日々是映画日和

日々是映画日和(95)――ミステリ映画時評

三橋曉

 インドの法廷映画『裁き』が面白い。いわゆるミステリ映画ではないが、政治犯として逮捕された歌手が司法の裁きを受ける過程を克明に描いていく。警察権力による反体制運動取り締まりの横暴さは許し難いほどだが、それでも公正に徹する裁判官の威厳や、被告に容赦のない検事にも生活感が滲むところなど、人間性に対する希望のようなものを抱かせる。一方で、この国の貧困の実態を暴くような寒々とした裏町の光景には、唖然とするばかりなのだが。

 高齢者たちを主人公にした犯罪映画といえば、アル・パチーノ、クリストファー・ウォーケン、アラン・アーキンが大暴れする『ミッドナイト・ガイズ』(2012年)にとどめをさすが、同じくアラン・アーキン出演の『ジーサンズ はじめての強盗』も捨てたもんじゃない。年金打ち切り、体調不良、家の差押えと、お先真っ暗のモーガン・フリーマンは、ある日、銀行で強盗事件を目撃する。目の前で覆面の犯人らは、まんまと現金強奪を成功させてみせた。それに背中を押されるように、同じ会社を四十年間勤め上げた仲間のマイケル・ケインとアラン・アーキンを誘い、手始めに食料品店で万引きをしてみるが失敗。しかし諦めきれない彼らは、コネを使ってプロの指導を仰ぐことに。やがて本番決行の日がやってくる。
 自分たちをないがしろにする社会に一泡吹かせようとする老人たちを描く犯罪映画だが、動機はあくまで愛する家族と暮らすため、という人情喜劇だ。なので甘い所もあるが、俄かにミステリ映画として畳みかけてくる終盤には、意表を突かれる。なるほど、これって立派なケイパー(強奪計画)ものだったのと感心させられることしばし。ハッスルする主人公らに、今もチャーミングなアン=マーグレットと、テレビの『ファーゴ』にも出ていたジョーイ・キングが花を添える。監督、脚本ともほとんど名を聞かない人物だが、達者な出演陣にも助けられ、いい仕事をしている。(★★★1/2)

 同じく銀行強盗のシーンから始まるスティーヴン・C・ミラー監督の『マローダーズ 襲撃者』だが、雰囲気はだいぶ異なる。手際いい手口で銀行を襲撃した強盗団は、支店長を撃ち殺して逃走した。FBIの指揮官クリストファー・メローニは、駆けつけた市警の捜査班が証拠の一部を勝手に持ち帰ったことに激怒するが、証拠物件から取られた指紋は、すでに死亡している軍人のものだった。程なく今度は別の手口で銀行の貸金庫が狙われる。またしても犠牲者が出るが、FBIの新米捜査官エイドリアン・グレニアーは、先輩デイヴ・バウティスタの助言で市警捜査班のリーダーを懐柔し、犬猿の仲にある両捜査陣の連携を図ろうとするが。
 大銀行の頭取役として悪玉然と登場するブルース・ウィルスを見ただけで、事件の背景にあるものの一部は透けて見えるが、それだけの話に終わらない。伏線がきちんと張られているので、複雑なプロットにも、かろうじて付いていける。総合格闘技出身のバウティスタを始め、FBIチームの面々の際立った個性も印象的だ。(★★★)

 キャリアのあるチャック・ラッセル監督『リベンジ・リスト』は、現代を舞台に復讐を描く難しさを改めて痛感させる。連鎖する復讐が、フィクションとはいえ問題解決に繋がらないと考えるのが今や当然だろう。それでも復讐をテーマにしたエンタテインメントがなくならないのは、それだけ理不尽が世界に横行しているということだろうか。出張から帰ったジョン・トラボルタの目の前で、彼を空港に出迎えた愛妻のレベッカ・デモーネイは三人のチンピラに刺殺される。捕まえた容疑者をあっさり釈放した警察に不信感を抱いた彼は、特殊部隊時代の仲間で情報屋をやっている友の協力を得て、犯人たちを狩り出していく。
 トラボルタにとって都合のいいお膳立ては、やがて巨悪に行き着く展開と同様に、またかと思ってしまう。そんな中で、復讐に手を貸すクリストファー・メローニがいい味を出している。気丈さを見せる主人公の娘アマンダ・シュルと同様に、マッチョなトラボルタの単調な独りよがりになるところを随分と救っている。(★★)

 リメイクだという先入観で食指が動かなかった入江悠監督の『二十二年目の告白─私が殺人犯です─』だが、鮮やかに背負い投げを食らわされた。時効を迎えた連続殺人の犯人と名乗り出た藤原竜也は、事件の告白本を刊行すると宣言した。当時捜査にあたった刑事の伊藤英明にとっても、事件は因縁深いものだった。しかし遺族への謝罪や本のサイン会など、世間を挑発する行動を繰り返す藤原に対し、別の人物が真犯人を名乗り出て来た。報道番組の人気キャスター仲村トオルは、番組の中で二人の犯人と刑事に出演を要請し、真相を明らかにしようとするが。
 じゃんけんの後出しを咎めるようにストーリーを追ったが、ある時点からの意想外の展開に不意打ちを食らう。韓国版の『殺人の告白』と結末が違うと噂では聞いていたが、結末だけではなく、その本質をも作り変える勢いがある。事件の悲劇性はより鮮明になり、さらにもう一つの悲劇を重ねた形のリメイクはもはや別物で、最後は派手なカーチェイスでお茶を濁した原典を凌駕する。ミステリ映画のリメイクは、かくあるべしというお手本だろう。(★★★★)

※★は最高が4つ、公開日の記載なき作品は既に公開済みです。