新入会員紹介

入会のご挨拶に代えて

吉上亮

 はじめまして、このたび入会させていただきました吉上亮と申します。
 若輩者ではございますが、伝統ある日本推理作家協会に恥じぬよう、そして偉大な諸先輩に少しでも早く追いつけるよう精進をする所存でございます。どうぞ、よろしくご指導のほどをお願い申し上げます。
 また、この度の入会にあたり、ご推薦を賜りました大森望様、西上心太様に、この場をお借りして篤く御礼申し上げます。
 私の著作について簡単に紹介いたしますと、一昨年に早川書房より『パンツァークラウン フェイセズ』(早川文庫JA/全三巻)を発表し、デビューして以来これまでSFジャンルで小説を書いております。
 では、ミステリジャンルと縁がないかと言えばそうではない、と自らの読書体験を振り返りつつ気づいたことがございます。
 本格的に読書をするようになったのは、小学生のときでした。そして、当時によく読んだ小説は何か──と考えたとき、まず思い浮ぶのは江戸川乱歩でした。地域の図書館では、入ってすぐの位置に児童向けの書架が配置されていました。そのうち、窓に面した側に収められていた書籍たち。よく手に取ったのは、江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズでした。興味を持ったキッカケは定かではありませんが、何か惹かれたものがあったのだと思います。当時は、刊行順番もわからず、気になったタイトルから手に取って読んだものでした(ちなみに今でも記憶に残っているタイトルは、正確には少年探偵団ではないかもしれませんが、明智小五郎の青年時代を描いた一作である『死兆星』でした。最近、ふと機会があって読み直したところ、なんだか冒頭から耽美な雰囲気に満ちていて、小学生のころの自分は内容を理解できていたのだろうか……)。
 他にも、どんな小説を読んでいたのだろう、と考えてみると、講談社青い鳥文庫で刊行されていたジュブナイルミステリが思い浮かびます。はやみねかおるの『名探偵夢水清志郎事件ノート』(余談ですが、小学生時代に初めて書こうとして開始数行で挫折した小説は、同シリーズの『消える総生島』の影響をモロに受けていたと記憶しております)であったり、松原秀行の『パスワードシリーズ』などを特に好んで読んでいました。
 こうして改めて考えてみると、私にとっての初期の読書体験は、ミステリジャンル(児童向けではございますが)によって構成されておりました。それが巡り巡って、作家となった自分が、推理作家協会の会員となるのは、何とも不思議というか、運命的なものを感じる(というと、こじつけめいてしまう気もしますが……)次第です。
 さて、読書体験はミステリに始まり、著作はSFに始まった私ではございますが、自らの創作方針として、「ジャンル横断であること」。あるいは「越境創作であること」を心掛けております。これは、総合的な作家(また同時に各ジャンルに秀でたプロフェッショナルでもあること)が現在の娯楽産業において、文芸作品を発表し続けるために必要であると認識しているためです。小説には、様々なジャンルがあります。そして、今もっとも多くの読者を有しているジャンルは、まさしくミステリであると考えます。
 私はSF作品(あるいはライトノベル作品)に分類される作品を書いております。しかし原稿作業をする際には、「この物語は謎を含んでいるだろうか」「読者が物語を読み進める推進力として、謎と手がかりを掲示できているだろうか」といった思考をつねに繰り返しております。それゆえ、私は考えます。現在の小説は、どのようなジャンルであれ、ミステリ要素を含んでいるのではないか。ジャンル横断的な思考をもって創作に取り組むためには、必然的にミステリの思考を必要とする。それほどにミステリジャンルは豊穣であり、その肥沃な土壌にあらゆるジャンルが根を張っている。ならば、自分もミステリジャンルに挑まなければならない。ジャンル越境の創作の意志をもって不撓不屈の精神で立ち向かってゆかねばならない──とそう思います。
 だからこそ、作家として(あるいは読者として)、ミステリジャンルに対し、まさしく「新人」といった立場の私が、長い歴史を持つミステリジャンルに、自分でも予想しなかったかたちで関わっていける幸運に感謝を捧げるとともに、その一層の興隆に少しでもお役に立てるよう精進を重ねる所存でございます。そして、日本推理作家協会の一員として相応しく在るよう、今後の創作活動に取り組んで参ります。
 最後に、繰り返しとなって恐縮ではございますが、皆様のご指導ご鞭撻をいただけましたら幸いと存じます。