新入会員紹介

入会のごあいさつ

太田紫織

 はじめまして、このたび大倉崇裕先生と太田忠司先生のご推薦を賜り、日本推理作家協会に入会させていただくことになりました、太田紫織(おおたしおり)と申します。両先生方にはこの場を借りて心よりお礼を申し上げます。

 昨年に二月にデビューしたばかりで、それまでほとんどまともに小説を書いたことはありませんでした。なので今、書店に自分の本が並んでいるのを見て嬉しいと思うのと同時に、なんだか場違いなような、申し訳ない気持ちになります。
 思えば私が一番最初に読んだ推理小説は乱歩作品で、まさか日本推理作家協会に入会できるとは、一欠片も考えていなかったのですから、今の自分がとても不思議です。そもそも最近まで、自分が作家になって本を出すなんて、夢にも思っていませんでした。
 昔から本は大好きでした。というか母は子供の頃、私に玩具を買い与えることを好まず、誕生日やクリスマスといったプレゼントは、すべて図書券でした。当時は友達が変身ステッキやゲーム機で遊ぶのを、とても羨ましく思い、母を恨めしく思っていましたが、小学生の頃から好きに本を買えるというのは、とても贅沢だったのかもしれません。
 自分で最初に買ったハードカバーの本は、エンデの果てしない物語でした。あのえんじ色の表紙に浮き出るアウリン、二色で刷られた本文がとても豪華で誇らしく、長い間宝物だった事を覚えています。一緒に観た映画の影響で、かならずりんごとサンドウィッチを用意して読みました。もしかしたら私が作中に出てくる食べ物にこだわりたいのは、ここがルーツなのかもしれません。

 子供の頃は勿論探偵が好きでした。今はホラーやファンタジーも同じぐらい好きですが、少年探偵団やホームズは勿論、テレビで熊倉一雄さんの「へースティングス!」というのが大好きで、小中学生はクリスティにどっぷり浸かりました。
 おかげでホットチョコレートには随分憧れましたが、チョコレートを食べるとなぜだか酷い頭痛に見舞われてしまって、飲んだ後は必ず後悔をします。残念ながら私の灰色の脳細胞は、名探偵とはほど遠いようです。
 尤も私が憧れたのは探偵ではなく、その優秀な相棒でもなく、機械のように完壁なミス・レモンだったり、ミス・マープルを取り巻くメイド達だったりしたので、探偵よりも誰かの世話をしたい性分なのかもしれません。家事で一番好きなのは料理です。美味しいと言って貰える時が何よりも幸せです。小説を書くと言うことも、もしかしたら料理に似ているのかもしれないと、書いてみて思うようになりました。

 私は美味しい物が大好きで、食べることは生きることだと思っています。ついつい食べ過ぎて、生命力過多気味です。好き嫌いはそんなにありません。お酒アレルギーで蕁麻疹が出るのが、私の人生で一番の不幸だと思っています。でもその分ご飯を美味しく頂いています。
 どちらかといえば和食の方が好きで、揚げ物よりも煮物派ではありますが、フライドポテトが大好きです。皮付きで太いのも、細長いのも好きです。小ぶりなインカの目覚めというジャガイモを、皮付きのまままるっと揚げたのなんてご馳走です。揚げたて熱々、まだ塩が染みこまないで表面がザラザラしているのを、カリ、ホクっとやって、冷えひえシュワシュワのコーラを飲むと、嫌なことはたいてい吹っ飛びます。
 『さあ、お食事いたします!』という気負いなく、手軽にひょいパクいけるのもいいですし、カロリーをどんどん体に放り込んでいく、あの背徳的な気持ちもタマラナイのです。
 私はとても現代的な形でデビューしたと自覚しています。インターネット上で賞を頂いて、出版の機会を得ました。書いている作品も、ミステリを謳うのはおこがましいような、少し軟派で、ライトだと自覚していますし、またそうであるよう心がけて書いています。だからこそ、フライドポテトになりたいと思っています。
 時間の合間にひょいと手に取りやすく、ちょっとだけ意地悪なフライドポテト。でもそんなフライドポテトのように、長らく愛される作家を目指したいです。
 今はまだ、油の中どころか掘り出されて間もない土付きのジャガイモですが、北海道産の名前に恥じぬよう、美味しく熟成していきたいと思っています。作家のさの字もわからない、新参者ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします。