シリーズにおいても健在。この番組の楽しみ方については、ニッポン放送『高橋みなみと朝井リョウ ヨブンのこと』昨年十二月九日放送回の「私とテラスハウス」でも、「ミステリとしてのテラスハウス」「キーワード〝クローズド・サークル〟」といった見出しが立てられ、端的に説明されていました。朝井氏の講義によれば、従来のテレビリアリティショーは演者と視聴者の二層構造だったところ、『テラスハウス』は演者が同時に視聴者にもなる三層構造であるという点がエポックメイキングだと云います。『映像大全』でも紹介した「三層構造を利用した完全犯罪の発生」に興味のある方は、Netflixで『テラスハウス:Boys & Girls in the City』をチェックしてみてください。
 お笑いの賞レースでも、例えば『M ‐1グランプリ2018』における和牛のネタなど、ゾンビの定義を漫才コントによって反転させ、屁理屈に説得力を持たせる一本目、自らの母親にオレオレ詐欺の電話をかけるという導入から熾烈な騙し合いへ発展する二本目ともに、上質なミステリの感触がありました。あるいは『キングオブコント2018』でザ・ギースが披露した、サイコメトラー高校生が犯行現場の残留思念を読み取るというコントは、「凶器の包丁に触れても犯人ではなく鍛冶屋の思念が見えてしまう」というボケが伏線となり、真犯人が明らかになる展開が秀逸でした。そのKOCでさらば青春の光が二本目に用意していたらしい「ヒーロー」というネタも、火事の真相と意表をつくホワイダニットに唸らされます。他にも、第39回『ABCお笑いグランプリ』で優勝したファイヤーサンダーの代表作「KPKDBF」は、反=ダイイング・メッセージものの佳品と云っていいでしょう。そういえば、M ‐1の敗者復活戦で一気に注目されるようになった金属バットには、「叙述トリック」という言葉が出てくる漫才があり、自分たちのラジオでも時々ミステリ作家の名前が……(切りがないので、これをもって入会のご挨拶とさせていただきます)。