新入会員紹介

「最大のミステリー」

七瀬晶

 一緒に入会申し込みさせていただいた響さんから「名簿届いたよ」とメールをいただき、ドキドキしながら、早速郵便受けに飛んでいきました。
 すると、ちゃんと入っているではないですか。「推理作家協会」とでかでかと印字された封筒が。
 「推理」とか「作家」とかいう黒々としたあのロゴがぱっと目に飛び込んできて、なんともぴりっと引き締まります。
 ああ、いいなぁ。虫眼鏡やらパイプやら、色んなものが頭の中で踊り始めて、わくわくします。
 おそらく、昔読んだ推理小説の影響でしょう。そう、子供の頃からの憧れは、なんといってもシャーロック・ホームズ。幼稚園の頃買ってもらった雨合羽が、インバネスコート風で、悦にいったものです。あれ? 幼稚園児の頃にホームズを読んでいたっけな? 記憶がごっちゃになっているのでしょうか?
 ともあれ、私は推理小説が好きだったんだなぁ、と改めて感じ入りました。
 何を今さら、と御叱りを受けそうですが、申し込みをする前には、果たして私などが入会してよいものか、推理作家と名乗ってよいものか悩んだりもしました。推理小説には、どこか苦手意識などもあったのです。

 私が小説を書き始めたのは、ごっこ遊びの延長上でした。大きくなるにつれ、ごっこ遊びに皆がつきあってくれなくなったので、しかたなく小説を書いてみた次第。
 中学生になり、退屈な授業に飽いていたクラスの友達に、手書きのノートを回し読みすると、これが存外受けました。中高生というのは四六時中退屈している生き物なので、出来栄えはきっと二の次だったと思います。しかし、子供の勘違いというのは恐ろしいもの。
 「早く続き書いてよ先生!」などという冗談半分の催促を真に受けて、自分に才能があると思い込み、将来は作家になろうと心に決めたのです。けれど、どうすればなれるものやら分からず、賞に出す勇気もなく、気がつけば大人になってしまいました……。
 会社に入って悲しかったのは、皆仕事に忙しく、本を読んでくれる人などいないことです。仕事は仕事で楽しい。でも物語から離れてしまうと、なんだか「生きている」感じがしない……。
 そんな中、メールマガジンで「Project SEVEN」というSFサイバーパンクサスペンスを配信し始め、ネットのファンの応援をいただいて、なんとか出版に漕ぎつけました。
 しかし、次に編集者から来たリクエストが、なんと「現代物ミステリー」。
 大パニックになりました。
 実は私、ミステリーは小六のころ一度書いたきりで、その後はSFやらファンタジーやらしか書いてこなかったのです。
 しかし、せっかくプロとして頼まれた以上、書かないわけにはいかない!
 慌ててミステリー小説を買ってきて、勉強を始めつつ、編集者に「もう少し本格的なミステリーがいいですかね?」などと尋ねたら、「いやいいです! 本格じゃなくていいです!」と全力で否定されました。
 どうにも会話が噛み合わなかった理由は、後になって分かりました。
 要は「本格推理物はお前には無理だろ」と言いたかったようです。ご明察です。
 私ときたら素人も同然、本格推理の難しさや奥深さなど全く考えずに、「ちょっと推理要素を入れたい」という意味で用語を使っていた始末です。

 諸先生方から石を投げつけられそうな状況で、入会させていただいた私。私がここに辿り着けたこと自体がもはや最大のミステリー。
 「推理作家」の文字の重みに圧倒されつつ、ドキドキしながら封筒の中を拝見し……名簿を見てのけぞりました。
 「うわぁ、あの本とか、この本とか、その本とかの作者さんが載っている……」
 知らないうちに私もミステリーを読んでいたんだなぁ、と。面白い推理小説がこんなに沢山あったんだと、改めて気づかされました。
 大好きな作者さんの並ぶ名簿を見ただけで、頭がくらくら来ていますが、ここまで来たからには覚悟を決めて前へ進もうと思います。
 暗号が大好きな私としては、ちょっとした暗号の挑戦状で〆たいと思います。

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 最後になりましたが、私を推挙くださった真保理事、鈴木輝一郎様、ここに導いてくださった響さん、そして素晴らしいミステリーで人生に楽しいスパイスを加えて下さる協会の諸先輩方に、心から御礼申し上げます。