|
今年の二月号で予告した、文藝春秋の単行本シリーズ〈本格ミステリ・マスターズ〉が、いよいよスタートした。
第一回配本は山田正紀氏の『僧正の積木唄』、島田荘司氏の『魔神の遊戯』、そして柄刀一氏の『凍るタナトス』と、一挙三点が店頭に並んだ。ソフトカバーだが、なかなかしゃれたデザインである。手に取るとそれも道理、京極夏彦氏の装丁だった。
ところで、本が売れないのは「つまらんからだ!」と言われると、われわれ作家もつい「すみません・・・・・・」とうなだれてしまう。しかし、もしかすると携帯電話などに小遣いを食われて、本にまで手が回らなくなったという読者側の事情も、あるかもしれない。
だとすれば、出す側が本の価格をできるだけ安く抑えることも、読書人口を取りもどす方策の一つになる。その意味で、ハードカバーの本が当たり前になった昨今、相対的に安価なソフトカバーの本を作るのは、時宜に適っているような気がする。そもそも、昭和三十年代から五十年代くらいまでは、ソフトカバーの本がむしろ主流だったのだ。
一方、これはソフトカバーではないが、原書房が昨年夏からスタートした、本格ミステリーのシリーズ〈ミステリー・リーグ〉も、順調に推移しているようだ。点数はすでに、十点を越えた。新人が中心のせいか、あいにく存じ上げない作家諸氏が多いけれども、本格ミステリーを書く若手が増え、またそれを刊行する出版社が増えるのは、わが推協にとっても心強いことである。
さらに、これは今のところ海外作品に限られるが、国書刊行会が一九九五年にスタートさせた〈世界探偵小説全集〉も、期を重ねながら脈々と続いている。いかにもレトロな、マニア向けの凝った装丁が好ましく、購入意欲をそそられる。たまに、既訳作品の新訳版もまじるが、おおむねこれまで訳されなかった有名、無名作家の佳作を集めた、ユニークなシリーズである。
考えてみると、原書房も国書刊行会もその刊行物の内容からして、ミステリーとはあまり縁のない出版社だった、という気がする。
原書房といえば、世界統計年鑑とか貿易年鑑とかの年鑑物、あるいは情報戦を含む戦争もの専門の出版社、というイメージが強い。事実、その手の原書房の本なら、剛爺も山ほど持っている。まさか、その原書房が本格ミステリーのシリーズを始めるとは、夢にも思っていなかった。きっと、編集部に熱烈なミステリーのファンが、おられるのだろう。陰ながら、応援させていただく。
一方国書刊行会だが、これは明治期に始まる埋もれた古刊本、写本などの復刻叢書で著名な〈国書刊行会〉とは、違う会社なのだろうか? あの国書刊行会なら〈燕石十種〉や〈甲子夜話〉〈近世文藝叢書〉〈百家説林〉〈文明源流叢書〉など、膨大な叢書シリーズで知られる老舗である。しかし、あまりにも彼我の出版物が異なるところを見れば、社名は引き継いだにしても別の会社、とみるべきだろう。
どちらにせよ、いまの国書刊行会もそれなりにユニークな出版社で、ことに内外の幻想文学に対する力の入れ方は、剛爺の阪神タイガースに対する入れ込み方に、決してひけをとらない。これまで〈世界幻想文学大系〉「ドイツロマン派全集〉など、この分野の貴重な翻訳本をたくさん世に送り出した。〈ドイツロマン派全集〉は、全集ものの苦手な剛爺が予約までして、全期全巻買い揃えた数少ない全集ものの一つである。
国書刊行会も最近は、〈江戸の伝奇小説〉〈江戸怪異綺想文学大系〉など、国内の古典にまで触手(?)を伸ばし始めた。よほどの好事家が、社内に棲息しているらしい。こちらもまた、ひそかに応援させていただくことにする。
阪神といえば、八月下旬東京ドームの阪神巨人戦を見に行ったとき、入り口で偶然北村薫、有栖川有栖の両氏に出くわした。いやな予感がしたら、案の定阪神は惜敗した。悄然として球場を出ると、また出口で北村有栖川組と鉢合わせした!
どうも、同じ阪神ファンに球場で出くわすと負ける、というジンクスはいまだに破られないようだ。
|