新入会員紹介

入会のご挨拶

降田天

 はじめまして、このたび日本推理作家協会に入会させていただきました降田天と申します。文章担当の鮎川颯とプロット担当の萩野瑛の二人組で、2014年第13回『このミステリーがすごい!』大賞で大賞をいただき、ミステリージャンルでデビューをすることができました。
 以前は、少女小説やノベライズの方面でお仕事をいただいておりました。少女小説のジャンルから初めての本を出したのは2009年。以来細々ながら本を出し続けてこられたこと、子どもの頃からあこがれていたミステリーで新たにデビューできたこと、おそれおおくも推理作家協会の末席に加えていただいたこと、全てが奇跡のように思えます。
 ですが何といっても一番の奇跡は、正反対のキャラクター性を持つ私たち二人が、一緒に作品を作るようになり、今もそのスタイルを続けていることではないでしょうか。
 私たちが合作を始めたきっかけはささいなことでした。大学時代、鮎川の投稿原稿を読んだ萩野が、軽い気持ちからアドバイスをしたところ、某賞の最終選考まで残ったのです。初投稿だったこともあり、私たち二人はおおいに自信をつけました。これはいけるに違いないと。しかしその思いこみこそが苦難の日々の始まりでした。
 私たちが好きなドラマに「夢っていうのは呪いと同じ」というフレーズがあります。夢を叶えられなかった者は、一生呪われ続けるのだと。
 初投稿で最終選考という中途半端に眩しい希望を得た私たちは、夢を諦めるという選択肢を見失い、デビューという狭き門を潜るために数年間もがき苦しみました。
 もしかしたら、これが一人だったらもっと早く諦めていたかもしれません。なぜなら自分自身を説得することは、他人を説得するよりある面では容易いからです。しかし、幸か不幸か、私たちは二人で一人でした。互いに相手を納得させる言葉を持たず、代わりに物語を作って生きたいというだいそれた野心を持っていました。お互いに対するプライドもあったと思います。
 諦められずに続けた結果、何とか狭き門を通り抜け、デビューにこぎ着けることができました。まさか、門の先には今までよりも困難な道が続いているとは思いもしなかったのです。あれほど諸先輩方が口を酸っぱくしておっしゃっていたと言うのに、理解と実感は別ものでした。
 デビューから数年が経過し、今度こそもう駄目だろうと思う瞬間があり、互いに色々なことを考えたと思います。もうそれほど若くもない私たちは、相手を納得させられる言葉をその時にはちゃんと持っていたはずです。
 ですが、実際に出てきた言葉は違いました。どちらが言ったかは覚えていませんが、「おもしろい話を作りたいなあ」と。それに対し、もう片方は「そうだね」と返しました。
 これまで読んできた好きな本の話をしました。あれも好きだこれも好きだ。本の話をしているだけで元気になれるのだから、やはり本を、物語を作り続けたい。呪われているかどうかはわかりませんが、やっぱり私たちは創作の魔力からは逃れられないと思い知ったのです。
 とにもかくにも、創作を初めてからずっと胸にあり続けた想いを改めて口に出したことで、何かが確実に変わりました。手始めに「いつか」挑戦したいと思っていたミステリーに、「今」挑戦することにしました。少女小説でも、ミステリー風味の作品は何冊か書いてきたのですが、「風味」を取ったちゃんとしたミステリーを作り、賞に応募しようとと決意しました。
 大沢在昌先生の小説ノウハウ本『売れる作家の全技術』に出会い、なめるように読み込んだのがちょうどこの頃でした。北方謙三先生の人生相談の名著と並んで、今でも心の支えとなっている一刷です。
 当然のことながら数年は投稿生活を続ける覚悟でしたので、まさか投稿を再開して一作目の原稿で賞をいただくことになるとは夢にも思いませんでした。
 いまだに半信半疑のまま、ご挨拶の文章を書かせていただいているのですが、これまでのことを振り返りつつ、なんて大変な道に踏み出してしまったのだと青ざめているしだいです。それはとても幸せなことです。
 私たちは奇跡的に二人でやってきました。やり続けてこられたのは、周囲の方々の励ましと優しさのおかげです。ご恩返しをする方法は、作品を届けることしかありません。
 一作一作が勝負だと思い、つねにおもしろいものを作っていけるよう、努力を重ねていきますので、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。