ソフトボール

ソフトボール開幕~書評入り自戦記~

西上心太

 三月三十日(木)、推協ソフトボール同好会の二〇一七年シーズンが始まった。昨年は十一月の修善寺合宿はあったものの、定例会は七月が最後だったので、実に久しぶりである。
 青山運動場には陽光が降り注ぎ、汗ばむほどの温気となった。気温も二十度近くあったのではないか。開幕戦にありがちな寒さに震えながらのプレーということもなく、皆気持ちよさそうに準備体操を終え、さっそくフリーバッティングが開始された。
 グラウンドに散ったメンバーを見渡して、おやっと思ったのがエディターズの最年長、集英社クリエイティブの山田選手である。聞けば昨秋に、何十倍にも及ぶ?という入団テストの狭き門を抜け、地元ソフトボールチームへの入団を果たしたという。最初の練習試合で、女子高校生のソフトボール部と対戦し、相手エース投手のウィンドミル投法から本気で投じられたブラッシュボールを指に当て、さっそくの負傷をしたとも聞いていた。
 だがわれわれが暖衣飽食に明け暮れた厳寒期にも、毎週試合を続けた結果、見た目の体型は変わらねど、明らかに身のこなしが違っているではないか。ゴロを捕りにいき送球に至るまでのフットワーク、そしてパワーアップしたバッティング。男子三日会わざれば刮目して見るべし。まさに年齢を言い訳にしてはならない見本が、ここにあったのである。しかしその努力鍛錬が諸刃の剣になろうとは……。
 思い起こせば三月前のソフトボール同好会新年会の席。お開き直前のじゃんけん勝負に負けたわたしが、小沢章友氏に代わって新監督を仰せつかったのである。
 罰ゲームですか。
 監督の仕事の第一がオーダー決めである。そこで考えたのが、高倉、豊田、中西、大下と続く、西鉄ライオンズ全盛期の流線型打線である。推協・流線型打線は、小沢章友、逢坂剛、伊東潤、小澤亘(大公)と続く。これが見事に的中する。
 懐かしい名前に気づいたであろう。そう日ごろ協会がお世話になっている大公の小澤氏が「上海帰りのリル」となって帰国、四年半ぶりに復帰したのだ。野人のような風貌と体型は変わらず、初打席のクリーンヒットと、それに続く大転倒(一歩目で)、レフト守備でファールフライを追ってフェンスに激突と、派手なパフォーマンスを名刺代わりに見せてくれた。怪我しませんでしたか。
 さてミステリーズ先攻で試合開始。相手先発はもちろん山田投手。山田投手の特徴といえば、いつホームプレートを通過するのかわからないひょろひょろ球である。一騎当千、打ち気に逸るわがスラッガーたちは、いつまでたっても来ないボールを待ちかねて、悪球を迎えにいってしまい、凡打を重ねてしまうことが多かったのである。だが、先ほど諸刃の剣といった意味がここにあった。不断の努力の結果、ボールが速くなっていたのである!
 平たくいえば、ちょうど打ちごろの素直な球筋になっていたのだ。それを裏付けるようにヒットの二人を置いて、推協の中西太が初打席で3ランホーマー。次いでエラーとヒット(わたし)で再び塁上を賑わしたところ、週始めの寒空の下のゴルフで腰を痛めたという河野治彦選手の二塁打で計4点を奪い先制した。
 ところがエディターズも先発吉野投手を攻め、5連打。そして満塁の走者を一掃する三塁打をKADOKAWAの似田貝選手が放ち、6点を奪いあっさり逆転。二回裏には双葉社の山上選手の三塁打等で5点。三回には3点を奪われ、1点ずつしか返せないわがチームを引き離していく。
 エディターズのヒットはいい当たりもあったが、内外野のちょうど真ん中に落ちるなど、ラッキーなものも多かった。
