新入会員紹介

入会のご挨拶

坂井希久子

 はじめまして。坂井希久子と申します。この度真保裕一先生、鈴木輝一郎先生のご推薦を賜りまして、入会の運びとなりました。両先生方にはこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございます。
 さて、私のことを長々とお話ししてもつまらないので、ニベアについて書こうと思います。はい、青いチューブや缶に入っている、あの白いクリームです。お母さんが水仕事のあと手指にすりこんでいた、あれです。
 フィリピン関係の仕事(について具体的に説明すると長くなるので省きます)をしていたときのこと。マニラのカラオケ(こちらで言うキャバクラのこと。ステージつきのカラオケ設備が必ずある)で、隣についてくれたオネエチャンたちにウキウキとセクハラをしておりました。その手のお店に日本人女性が来るのは珍しいので、同性の気安さから女の子たちも、男性にはできないぶっちゃけトークをしてくれます。
 「私ね、実は子供がいるの。ナイショよ」と、あどけなさの残る十九歳の女の子が見せてくれたのは三、四歳くらいの息子さんの写真。十代のシングルマザーが当たり前のようにいます。かと思えばプロフィール上は二十歳なのに、「アコ(私)、三十なの」と実年齢を耳打ちしてくれる子も。ともあれみなさん、一家の収入を支える大黒柱です。子供だけでなくご両親、場合によっては祖父母まで養っておられます。
 しかしながら、とにかく明るい。パーソナルスペースが狭いので座っていても距離が近く、そのへんがオジサンたちを喜ばしむるところでありましょう。同性のよしみでむき出しの肩や腕にペタペタ触れておりましたらまぁ、十代も三十代も、てのひらに吸いつくようないいお肌をしていらっしゃる!
 ほつぺもモチモチなんであります。「基礎化粧品、なに使ってるの?」と尋ねてみれば、みんな口をそろえて「ニベア!」
 たしかにマニラのショッピングモールには、ニベアがずらりと並んでおりました。こんなに並べてどうするんだと思っとりましたが、あれは需要に応えたかたちだったんですね。それにしてもニベアとは。フィリピ―ナは日本人よりもお肌が強いのかしらんと、感心しながらスベスベの二の腕を撫でさすっていた次第。
 それから十年近くが経ち、ネット上で「ニベアが使える」という口コミが広まりはじめました。なんでも海外セレブ御用達の三万円もする美容クリームと、成分がほとんど同じなんだ、とか。洗顔後のお肌に直塗りするだけで肌トラブル一切ナシ、というのです。その口コミを聞いた瞬間私の脳裏には「ニベア!」と声を揃えた女の子たちの顔が思い浮かびました。
 実際使ってみますと、これがいい! すでにお肌の曲がり角を三回ほど曲がっておりましたが、もう一回曲がって同じところに戻って来たかのようです。人種による肌質の違いではない。昔からあるニベアクリームが優秀だっただけのというお話。
 で、結局何が言いたいかと申しますと。身近にあるもの、当たり前にあるもの、だからこそ見逃しがちなものを、じっくりと見つめてものを書きたいと思うのです。大きなしかけや派手な展開はないかもしれません。それでもちょっとヒヤリとしたり、なんとなくほんわかしたり、新たな発見があったりする。そんな小説を。
 ちなみに女性のみなさま、男性でも冬の乾燥が気になる方は、ニベアクリーム本当にお勧めですので、だまされたと思って試してみてくださいませ。合う合わない、個人差はあるかと存じますが、ヤツはなかなかあなどれませんぜ。