新入会員紹介

「ルーツ&リアクション」

三角和代

 みなさま、はじめまして。このたび、西上心太様、東野さやか様のご推薦を賜り、入会を承認いただきました三角和代と申します。二〇〇五年に初の単独訳書となるジャック・カーリイ『百番目の男』(文春文庫)が刊行されて以来、英語から日本語への出版翻訳に携わっております。
 生まれ育ったのは九州・福岡のなかなか奥のほう、星空がきれいで田畑にかこまれた環境でして、外で遊ぶ場所はいくらでもあったというのに絶望的な運動神経の持ち主であり、ゲームというものは中学生のときにようやくスペースインベーダーが登場した世代となれば、書物とラジオとテレビの洋画劇場だけが楽しみになったのは自然なことだったのかもしれません。図書館での怪人二十面相、ルパン、ホームズ、ポワロ、スペード、ナンシーとの出会いや、獄門島に秘密の花園ツアー。なにを歌っているかさっぱりわからなかったけれど妙にカッコいいロックパンクポップス。渋く華麗な銀幕のスターたち。そうしたものがいまの根っこにあるようです。
 ずいぶんと時間を遡るのですが、前職は海外専門の旅行会社社員。これは、小さな町で育ったことの反動だったとも言えそうです。自分の行動が、なじんできたものの延長である場合と反動から生じた場合とがあるのを考えてみると、分岐点がなんだったか自分でもはっきりしないことですが、ちょっとおもしろい。
 大きな反動がきたものは趣味のサッカー・プレミアリーグ観戦です。自分で動くほうは相変わらずだめですが、いまでは時間が許す限り観ています。応援しているクラブのチェルシーが今期はリーグ優勝を果たしたところで、主力選手のアザールはポワロの設定と同じベルギー出身なのです、素敵じゃないですか。そんなこじつけをしながら観戦するのも楽しいものです。
 根っことつながっているのは、音楽好きの部分。思いついたところを挙げますと、Idlewild、Manic Street Preachers、Teenage Fanclub、My Bloody Valentine、Camera Obscura、Mansun、Suede、Haven、Kula Shaker、Bluetones、Feeder、Fratellis、Sundays、Ed Sheeran、Honeyblood、Dusty Springfield、Paul Weller、Libertines、Jimmy Eat World、Get Up Kids、Fountains of Wayne、Death Cab for Cutie、Dinosaur Jr、Pixies、Motion City Soundtrack、Weezer、Coastguards、Ellegarden、Oceanlane、Asian Kung-fu Generationあたりを頻繁に聴いています。佐野元春やユニコーンやTMネットワークの話題もOK。同好の先輩がいらっしゃるでしょうか。夏の音楽フェスティバルも毎年フジロックかサマーソニックのどちらかには出向きますが、一度はグラストンベリーやレディングやT・イン・ザ・パークといった海外のフェスに参加することが夢です。
 あ、でも、昨年はあまりにバタバタした毎日が続いたためか反動が出たらしく若干判断力が鈍りまして、普段は近所のスーパーで鶏もも肉は却下、胸肉に限るしぶちん生活ですのに、前述のIdlewild数年ぶりのライヴのために、ハイランドのストラスペファーまで出かけてしまいました。鉄道が通っておらず土曜日はバスも運休になる村で、旅をした気分は満喫できましたし、森にかこまれてかつては温泉が湧いたという、日本人心をくすぐる静かで絵になる場所で、ライヴも前の席の男性たちが酔っ払いすぎて警備員によって椅子ごとうしろに連れて行かれたことを除けば感動ものでしたが、落ち着いて考えればあそこまで遠出するのならば計画を練って、長年の夢、海外フェス参加を実現させてもよかったのですよね。ハイランド話のついでにひとつ、インヴァネスを経由しましたので、ツアーバスでネス湖にむかったときのこと。バスターミナルでネス湖行きのチケットを頼むと、行き先は村か城かの二択なんですね。近いほうの村を選んだら、最初は湖沿いを走るので車中から窓越しに見ることはできたのですが下調べ不足で、城まで行かねば湖畔に立てないことを知らず、村は丘にかこまれて湖は見えないという残念なことに。パブ飯は美味しくてさすがハイランド、店内に日本のウイスキーを陳列した棚まであるのを目撃できたのはよかったですが。村のあたりは路線バスもタクシーもほぼ通っていないので、行かれる際には大事なのは城です、城。
 もう二度と自分がネス湖(の湖畔)に行くことはできないかもしれませんが、紙の上で、あるいはディスプレイの上で、みっちり調べ物をしながら、謎と共に世界中の魅力あふれる村や街や自然や人々を紹介して、読者と旅を続けていければ幸いだと思っております。今度ともどうぞよろしくお願い申し上げます。