 そこで思い出したのが、昨年三月に出たトラヴィス・ソーチックの『ビッグデータベースボール』(KADOKAWA)である。つい先日読み終えたのだが、これが面白い。ピッツバーグ・パイレーツというチームがある。七十年代には二度ワールドシリーズを制覇、九十年代には地区三連覇があったがそれ以降は低迷、ついには二十年間連続負け越しという不名誉な記録を作ってしまった弱小チームである。マーケットも小さく、フリーエージェントを獲得する資金に乏しい球団が決意したのが、新GMのもと、野球に関するデータいじりが好きな「オタク」を雇い入れ、守備に関するデータを重視して、大胆なシフトを実行したのだ。さらに打率は二割そこそこだけど、これまた独自のデータからはじき出した、微妙なボールをストライクにするのが上手いキャッチャーを獲得したり、不調が続いているが三振奪取率が高いピッチャーを入団させたりと、他チームが見向きもしない視点からチームを再建し、二年目あたりから成績が向上して、三年連続プレーオフに進出したんですね。また、最近のデータに依存するだけでなく、選手ときちんとコミュニケーションを取れる監督の能力も取り上げて評価しています。裏方と選手の垣根をなくす、裏方のデータを信用し活用する。あらゆる組織に応用が利くヒントにもなるでしょう。
 ベストセラーになって映画化もされたマイケル・ルイス『マネー・ボール』は有名ですが、今の大リーグはめちゃくちゃ進化してます。ピッチャーが投げたボールのスピードから軌跡、変化の度合い、打者がはじき返したボールの初速から角度から落下地点まで、すべてのデータが、ほとんどの球場で記録集約され、それを各球団が購入しているそうです。すごい時代になってます。それを知ることもできる、読む野球ファンにとって、必読の書でありましょう。以上書評終わり。
 ということで、それまで内野に置いていたユーティリティプレーヤーを外野に回すという策に出た(もっと早く気づけよ)。そうしたらあら不思議。エディターズは四回以降無得点。こちらは終盤五点を取って追い上げたが、反撃が遅く、惜しくも十四対十二で開幕勝利はエディターズのものとなった。
 二試合目は河野選手と光文社・萩原選手が先発。エラーで出塁した快足の光文社園原選手だったが、一塁の西上が次打者中央公論新社金森選手のライナーを好捕。飛び出した走者にタッチしてダブルプレー。幸先良いスタートかと思ったら、クリーンナップに連打され三点献上。しかしその裏に同点に追いつき、二回には五点を取り、五回を終えてわがチームが二点リードで六回へ。簡単にツーアウトを取ったものの、角川春樹事務所の寺内選手、運天選手の打球を、疲れの見えたミステリーズの内野陣が得意のばたばた。続くバッターが文藝春秋の東郷選手。どうでもいい時は我関せずと三振していた元帥閣下だったが、ここで三塁ベースを襲うヒットでつなぎ、それからは怒濤の連打で一挙九点。けっきょく十九対十一でエディターズ連勝で幕を閉じた。
 一試合目の後半と、二試合目の前半を合わせれば、こちらが勝っている、これからはいいとこ取りで行こうなどと、勝ちを惜しむわれらの思いは募るばかりでした。
 ところで試合の途中で思わぬゲストが登場。作家の佐藤多佳子さんだ。なんでも野球小説を構想中とか。三十年来に渡る横浜ファンで、見る方は年季が入っていますが、ボールやバットに触れるのはほぼ初めてとのこと。第二試合で代打で登場。結果は伴わなかったが、終了後の練習では逢坂剛、河野治彦という豪華コーチ陣の指導よろしく、いい当たりが出るように。よろしければこれからもご参加下さい。
 新シーズンで気づいた点ですが、女性選手が力をつけてますね。運天選手はたしか3打点。青木千恵選手は明らかに打球のスピードが違う。審判を務めた文藝春秋の川田監督は、微妙な判定に対する野次にも顔色を変えない……などなど。
 今季も楽しいシーズンにしましょう!