訃報

会員・夏樹静子氏死去

 会員の夏樹静子氏(本名・出光静子)が三月十九日に急性心不全のため亡くなられた。七十七歳。夏樹氏は一九三八年東京生まれ。慶應義塾大学英文科卒。在学中の一九六〇年に五十嵐静子名義で応募した「すれ違った死」が、第六回江戸川乱歩賞の最終候補となり、それがきっかけでNHKの推理番組「私だけが知っている」のシナリオを担当するようになった。その後、夏樹しのぶ名義で雑誌に短編を寄稿。結婚を機に福岡市に移る。数年のブランクの後に夏樹静子名義で応募した「天使が消えていく」が一九六九年の第十五回江戸川乱歩賞で二度目の最終候補となった。この作品が翌年出版され、本格的な作家デビューを果たした。
 続く長編第二作の「蒸発」で第二十六回日本推理作家協会賞を受賞。また一九八九年にフランスで翻訳された「第三の女」(一九七八年)はフランス冒険小説大賞を受賞している。
 エラリー・クイーンの一人フレデリック・ダネイと親交があり、クイーンの悲劇四部作へのオマージュとして書かれた「Wの悲劇」(一九八二年)は映画化されるなど大きな話題を呼んだ。
 トリッキーな本格ミステリーだけでなく、社会的な問題を取り入れた作品や、法曹界が舞台となるミステリーも数多い。弁護士朝吹里矢子シリーズや、東京地検検事霞夕子シリーズは数多くドラマ化されている。司法と一般常識の乖離がテーマの一つとなる「量刑」(二〇〇一年)、いち早く裁判員制度に取り組んだ「手のひらのメモ」(二〇〇九年)などがある。
 また自身の闘病体験を綴った「椅子がこわい」(一九九七年)も、病因の意外性が話題になった。
 二〇〇七年には第十回日本ミステリー文学大賞を受賞した。
 第三十二回、第三十三回日本推理作家協会賞の選考委員を務めた。
 葬儀に際し、香典を呈し協会よりの弔意を表した。