新入会員紹介

入会ご挨拶――何者だ、こいつは?

関根亨

 今野敏先生、有栖川有栖先生に推薦人をお引き受けいただくという光栄にめぐまれ、この度入会させていただきました。お二方を始め、理事会の皆様に篤くお礼申し上げます。
 私は以前、出版社の文芸出版部におりまして、編集長や担当部長などをつとめました。在職三一年のうち、文芸部門には二四年ほどおりました。多く協会員の皆様方を担当させていただきまして、二〇一五年夏に退社、独立することになったわけです。
 以来、間もなく三年をむかえることになります。現状の私を、推理小説の原則にならって申しますと、一人三役。編集者・文庫解説者・小説講座講師ということで、個人事業主ながら、ほうほうの体でなんとかやってこられました。
 一人三役のひとつは、前職と同じ文芸編集者です。退社後フリーランス宣言をしましたところ、ありがたくも早速お声がけをいただきました。
 現在は四社ほどの版元から委嘱を受け、社内編集部員の方とともに、文芸書の編集に動いています。依頼に始まり、ストーリーの打合せ、ことに最近は増えましたが、担当作家皆様のトークイベントやサイン会などへもお邪魔状態です。原稿が上がりましたら校正はむろん、帯のコピー原案も書かせていただくこともあります。
 以前は当たり前の仕事でしたが、会社員ではなくなった今も、引き続き文芸編集者として働けることは、感謝のほかありません。
 編集業務は単独作家担当のほか、アンソロジーもあります。例えば、〈どんでん返し〉をテーマとし、著者に収録作を〈自薦〉していただこうという企画には、多数の方々にご協力いただき、人気シリーズの一つになりました。
 同シリーズでは巻末解説も執筆させていただいています。こちらを契機に、単著の文庫解説も何冊かご依頼がありました。
 こうした解説業務のおかげで、小説家でも評論家でもない単なる中年風来坊が、日本推理作家協会に入会できましたので、感謝の二乗と申し上げておきます。
 文庫解説者としては、依頼する側からされる側になったわけです。今までも協会員評論家の皆様には、無茶な納期や内容口出しなどはなかったとは思いますが……。自分にそのつもりがなくても万が一、ということはあり得ます。
 社員編集者時代、協会員評論家の皆様に何か非礼がありましたらお詫びします。お礼から一転、謝罪原稿となりました。
 私ごときが申し上げるまでもないですが、解説は本文内容論点を精緻に書くばかりではありません。著者既刊なども含め、多角的に検討の必要があります。
 そのような方法論詳細もまた、協会員評論家の皆様にお教えいただきました。身についたと言えますかどうか、今後の解説活動にてご恩をお返ししたいと思います。
 最後は恥ずかしながらですが、天狼院書店という新機軸拠点にて、小説講座講師などもやっている次第です。昨今の書店の例にもれず、イベントやセミナーを主宰。関連する書籍や雑誌を売ることで相乗効果の利益を得る業態になっています。
 同店を拠点会場とし、未来の作家志望者の成長を応援しています。将来可能でしたら、受講生の中から日本推理作家協会員になる作家が生まれてくれれば望外の喜びです。
 そんなところで一人三役と書きましたが、いばれたものではありません。むしろ横溝正史作品のある犯人像を想起していただいたほうが正解でしょう。
 タイトルは伏せますが、同作の犯人は自らのある行動により、事件関係者から蝙蝠と呼ばれていました。
 私もなにやら似たような感じです。あちらでは編集者と名乗り、こちらでは文庫解説者と自称し、隠れてこっそり講座などやっている……。
 そのうちどこかの名探偵に正体を暴かれて周章狼狽するのも一興かと思っていましたが、自ら正体を明かすことにいたしました(笑)。
 末筆ながら、貴会ならびに協会員皆様のご発展をお祈りいたします。