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日本推理作家協会に入会させていただきました伊坂幸太郎と言います。どうか、よろしくお願いいたします。
特別な経歴や特技もありませんので、最近周囲にあったことを、書いてみようかと思います。どれも電話に関連した話なのは偶然で、特に意味はありません。
一つ目は、僕自身のことです。少し前ですが、仙台駅近くのビルで、PHSを使い、東京にいる弟と会話をしていた時のことでした。
それなりの長電話で、ああでもないこうでもない、と喋っていたのですが、途中で僕はあることが気になり、自分の鞄を探りました。
「どうかした?」弟もこちらの物音に気づいたようでした。
「いや、ちょっと」僕は答えながら、「ちょっとさ、PHSが見つからないんだよ。鞄を探しているんだけど、ないんだ。やばいな、どこかに落としたのかな」
すると弟はひどく困惑した口振りで、いぶかしむように、「あのさ」と言いました。
「ちょっと待ってくれ、PHSを探しているところだから」
「あのさ、兄貴、今、俺とPHSで喋ってるんだよね?」
「あ、そうか」なるほど、なるほど。自分の耳に当てていました。いや、こういうことって、よくありますよね。
二つ目は、喫茶店で耳にした話です。ある年配の男性が二人、真剣に話し合っている場面を目撃しました。
何について喋っているのかな、と耳を傾けたのですが、どうやら、「IP電話」についてのようでした。ようするに、「IP電話のIPとは、いったい何の略なのだろう」とそういう議論のようです。
正直なところ僕も、正しい答えは分からなかったので、正解が聞ければいいな、と期待したのですが、しばらくすると片方の男性が、「少し前に、そんな名前の映画がなかったかな」と言い出しました。
僕は咄嗟に、「まずい」と思います。
きっとそれは、「ミッションインポッシブル」ではないか、と直感的に思ったからです。根拠はないのですが、あの映画の二作目は、「MI2」と表記されていて、何となく、「IP」と似ている気がしますし、「インポッシブル」という響きは、「IP」をイメージさせます。だから、そのあたりの混同が男性の頭には起きているのではないか、と想像したのです。
案の定、男性は、「ほら、あの何とかクルーズの」と言い出すではないですか。僕はどぎまぎしてしまいます。何とかクルーズ、というのは、ジャングル・クルーズか、もしくは、トム・クルーズに違いなく、そうなると、「ミッションインポッシブル」の可能性はぐんと上がります。これはまずい。「インポッシブル」は確か、「不可能」とかそういう意味合いですから「不可能電話」はさすがに正解とは思えません。その方向で、答えを探していっても、袋小路です。
「うーん、何だったかな」ともう一方の男性も考え込みますが、幸いなことに、映画の題名は出てきませんでした。
結局、彼らの話は、「ああ、あれだ。インターナショナル・フォーンの略じゃないか?」ということで決着したようです。
それは「国際電話」じゃないか、とも思わないでもなかったのですが、でも、インポッシブルよりはよほどマシの気がします。
三つ目は、間違い電話です。先日、自宅の電話が鳴ったので出ると、名乗るわけでもなく相手が喋りはじめました。「あ、俺だけどさ、もう家に帰ってたんだ? あのさ」と早口でまくし立ててきます。最初は呆気に取られましたが、これは明らかにかけ間違いだな、と僕も気づきました。ただ、それを確認する間もないくらいに、とうとうと喋ってきます。「あ、すみません、どちらにおかけでしょうか」としばらくして訊ねることができたのですが、すると相手もぎょっとした様子で、「あ、○○さんではないんですか?」と声を改めました。
「違います」
「失礼いたしました」相手は丁寧に謝って、電話を切ったのでした。
相手の名前を確認しないで喋り出すとこういうこともあるんだな、と思っていると、またすぐさま電話が鳴りました。嫌な予感はありました。いや、嫌な予感しかなかったのですが、とりあえず受話器を耳に当てます。
すると予想通り、先ほどと同じ声が聞えました。「いやあ、まいったよ。今、おまえのところ電話かけたら、番号間違えててさ」
いや、ですから、よく確認してからのほうがいいんですって。
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