新入会員紹介

入会の御挨拶

月村了衛

 はじめまして、このたび入会致しました月村了衛と申します。いささかトウの立った新人ですが、それだけに少しでも早く諸先輩に近づけるよう精進を致す所存でありますので、よろしくご指導のほどをお願い申し上げます。
 思い起こせば、私が初めて読書を読書として、すなわち作者、作品、登場人物を一体の世界として明確に意識しましたのは、山中峯太郎先生の翻案による『名探偵ホームズ全集』でした。小学二年生くらいの頃です。以来私が将来就くべき職業は〈名探偵〉になりました。しかしながら、悲しいかな、世の中に名探偵という職業は存在しませんでした。そこで中学生くらいの頃には暫定的に〈弁護士〉と致しました。特に深い考えはなく、ただなんとなく名探偵に近いのではないかという気がしたからです。ペリー・メイスンなどが頭にあったせいでもあるでしょう。また同時に、それは「弁護士にはなれても作家にはなれない」という極めて常識的且つ漠然とした思いによるものでもありました。
 それが高校在学中に、「作家になる」という確固たる意思に変わりました。当然志望は文学部です。早稲田に入学した私は、勇躍ワセダミステリクラブの部室を目指しました。しかし校内のどこを捜しても見つかりません。勧誘の受付テーブルも出ていないし、サークル紹介のミニコミ誌にも載っていない。途方に暮れていた私の目に入ったのが、『幻想文学会』の勧誘テーブルでした。
 一か月後、幻想文学編集長(当時)の東雅夫さんから一枚の葉書が届きました。さらにその一か月後、私は東さんと共に聖蹟桜ヶ丘の山田風太郎邸を訊ねておりました。インタビュー終了後、その場で風太郎先生に弟子入りをお願いするつもりでしたが、興奮のあまりすっかり忘れたまま帰途につきました。今となっては忘れていてよかったと胸を撫で下ろすばかりです。なにしろ先生にとってはこれ以上迷惑な話はないわけですから。
 その話がどこにつながるかと申しますと、これがまあどこにもつながらず、ミステリクラブを見つけられなかったばかりか、幻想文学会ともなんとなく縁が切れ、気がつくと私は広いキャンパスに独りぼんやりと佇んでおりました。これが杜子春なら今頃私は大金持ちですが、もちろんそんな話でもなく、文学部に在りながら文学について語らう知己を得られぬまま卒業の時を迎えたのです。当然作家にはなっておりません。在学中に小説現代新人賞に何度か応募し、名前が出るところまでは行ったのですが、そこまででした。
 本人は作家になるつもりですから、当然就職活動は一切しておりません。卒業後も投稿を続ける気でおりましたところ、思わぬご縁があって脚本の仕事が舞い込みました。
 あくまで小説家志望であることに変わりはありませんから、脚本の仕事は別の筆名を使おうかとも思いました。しかし自分の創作物には責任を持って全力で取り組む所存でしたので、あえて月村の名前で執筆しました。最初に「トウの立った新人」と申しましたのはそういうことです。
 脚本家として自分が生み出した作品には今でも誇りを持っていますが、結果として、ずいぶんと回り道をしてしまいました。あまりに長すぎて回り道というのも躊躇われるくらいです。「これが自分の人生であったのだ」と思うしかありません。
 そんな私が、幼少時より何度も目にしていた『日本推理作家協会』の一員にして頂ける。こんな嬉しいことはありません。まるで作家になれたようではないですか。
 変な言い方になりますが、〈やっと死に場所に帰ってきた〉思いが致します。私はここに骨を埋める覚悟で書き続ける決意です。
 繰り返しとなりまして恐縮ではありますが、皆様のご指導ご鞭撻を頂けましたら幸いに存じます。