日本推理作家協会会報

ご挨拶
神永 学


 

 はじめまして。このたび日本推理作家協会に入会させていただきました神永学です。
 入会に際しましては、楡周平先生、薬丸岳先生のご尽力を賜りました。心よりお礼申し上げます。
 末席に加えていただくことになり、改めて日本推理作家協会の会員の皆様の顔ぶれを拝見し、少々場違いな感じがあり、今さらになって恐縮している次第です。
 若輩者ですが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。
 非才な私は、新人賞などの受賞歴もなく、自費出版からのスタートでした。
 現在の状況は分かりませんが、私のときは、自費出版するのに三百万円の費用がかかりました。税は二パーセント。初版部数は千部。
 正直、驚きました。一冊千円で販売したとして、費用を回収するためには、単純計算で十五万部が必要になります。これは、もう絶望的な数字です。儲けようと考えていたら、絶対に手を出してはいけないところですが、賞に応募しても落選続きで、小説を書くことを諦めようと考えていた私は、最期に、何か形に残したいという思いから、貯金をはたいて自費出版に踏み切りました。
 これが大ヒット! とはいきませんでした。
 在庫の一部を引き取ることになり、手当たり次第に友人に配ったのですが、とても捌ききれず、自宅のアパートは、積み重ねられた本で足の踏み場もない状態でした。
 それからしばらくは、おとなしく会社員として生活を送っていました。そんなある日、私の勤めていた会社が、某企業に買収されそうになりました。
 人事総務部門を担当していた私は、買収を阻止するために、あの手、この手を使い、必死の抵抗を試みていました。
 しかし、いくらあがいても大企業に勝てるわけもなく、会社は買収されてしまいました。
 先陣を切って抵抗してきた私が、厄介者扱いされることは必然で、会社から追い出されてしまいました。
 退職金は出ませんでしたが、貯金もあるし、しばらくは、どうにかなるか――安易に考えていたのですが、ふと大変なことに気づきました。
 コツコツと貯めていた貯金は、全て自費出版に費やしてしまったのです。
 自宅に積み重ねられた、大量の本の山を見て、途方に暮れました。
 悩んでいても仕方ない。私は、必死に就職活動に励みました。しかし、なかなか思うようにはいきませんでした。
 そんなとき、一本の電話がかかってきました。自費出版した会社からでした。
 私が、一年前に自費出版した作品を、リニューアルして出版し直したいというのです。
 「そんなお金はありません!」
 私は、すぐに拒絶しました。自費出版後に、「もう一冊出版しませんか?」という営業電話が何回もかかってきていたので、今回も営業だと思ったのです。
 「費用は、全てこちらで出します。」
 電話で、そう言われても、まだ私には信じられませんでした。
 ――これは、新手の詐欺か?
 結局、そのあとに担当者と顔を合せ、詳細を確認しました。
 新人発掘のプロジェクトだと説明を受け、早急に原稿の書き直しを依頼されました。
 仕事を失ったばかりだった私は、原稿を直す時間が充分にありました。次の仕事も決まってないし、やるだけやってみようと原稿に着手しました。
 それから五年が経ちました――。
 自費出版した本の山は、いまだに部屋に積み重ねています。それを見る度に、人生とは、何が起こるか分からないものだと実感します。
 つらつらと書き連ねてしまいますが、今後ともよろしくお願いいたします。